オオヌマハリイ(ヌマハリイ) Eleocharis mamillata  H.Lindb.
 var. cyclocarpa  Kitag.
カヤツリグサ科 ハリイ属
湿生〜抽水植物  兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (兵庫県但馬地方・湿地 2015.8/16)

山地の湿地や池畔に群生する多年草。長い匍匐根茎があり、まばらに有花茎を束生する。
有花茎は太く、高さ30〜60cm、幅2〜4mm、円柱形で平滑、やわらかくてつぶれやすく、内部は綿状の組織がある。
基部の鞘は赤褐色。小穂は披針形または卵形で、長さ1〜2.5cm、鈍頭、濃褐色。
鱗片は狭卵形、長さ約5mm、薄膜質、鈍頭、濃褐色。
痩果は広倒卵形、長さ1.5〜2mm、横断面は凸レンズ状、熟すと淡褐色となり、光沢がある。
柱基は小さく、長さは痩果の約1/3、3角錐状、やや円い。
刺針状花披片は5〜6本あり、痩果の1.3〜2倍長、下向きにざらつく。柱頭は2岐。染色体数2n=16,20。

クロハリイ(E. kamtschatica f. reducta)は海岸近くの湿地に生育。鱗片の長さ3.5〜4mm。柱基は痩果とほぼ同長。北海道、関東〜東海地方、九州。
スジヌマハリイ(E. equisetiformis)は有花茎に縦溝が目立ち、幅1.5〜2mm。刺針状花披片は4本かまたは無い。東北〜関東地方、四国、九州。
コツブマハリイ(E. parvinux)は小型で、有花茎は細く幅1〜2mm。痩果は長さ1〜1.2mm。東北南部〜東海地方。
近似種 : クロハリイ、スジヌマハリイ、コツブヌマハリイ

■分布:北海道、本州、九州 ・ 朝鮮半島南部、中国東北部、サハリン、ウスリー
■生育環境:山地の湿地、池畔など。
■果実期:6〜10月
■西宮市内での分布:西宮市内には分布していない。

Fig.2 全草標本。(兵庫県但馬地方・湿地 2015.7/19)
  有花茎は太く、高さ30〜60cm、幅2〜4mm、円柱形で平滑、やわらかくてつぶれやすく、画像の茎も折れ痕が目立つ。
  地下には長い匍匐根茎があり、まばらに有花茎を束生する。

Fig.3 基部と匍匐根茎。(兵庫県但馬地方・湿地 2015.7/19)
  有花茎の基部は2ときに3個の膜質の鞘に包まれる。匍匐根茎は長く伸び、径約3mmで、やややわらかく、節間は膜質の鞘に覆われる。

Fig.4 有花茎。(兵庫県但馬地方・湿地 2015.7/19)
  有花茎は太く、幅2〜4mm、円柱形、濃淡のある条線は見られるが、表面は平滑。

Fig.5 有花茎の横断面(上)と縦断面(下)。(兵庫県但馬地方・湿地 2015.7/19)
  有花茎内部は縦のごく薄い隔壁が上下に連続的に伸びて6角状の数個の管室をつくり、各管室を不連続的な横の綿状の隔壁が仕切る。
  これらの隔壁は有花茎を内部から支持するもので、管室は空気の通り道となっている。横の隔壁が綿状組織となっているのは空気を通すため。
  隔壁は薄く、内部に充実部がほとんどないため、有花茎はやわらかくなる。維管束組織は外壁に接して、ほぼ等間隔に並んでいる。

Fig.6 小穂。(兵庫県但馬地方・湿地 2015.7/19)
  小穂は披針形または卵形で、長さ1〜2.5cm、鈍頭、濃褐色。小穂と有花茎の境界は一旦くびれて太さは連続しない。

Fig.7 小穂の拡大。(兵庫県但馬地方・湿地 2015.7/19)
  鱗片はらせん状につき、狭卵形、長さ約5mm、薄膜質、鈍頭、濃褐色。

Fig.8 痩果。(兵庫県但馬地方・湿地 2015.7/19)
  痩果は広倒卵形、長さ1.5〜2mm、横断面は凸レンズ状、熟すと淡褐色となり、光沢がある。
  柱基は小さく、長さは痩果の約1/3、3角錐状、やや円い。

Fig.9 痩果の拡大。(兵庫県但馬地方・湿地 2015.7/19)
  痩果表面には縦長の隆起模様が見られる。刺針状花披片は5〜6本あり、痩果の1.3〜2倍長、下向きにざらつく。

Fig.10 柱頭は2岐する。(兵庫県但馬地方・湿地 2015.7/19)

Fig.12 開花中の小穂。(兵庫県但馬地方・湿地 2015.7/19)
  各小花は雌性先熟。

Fig.13 結実後の群落。(岡山県北東部・湿地 2009.9/26)
  結実後は小穂をつけない無花茎を上げる。おそらく、無花茎で光合成して根茎に栄養分を蓄積しているのだろう。

生育環境と生態
Fig.13 湿地に群生するオオヌマハリイ。(兵庫県但馬地方・湿地 2015.7/19)
兵庫県では高所の湿地の地下水位の高い箇所に群生地が点在している。
ここでは泥炭の堆積もある程度見られるやや高所の湿地に水路周辺に抽水状態に群生していた。有花茎の多くは数日前の台風で倒伏している。
同所的にショウブ、チゴザサ、ミズバショウ、ヤマミゾソバ、ミズオトギリ、アカバナ、エゾシロネ、ヒメシダが生育し、周辺部ではエゾアブラガヤ、ヤマテキリスゲ、
ミヤマシラスゲ、ヒメカンガレイ、シカクイ、ミズチドリ、ヤノネグサ、オタカラコウなどが生育し、水路内ではフトヒルムシロが見られる。
かつてはミツガシワがわずかに見られたが、ここ数年は確認できていない。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科ハリイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.171〜173. pls.154〜155. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ハリイ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.224〜231. pl.57. 保育社
堀内洋. 2001. カヤツリグサ科ハリイ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 423〜430. 神奈川県立生命の星・地球博物館
谷城勝弘, 2003 ハリイ属. 千葉県資料研究財団(編)『千葉県の自然誌 別編4.千葉県植物誌』 866〜878. 千葉県資料研究財団
星野卓二・正木智美, 2011 ハリイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 610〜637. 平凡社
谷城勝弘, 2007 ハリイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 140〜151. 全国農村教育協会
角野康郎, 2014 ハリイ属. 『日本の水草』 179〜188. 文一統合出版
村田源. 2004. オオヌマハリイ. 『近畿地方植物誌』 163. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ヌマハリイ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:169.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:22nd.Aug.2015

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