バイカモ Ranunculus nipponicus  (Makino) Nakai
  var. submersus  Hara
キンポウゲ科 キンポウゲ属 バイカモ亜属
水生植物 > 沈水植物  環境省絶滅危惧TB類(EN)・兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (滋賀県・小河川 2008.9/8)

Fig.2 (兵庫県播磨地方・用水路 2015.5/3)

河川、水路、湧水池などで沈水状態で生育する常緑の多年草。浮葉は生じない。
冷水域を好むため、西日本では主に河川の上流域や湧水のある水域に生育する。
茎は節かた不定根をだして水底に定着、匍匐しながら水流になびき、時に長さ2m近く伸びる。
葉は互生、葉柄の長さ0.5〜2cm、葉身はまず3裂し、さらに細裂して糸状の裂片に別れ、全体の輪郭は扇状または筆状。
葉身の全長は3〜7cm。托葉は広く有毛で、葉柄に合着し托葉鞘となる。
花茎は葉腋から伸び、長さ3〜5cm、花弁はふつう5個で白色、花径約1.5cm、雄蕊、雌蕊ともに多数、花床には長毛がある。
花後、花茎は伸びる。果実は集合してつき、各痩果は長さ1.5〜2.2mm、背面に短毛がある。
花は水中にあって開花できなくとも結実する。
葉柄の長さ、葉身のサイズや形状は産地によりきわめて変異に富む。
水位低下時には陸生形をつくるが、この場合でも浮葉をつくらない。

バイカモには数変種がある。
中国山地の河川上流域に生育するヒルゼンバイカモ(var. okayamensis)は葉全体の大きさが8cm、葉柄の長さも3cmに達する。
兵庫県下では明らかにヒルゼンバイカモと思われるものや、バイカモとの中間的なものが見られる。
北海道と本州中部地方には浮葉を形成するイチョウバイカモP. maackianus)が生育する。
他に同亜属のものにヒメバイカモR. kadzusensis)が本州の一部と九州に稀産する。花径約1cm、花茎があまり伸びず1〜3cmで、果実は無毛。
他に北海道と東北にはチトセバイカモR. yezoensis)、北海道東部にのみ生育するオオバイカモR. ashibetsuensis)がある。
近似種 : ヒルゼンバイカモ、ヒメバイカモ
■分布:北海道、本州(日本固有種)
■生育環境:河川、水路、湧水池など。
■花期:5〜10月
■西宮市内での分布:分布しない。県下では中北部の自然度の高い水域に見られ、但馬地方には自生地が多い。
             かつては丹波地方の湧水由来の溜池の底に群生する光景が見られたというが、圃場整備によって溜池では見られなくなった。

Fig.3 全草標本。(兵庫県香美町・水路 2010.10/11)
  葉は互生してつき、中〜下部の葉腋からは分枝し、上部の葉腋からは花茎を出す。

Fig.4 茎と葉の様子。(滋賀県・小河川 2008.9/8)
  茎は2〜3回分枝するが柔らかく折れやすい。折れた茎は、節から発芽、発根して繁殖する。

Fig.5 葉と托葉鞘。(兵庫県香美町・水路 2010.10/11)
  葉は細裂し、葉柄基部には托葉が合着した托葉鞘があって、茎と分枝する枝基部や花茎基部をゆるく包む。

Fig.6 バイカモの葉。(兵庫県香美町・水路 2010.10/11)
  葉身は基部寄りから3裂し、さらに2〜3回細裂し、最終分裂は2裂し、裂片は糸状、先端は鈍頭。
  托葉鞘の筒部先端はふつうやや耳状に張り出すが、切形となるものもある。古い葉では托葉鞘が欠落していることがある。

Fig.7 水上で開花するバイカモ。(滋賀県・小河川 2008.9/8)
  水温が一定する湧水河川に生育するためか花期は長く、春から晩秋まで開花が見られる。

Fig.8 バイカモの花冠。(滋賀県・小河川 2008.9/8)
  花弁はふつう5個だが、4個つけるものも多く、ときに6個のものも見かける。
  右の5弁の花には小型のハエの仲間が訪花している。

Fig.9 花冠の拡大。(滋賀県・小河川 2009.6/11)
  花弁は広倒卵形、下部は黄色。花弁基部には1個の蜜腺があり、くぼんで周囲が杯状に少し盛り上がっている。
  雄蕊はやや扁平なさじ状〜棍棒状で10〜20個つき、葯は淡黄色。雌蕊は中央に40〜50個かたまってつく。

Fig.10 花弁4個の花。(滋賀県・小河川 2008.9/8)

Fig.11 花冠上で訪花昆虫を待つクモの仲間。(滋賀県・小河川 2008.9/8)
  蜜を求めにやってくる訪花昆虫を待っているが、これではクモがいるのがまる解りだ。

Fig.12 花茎。(滋賀県・小河川 2008.9/8)
  花茎は葉腋から生じる。
  右に見える花期が終わり雄蕊が脱落したものは、開花中の左のものよりも花茎がかなり伸びている。

Fig.13 未熟な果実。(滋賀県・小河川 2009.6/11)
  果実は桑実状の集合果で球形。径4〜6mm。痩果は背部に短い剛毛を持ち、扁広倒卵形、長さ1.5〜2.2mm。先端は小突起状で少し曲がる。

Fig.14 若い個体。(兵庫県播磨地方・用水路 2015.5/3)
  水中のアオハイゴケのマットが生育の温床になっていた。葉の裂片は長さに較べて幅が広い。

生育環境と生態
Fig.15 水量のある河川に生育するバイカモ。(滋賀県・河川 2008.9/8)
湧水のある河川でも、比較的流量も多く、流速も速い場所では花冠は水上に上げることはできずに水中にあった。
このような場合でも結実が見られるというが、確認には至らなかった。
同所的に見られる水草はナガエミクリ、クロモ、ヤナギモの占める割合が高い。

Fig.16 小河川の浅瀬に生育するバイカモ。(滋賀県・小河川 2008.9/8)
浅く流速の遅い場所ではほとんどの花は水上で開花していた。
浅水域では水草の種類は豊富で、ナガエミクリ、クロモ、ヤナギモのほか、ササバモとセンニンモが目立って多く、エビモ、沈水形のミズハコベや、
河床の至る所で複数種の蘚類が見られる。

Fig.17 溝の止水のミズハコベの間から花茎を上げたバイカモ。(滋賀県・溝 2009.6/11)
寺院脇の小さな溝が止水となっていて、そこに浮葉をつけたミズハコベとともに生育している。
湧水が豊富に湧出する地域では、このような小さな溝でも多数の水生植物が生育している。

Fig.18 湧水起源の水路に生育するバイカモ。(兵庫県香美町・水路 2009.10/10)
すでに開花期は終わっているが、水中には水上に花茎を上げない閉鎖花を沢山つけていた。

Fig.19 山間の中河川に群生するバイカモ。(兵庫県新温泉町・河川 2011.5/26)
流れになびく水中茎からは多数の花茎が上がり、流水の勢いで水中で開花しているものも多い。
見事な群生であるが、河川堤防は水際まできれいに草刈りされており、共生する種は判らなかった。
撮影に訪れている人も多い。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
田村道夫・清水建美 1982. キンポウゲ科キンポウゲ属バイカモ亜属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.75〜77. pl.74. 平凡社
村田源 2004 キンポウゲ科バイカモ属. 北村四郎・村田源 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.248〜249. pl.12. 保育社
大滝末男 1980. バイカモ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 84〜85. 北隆館
角野康郎 1994 バイカモ亜属. 『日本水草図鑑』 p.104〜105. pl.106〜107. 文一統合出版
城川四郎 2001. バイカモ. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 702. 神奈川県立生命の星・地球博物館
安藤義範・奥本康之・国井秀伸 2008. 兵庫県田君川のバイカモにおける花弁枚数の変異と訪花昆虫. 水草研究会誌 90:8〜14
小菅桂子・黒崎史平・高野温子 2001. バイカモ. 兵庫県産維管束植物3 キンポウゲ科. 人と自然12:138. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:26th.June.2015

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