ミズオオバコ Ottelia alismoides  (L.) Pers. トチカガミ科 ミズオオバコ属
水生植物 > 沈水植物  環境省絶滅危惧U類(VU)・兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (西宮市・湛水休耕田 2009.8/14)

Fig.2 (兵庫県加東市・溜池 2013.9/26)

Fig.3 (西宮市・水田 2016.8/10)

主に水田・用水路・溜池などで沈水状態で生育する1年草。
普通オオバコに似た披針形〜広卵形で柄のある葉を根生するが、成長時期や生育環境によって変異が多く
用水路や溜池のやや深い場所に生育するものは大型化する。大型化したものは短い茎があることが明瞭となる。
葉の色も様々で、初夏の用水路で見られる幼株は鮮やかな緑色をしているが、成株は紫味を帯びたり
水田で生育する株などはくすんだ緑〜赤褐色のものまでと、変異に富む。

かつては溜池などに産する大型のものはオオミズオオバコとされたが、大きさの変異は連続的であり、現在では同一種とされる。
また単性花を多数同一の花茎につけるものがセタカミズオオバコとされていたが、これもミズオオバコの性表現の一型であるという。

花期は盛夏〜秋。水上に向かって花茎を伸ばし、水面または水上で白〜淡紅色の3枚の花弁をもった花を開花する。花は一日花。
雄蕊は普通3本、雌蕊は6本で、ガク片は3枚で果実が熟した後も残る。
花弁の下には長い子房が目立ち、普通特徴的な数個のひだを持った翼がある。
開花後、花茎は曲がりくねるように水中へと沈み、果実は水中で熟す。
果実は長楕円形〜楕円形で、生育状態のよいものでは4cmを超える。
果実が熟すと、子房に付属していたひだのある翼は花床に残り、成熟した子房だけが切り離されて水面に浮かび上がる。
浮かび上がった果実は1〜2日で溶けはじめ、粘液に包まれた種子が多数現れる。
種子は、果肉の砕片と粘液とで集合している間は水面を浮遊しているが、そのしがらみが解けると水底に沈む。
しかし、ときには花床に付いたまま溶ける果実もあり、その場合は溶けた果肉と種子が一旦水面へと浮かび上がる。
この粘液には発芽抑制物質が含まれるという説があるが、果実が割れたのを気づかぬまま放置していたプラケース内で、
晩秋の暖かい日に一斉に発芽していたことから、そのような物質は含まれないということが解る。浮遊して分布を広げるための手段だろう。
また、このことから種子は冬の寒さにあてなくとも、水と一定の水温があればいつでも発芽することが解る。種子は乾燥状態にも耐える。

室内の水槽内で育てると、冬場も枯れることなく3週間〜2ヶ月置きに開花・生長を繰り返し大きく成長する。
おそらく、熱帯の地域では多年草化して水中で大型化し、通年開花・結実・発芽しているのだろう。
水田のものは落水されると枯れてしまうが、湿田の素掘りの水路内などでは晩秋の頃まで生育・開花しているものが観察される。
夏の水田を点々と彩るミズオオバコの花は里山の環境保全のシンボルともなり得る美しさを持っている。
本種の種子は土壌中にシードバンクを形成することが知られており、除草剤の使用を控えることによって
水田で復活する可能性は充分にある。

■分布:アジアの熱帯〜温帯域、オーストラリア
■生育環境:水田・用水路・溜池など、特に里山環境を良好に残す地域に多い。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:西宮市内では北部の環境の良い棚田数ヶ所で生育している。
             生育地の水田では多数の個体が見られることが多い。

Fig.4 用水路で開花した個体。(愛知県長久手町・用水路 2005.8/11)

Fig.5 棚田で開花した個体。(西宮市・水田 2008.8/2)
  水田の縁や水路、溜池などで強光を浴びるものは草体が赤紫色を帯びることが多い。
  自然度の高い棚田に生育しているもので、右隣にはヤナギスブタが見える。

Fig.6 落水した水田で開花した個体。(西宮市・水田 2007.9/3)
  落水した水田でも湿り気があれば、小型化して暫らくの間は開花しつづける。
  周囲には干からびたシャジクモやヒロハトリゲモなどが見られる。

Fig.7 湿田内の素掘りの水路で秋まで開花しているミズオオバコ。(西宮市・湿田内水路 2006.10/5)
 草体は褐色味を帯び、葉を広げた直径は40cm以上と大型化していて、特徴的な襞を持つ果実を多数付けている。

Fig.8 上の画像の個体の、花茎に付いた状態の果実。(西宮市・湿田内水路 2006.10/5)
 顕著なひだのある数個の翼が付属する。

Fig.9 冬期もさほど水温の下がらない室内水槽では、枯れることなく開花・結実を繰り返す。(自宅水槽内 2007.3/25)
  *注:長い線形の水草は沈水葉のナガエミクリ。

Fig.10 水槽内で開花したミズオオバコ。いったん開花しはじめると、しばらくの間は次々に花茎をあげる。(自宅水槽内 2007.5/21)
  *注:細い線形の水草はハタベカンガレイの沈水葉。

↑左:Fig.11 花茎から分離した直後の果実。頂部にガク片が残る。(自宅水槽内 2007.3/7)
  右:果実の縦断面。子房室内は粘液で満たされ、種子が縦に並ぶ。

Fig.12 左:水面上で溶けた果実を掬い上げて撮影。種子はしばらく果肉と粘液につつまれて浮遊する。(自宅水槽内 2007.2/24)
    親株元に全ての種子が落ちてしまうのを避け、分布域を広げるための有効な手段となっているのだろう。
  右:種子は2mm〜2.5mm。表面に縮れた軟毛を密生し、種皮は見えない。(自宅水槽内 2007.3/7)
    このような毛は繁殖にどのように役立っているのだろう。果肉の粘液を長く保持するためのものだろうか?

Fig.13 水田で生育中のミズオオバコ。(西宮市・水田 2007.8/2)
  葉身は生長初期では長披針形で、少しずつ葉幅の広い葉を出すようになり、花期が近づくと広披針形のオオバコ様の形になる。
  画像ではその過程の様子がよく判る。下方に付いた葉ほど初期のもので、最下の葉身は細長い。
  *注:周囲の細い糸状の葉を輪生する草体はシャジクモ。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.14 ミズオオバコの群生する水田。(西宮市・水田 2007.8/15)
この水田にはひときわ深い水路が掘られていて、そこには大きな草体のミズオオバコが沢山生育していて驚かされた。
画像には美しい沈水葉を展開したミズオオバコの他に、オモダカとクログワイが写っているが、この水田で確認できた種は、
オモダカ、ウリカワ、コナギ、イボクサ、クログワイ、イヌホタルイ、マツバイ、ハリイ、イグサ、テンツキ、メアゼテンツキ、タマガヤツリ、
アゼガヤツリ、ミズガヤツリ、ヒンジガヤツリ、ヒデリコ、ヒナガヤツリ、コウガイゼキショウ、キツネノボタン、タガラシ、タネツケバナ、
タカサブロウ、ヌマトラノオ、ヤナギタデ、ミゾソバ、ヤノネグサ、アキノウナギツカミ、アゼナ、キカシグサ、チョウジタデ、ミゾハコベ、
ミズマツバ、サワトウガラシ、イチョウウキゴケ、ハタケゴケ、コハタケゴケ、シャジクモ、ホッスモ、ヒロハトリゲモなど。
水田雑草と水草を合わせた出現種数は市内の水田の中でも随一で、かつては市内南部の丘陵部に広がっていた水田も、
このように植生豊富だったことだろう。
畦や斜面にはアキノタムラソウ、ワレモコウ、ウド、ヤマラッキョウ、ツルボなどが生育し、里山の水田の原風景を見た思いがした。
水田を所有する農家の方に話を伺うと、農薬は田植え前に除草剤を使用するのみで、田植え以降はいっさい農薬を使用しないとのことだった。
最近では水田の有機・減農薬農法への傾向も見られ、今後ミズオオバコのような美しい水田雑草が
各所で見られるようになるかもしれない。

Fig.15 減農薬水田中に生育するミズオオバコ。(西宮市・水田 2008.8/2)
ウリカワ、コナギ、イボクサ、キクモ、ヤナギスブタ、ヒロハトリゲモなどが生育する水田。
2007年度に比べて個体数は増加し、生育する種数も増加した。

他地域での生育環境と生態
Fig.16 溜池内に群生するミズオオバコ。(兵庫県丹波市・溜池 2009.10/13)
圃場整備が進んだ中山間地の水田ではミズオオバコがなかなか見ることができないが、時に谷津田奥の溜池にミズオオバコが群生していることがある。
ここでは水底にミズニラ、ホソバミズヒキモとともに底が見えないほど群生していた。
画像右上には水中で開花した花が小さく写っている。

Fig.17 溜池で群生開花したミズオオバコ。(兵庫県加東市・溜池 2013.9/8)
山間棚田の最上部にある植生豊富な溜池でミズオオバコが群生し、開花していた。
ここではイボクサ、アオコウガイゼキショウ、キクモ、ホソバヘラオモダカ、オオハリイが抽水〜沈水状態で生育し、ヒツジグサ、フトヒルムシロが
発達した浮葉植物群落を形成している。水中にはイヌタヌキモ、イトモが生育していた。

Fig.18 水田内の素掘りの水路に生育するミズオオバコ。(兵庫県三田市・水田 2011.9/17)
山裾の小規模な扇状地に広がる水田で、地下水が多いためか素掘り水路内には水が溜まり、多くの水田雑草が見られた。
ここではコナギ、チョウジタデなどの普通種に混じってスブタ、ヤナギスブタ、ヒロハトリゲモ、シャジクモなどとともにミズオオバコが生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
牧野富太郎, 1961 ミズオオバコ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 699. 北隆館
大滝末男, 1974. ミズオオバコ. 『水草の観察と研究』 83. ニュー・サイエンス社
大滝末男, 1980. ミズオオバコ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 178〜179. 北隆館
山下貴司, 1982. トチカガミ科ミズオオバコ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.3. pls.2. 平凡社
角野康郎, 1994. ミズオオバコ. 『日本水草図鑑』 p.28〜29. pls.30〜31. 文一統合出版
内山寛. 2001. トチカガミ科ミズオオバコ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 173. 神奈川県立生命の星・地球博物館
北村四郎, 2004 トチカガミ科ミズオオバコ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.397. pl.104. 保育社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ミズオオバコ. 『六甲山地の植物誌』 214. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ミズオオバコ. 『近畿地方植物誌』 197. 大阪自然史センター
大滝末男・釘嶋喜治, 1983. セタカミズオオバコの観察(第2報). 水草研究会会報 11:10〜12.
角野康郎・中村俊之・高野温子 2007. ミズオオバコ. 兵庫県産維管束植物9 トチカガミ科. 人と自然18:87. 兵庫県立・人と自然の博物館
松岡成久, 2010. ミズオオバコ. 西宮市産植物補遺、並びに西宮市内に生育する要注目種(その2). 兵庫県植物誌研究会会報 85:4. 兵庫県植物誌研究会

最終更新日:8th.Dec.2016

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