ミズキャラハゴケ Taxiphyllum barbieri  (Card. et Copp.) Iwats. ハイゴケ科 キャラハゴケ属
沈水植物・蘚類/外来種
Fig.1 (西宮市・水路 2015.4/8)

主に水中に黄緑色〜鮮緑色のマットをつくる蘚類。
主茎は長く伸びて、ややまばらに不規則に羽状分枝する。側枝は主茎から左右水平方向に伸びる。
葉は茎や枝に対して平面的に並び、卵形で、やや左右非対称、葉縁の一方が内曲し葉面はわずかにくぼむことが多く、ふつう長さ1.5〜2mm。
葉先は鈍頭〜円頭、ときにやや鋭頭あるいは短尖頭。葉中央部に比べ、葉先の細胞は短くなり、とりわけ葉頂の数細胞は短い矩形となる。
葉身中央部の細胞は線形でやや蛆虫状となり薄膜、長さ50〜100(〜140)μ、幅(4〜)8〜10μ、細胞壁上端はわずかに突出する傾向があるが、平坦な場合もある。
中肋の発達程度にはかなりの変異が見られ、全く欠く場合や1〜2叉状でごく短いものがほとんどだが、ときに葉頂の1/4に達することがある。
翼部の細胞はほとんど分化せず、明瞭な区画を作らない。葉縁は平坦で、舷は分化せず、全周に明瞭な微鋸歯があり、特に葉頂では顕著となる。
茎葉と枝葉の大きさや形状はほとんど変わらない。偽毛葉は線状披針形〜披針形、基部で2〜4細胞幅、ときに広披針形となる。
水中あるいは湿った陸上で胞子体をつけることがある。

【メモ】 本種はアクアリウムで「Java moss(ジャワ・モス)」の名で流通しているもので、CO2添加が不必要なモスとして国内のみならず各国で人気があるようだ。
     和名や学名で検索してもヒットするのは軒並みアクアリウム関係のものばかり。素晴らしく繁茂した水槽内の画像は出るが、自然状態で自生している画像は一向に表れなかった。
     国内では1960年代にすでに商品名「ウィロー・モス」として流通しはじめたという。その当時は水中の蘚類は全て「ウィロー・モス」と呼ばれていたようだ。
     「Willow moss」をそのまま和訳すればヤナギゴケとなるが、アクアリウムの商品として流通していたのは、ヤナギゴケ、クロカワゴケと本種であり、
     このため商品名「ウィロー・モス」とされているものは必ずしもヤナギゴケではなく、この混乱は現在でも一部でそのまま続いているようである。
     ところで、西宮市に産するものはアクアリウムからの逸出も考えられるが、両産地ともに渓流から水を引いており在来である可能性も疑われる。
     偽毛葉がほとんど発達しないという共通点があり、今後、他地域の同一条件の場所で本種が生育していないか注意する必要があるが、急流中であるがゆえに偽毛葉の発達が
     悪いのではという可能性も考えられ、水槽を立ち上げて育成確認すべきなのだが、基本的にやりっぱなしの性格の上に、輪をかけてどうも最近はこまめに世話をするような根気がなく、
     やるとなれば西宮市内のヌマエビやメダカを入れたいという思いも強く、一方では隙があればフィールドに出たいという病に冒され、どうするべきが最も手っ取り早いのか、
     特に大義名分もなく、どんな草本が水中化できるのかもおおよそ解っているので、モチベーションをどう維持していくかを含めて、目下思案中である。
     ミズキャラハゴケを育成するとすれば、同時進行で同属の水辺に見られるキャラハゴケやコウライイイチイゴケの水中育成水槽を立ち上げるべきなのは言うまでもない。
近似種 : キャラハゴケコウライイチイゴケ、 サナダゴケ、 トガリバイチイゴケ、 ユガミタチヒラゴケ

関連ブログ・ページ 『Satoyama, Plants & Nature』 冬の水辺

■分布:東南アジア(?)。
■生育環境:湿地、水中など。
■西宮市内での分布:中部と北部の水路内の2ヶ所で確認した。両水路ともに急流中に見られ、水面上から確認しにくい上に、仮根で基物に固着して大きな蘚体を採集しがたい。

Fig.2 全体。(西宮市・水路 2015.2/12)
  主茎は長く伸びて、ややまばらに不規則に羽状分枝する。側枝は主茎から左右水平方向に伸びる。主茎・側枝は葉を含めて幅2〜3mm。

Fig.3 側枝の拡大。(西宮市・水路 2015.2/12)
  葉は茎や枝に対して平面的に並ぶ。

Fig.4 枝葉。1目盛=26μ。(西宮市・水路 2015.2/12)
  茎葉と枝葉の大きさや形状はほとんど変わらず、卵形、やや左右非対称。
  葉縁の一方が内曲し葉面はわずかにくぼむことが多く、ふつう長さ1.5〜2mm。

Fig.5 偽毛葉。(兵庫県篠山市・用水桶 2015.2/4)
  新しい芽の脇には、3角状卵形〜披針形の偽毛葉があり、長いものでは1mmに達する。

Fig.6 枝葉。(兵庫県丹波市・溜池畔の湧水溜り 2014.2/13)
 
  葉縁はほとんど全縁、中肋は1本で葉の半ば以上、ときに3/4に達する。
  この葉は3mmを超えているので、長い方だろう。

Fig.7 葉身細胞。(兵庫県篠山市・用水桶 2015.2/4)
  葉身細胞は線形で薄膜、幅5〜8μ、長さ59〜107μ、平滑。1目盛は1.6μ。

Fig.8 翼細胞。(兵庫県丹波市・溜池畔の湧水溜り 2014.2/13)
  翼細胞は方形〜長方形で薄膜。

Fig.9 茎の表皮細胞。(西宮市・用水路 2015.3/25)
  茎の表皮細胞は小型で厚膜。

Fig.10 凵iさく)。(兵庫県丹波市・溜池畔の湧水溜り 2013.2/12)
  水中でも凾つけていた。剳ソは長く赤褐色、凾ヘかたむき、剿Xも赤褐色。

Fig.11 剳ソ基部の苞葉。(兵庫県篠山市・水路 2015.2/4)
  苞葉は外側のものは小さく卵形、最も内側のものは線形で長さ約2.5mmだった。

Fig.12 凾フ拡大。長さ約2mm。(兵庫県篠山市・水路 2015.2/4)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.13 休耕田の水路の側壁に着生したヤナギゴケ。(西宮市・休耕田の用水路 2015.2/17)
溜池直下にある休耕田の水路側壁に凾上げた集団が生育していた。
同じ水路の側壁にはナガサキホウオウゴケ、コツクシサワゴケなどが付着していた。

Fig.14 農地の溝に生育するヤナギゴケ。(西宮市・農地の溝 2015.3/25)
湧水の多い丘陵谷津の排水用の溝に陸生〜沈水状態で帯状に生育している。
溝は湧水のために常に涸れることがないため、常緑性の浮草であるムラサキコウキクサとともに生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
岩槻善之助, 1972. ヤナギゴケ科. 岩槻善之助・水谷正美『原色日本蘚苔類図鑑』 p.204〜212. Fig.103. 保育社

最終更新日:5th.Apr.2015

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