ヒメフラスコモ | Nitella flexilis Agardh | シャジクモ科 フラスコモ属 |
水生植物 > 淡水藻類 絶滅危惧T類(CR+EN) ・ 兵庫県RDB 要調査種 |
Fig.1 (兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) 湖沼、溜池、ときに水田に生育する輪藻類。湖沼におけるシャジクモ帯の主要構成種。 雌雄同株。藻体は30cmからときには1mにも達し、水深の深い場所では栄養繁殖を行う。 節間細胞は直径1mm以下で、5〜15cmの長さであり、小枝の長さよりも長い。 小枝は細く短くて、長さ2〜4cm、1回分枝している。 最終枝は2〜4本つき、1細胞性で細胞の先端は急に狭くなり鋭頭〜鈍頭。 性器をつける枝は不結実枝に比べてややコンパクトな状態となっている。 性器は小枝の節部につく。雌器はときに群生し、長さ650〜900μ、幅600〜750μ。 卵胞子は暗赤褐色〜黒色、長さ450〜550μ、幅400〜500μ、らせん縁は翼状に突出して5〜7本。 卵胞子膜は粗い粒状模様または平滑。 【メモ】 本種はカタシャジクモとともに世界各地の湖沼でのシャジクモ帯の主要構成種として知られている。兵庫県下では溜池に産し、比較的記録が多い。 オウフラスコモ(var. longifolia)は節間細胞は直径1mmと太く、小枝よりも短いが、遺伝子解析によりヒメフラスコモと同一種とする見解がある。本州〜九州。 カラスフラスコモ(N. opaca)やタチフラスコモ(N. paucicostata)は小枝は1回分枝するが、雌雄異株である。 近似種 : カラスフラスコモ、 タチフラスコモ ■分布:北海道、本州、四国 ・ 世界各地 ■生育環境:湖沼、溜池、ときに水田など。 ■卵胞子成熟期:9〜11月 ■西宮市内での分布:市内では確認していない。 |
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↑Fig.2 全草標本。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) 雌雄同株で、藻体は30cmからときには1mにも達するが、溜池のものは30〜50cmほどのものが多い。 |
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↑Fig.3 主軸の節間細胞は分射枝の小枝よりも長い。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) オウフラスコモでは節間細胞よりも、分射枝の小枝のほうが長くなる。 |
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↑Fig.4 主軸の直径は1mm以下となる。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) オウフラスコモでは主軸の直径が1mmに達する。 |
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↑Fig.5 分射枝。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) 分射枝の小枝は長さ2〜4cm、1回分枝する。分枝が少ないため、自生地では一見シャジクモ属のようにも見える。 最終枝は2〜4本ある。 |
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↑Fig.6 最終枝。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) 最終枝は1細胞性で、細胞の先端は急に狭くなり鋭尖頭〜鈍頭。 |
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↑Fig.7 性器は小枝の各節につく。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) |
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↑Fig.8 雄器(左)と雌器(右)。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) 雌器は長さ650〜900μ、幅600〜750μ。環境省RDBの記述では「らせん細胞が先端部で大きくふくれる」とあるが、大きなふくらみは見られない。 小冠細胞は脱落して見られないのかもしれない。 |
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↑Fig.9 基部付近から出たコンパクトな結実枝。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) 短い分射枝を持ち、混み合った枝に多くの性器をつけていた。 |
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↑Fig.10 コンパクトな結実枝の一部拡大。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) 分枝部に複数の雌器がついている。一つ上向きの雌器があるが、ここでも小冠細胞が見られなかった。 受精後は小冠細胞が早期に脱落するのかもしれない。 |
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↑Fig.11 卵胞子。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) 1目盛は100μ。卵胞子は長さ450〜550μ、幅400〜500μ。 |
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↑Fig.12 卵胞子の拡大。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) 卵胞子のらせん縁は翼状に突出して5〜7本ある。文献では色は「暗赤褐色〜黒色」とあるが、地色が白色だった。 |
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↑Fig.13 卵胞子の表面。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) 微妙な起伏はあっても、ほとんど平滑のように見えるが・・・ |
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↑Fig.14 透過光で見た卵胞子膜。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) 卵胞子を潰してデンプン粒を追い出すと、驚いたことに膜の地色は暗赤褐色となった。 表面は粗い粒状の突起というより、毛羽立ったような突起があるように見えた。 |
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↑Fig.15 分射枝基部から結実枝を多数出したもの。(兵庫県播磨地方・溜池 2014.6/24) ホナガフラスコモのようにも見えるが、最上部の分射枝の節には性器があり、最終枝は1細胞である。 結実枝の節には雌器が双生している。 |
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↑Fig.16 雌器のらせん細胞先端はふくらんでいる。(兵庫県播磨地方・溜池 2014.6/24) |
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↑Fig.17 赤褐色の卵胞子。(兵庫県播磨地方・溜池 2014.6/24) らせん間は薄っすらと白い膜があるが、赤褐色であることが明瞭である。 |
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↑Fig.18 Fig.17の卵胞子膜。(兵庫県播磨地方・溜池 2014.6/24) 多くの部分は平滑で一部に粒状突起があるように見える。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.19 小さな池に群生するヒメフラスコモ。(兵庫県三田市・池沼 2014.11/7) 山間にある渓流に面した鉱物質で中栄養な湿地に付随する、浅く小さな腐植栄養気味の池にマット状に群生している。 池にはフトヒルムシロが生育し、湿地では酸化第二鉄が析出した赤褐色の細流が流れ、ヒメシダ、タニガワスゲ、タチスゲ、ゴウソ、 オニスゲ、ミヤマシラスゲ、オタルスゲ、アイバソウ、オオハリイ、イヌシカクイ×オオハリイ、チゴザサ、ハイチゴザサ、イヌノヒゲ、 コウガイゼキショウ、アオコウガイゼキショウ、イグサ、ホソイ、ヘラオモダカ、ヤノネグサ、コケオトギリ、サワオトギリ、セリ、 ニシノオオタネツケバナ、オヘビイチゴ、コモチマンネングサ、ニョイスミレ、キツネノボタン、アカバナなどが生育している。 湿地の構成種からみて、はるか以前は水田であった可能性も考えられる。 |
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Fig.20 溜池に生育するヒメフラスコモ。(兵庫県播磨地方・溜池 2014.6/24) 谷津の際奥にある小さな池にミズオオバコ、イトモ、イヌタヌキモなどと混生しており紛らわしい。 貧栄養〜腐植栄養質の自然度の高い溜池で、ヒツジグサ、ジュンサイ、フトヒルムシロ、ハリイ、ホソバヘラオモダカなどが生育している。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 廣瀬弘幸・山岸高旺, 1997. シャジクモ科フラスコモ属. 『日本淡水藻類図鑑』 780〜829. 内田老鶴圃 須賀瑛文, 2001. 輪藻類. 浜島繁隆・土山ふみ・近藤繁生・益田芳樹編著 『ため池の自然』 81〜101. 信山社サイテック 笠井文絵・石本美和, 2011. 『しゃじくもフィールドガイド』 pp.17. 独立行政法人国立環境研究所 野崎久義, 2000. ヒメフラスコモ. 日本の絶滅のおそれのある野生生物 植物U. 環境省 兵庫県, 2010 1 植物(3)藻類@淡水藻類. 『兵庫の貴重な自然 兵庫県版レッドデータブック2010(植物・植物群落)』 170〜175. (財)ひょうご環境創造協会 最終更新日:14th.Nov.2014 |