ナガサキテングサゴケ Riccardia nagasakiensis  (Steph.) S.Hatt. スジゴケ科 スジゴケ属
湿生〜沈水苔類
Fig.1 (兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2015.3/8)

湿岩上、湧水泉、流水中などに群生する苔類。
暗緑色。茎は長さ1〜4cm、幅0.5〜1mm、ややまばらに規則的に2〜3回羽状に分枝する。
ときに茎と枝に幅の狭い翼部がある。茎は厚さ10〜14細胞で、表皮細胞は内部細胞に比べて著しく小さい。
仮根は茎の下部の腹面にまばらにつく。
油体は表皮細胞にはなく翼部と内部細胞にあり、1細胞に1〜3個、円〜楕円形、15〜20μ、微粒の集合。

クシノハスジゴケ(R. multifida subsp. decrescens)は茎が短く、枝は扇状に展開し、表皮細胞に油体はなく、最終枝は中央部を除いて翼部となり葉緑体が少ない。
ミヤケテングサゴケ(R. latifrons subsp. miyakeana)は茎の表皮細胞が内部細胞とほぼ同大またはやや小さく、表皮細胞の油体は小さく、油滴状。
ナミガタスジゴケ(R. chamedryfolia)は茎の表皮細胞は内部と同大またはすこし小さく、油体は表皮と内部ともにあって1細胞に1〜5個、7〜12μ。
ヒメテングサゴケ(R. planiflora)はナミガタスジゴケに似るがより小型で、仮根が茎基部から先端まで密生し、基物に張り付く。
近似種 : クシノハスジゴケ、 ミヤケテングサゴケ、 ナミガタスジゴケ、 ヒメテングサゴケ

■分布:本州(関東以西)、四国、九州、沖縄 ・ ジャワ。
■生育環境:湿岩上、湧水泉、流水中など。
■西宮市内での分布:現在のところ確認していないが、見つかる可能性が高い。

Fig.2 群生。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2015.3/8)
  岩上や水際、水中に重なるように密に群生する。

Fig.3 全体。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2015.3/8)
  茎は長さ1〜4cm、ややまばらに規則的に2〜3回羽状に分枝する。

Fig.4 茎の拡大。1目盛=26μ。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2015.3/8)
  茎の幅0.5〜1mm、茎と枝の縁には1細胞層からなる幅の狭い翼部がところどころに見られる。

Fig.5 仮根。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2015.3/8)
  仮根は茎の下部の腹面にまばらにつき、無色透明。

Fig.6 茎中部の断面。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2015.3/8)
  図鑑に書かれているような10〜14細胞の厚味はなく、8細胞程度の厚味だった。中型の個体だからかもしれない。
  内部細胞は大きく、表皮細胞は内部細胞に比べて著しく小さい。葉緑体は表皮細胞に偏在する。
  内部細胞に油体が見えないのは、表皮細胞2細胞程度の薄さで切断したため、油体は破壊されるか流出している。
  左上から3番目の細胞内に破壊された油体の粒が見える。内部細胞は薄膜でトリゴンはほとんどない。

Fig.7 表皮細胞。1目盛=1.6μ。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2015.3/8)
  表皮細胞は縦に長い5〜6角状の細胞で、長さ40〜80μ、幅20〜34μだった。内部には油体はなく、薄膜でトリゴンはない。

Fig.8 油体。1目盛=1.6μ。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2015.3/8)
  油体は表皮細胞にはなく翼部と内部細胞にあり、1細胞に1〜3個、円〜楕円形、15〜20μ、微粒の集合。
  ただし、翼部の細胞のなかには油体を欠くものも多く見られた(次項参照)。

Fig.9 翼細胞での油体の分布。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2015.3/8)
  油体は最外縁の細胞には見られず、外から2番目の細胞から見られるものが多いが、全く欠く部分もある。
  2番目にある油体も葉状体の中央寄りの細胞膜近くにあることが多く、翼には外部からの衝撃や破損を遠ざけようとする緩衝機能があると考えられる。
  油体を欠く翼細胞は内部に葉緑体もないことが多く、最外の翼細胞は防護壁のような役割を担っていることを思わせる。
  流水中にも生育するナガサキテングゴケが、気象・環境変化による影響を受けやすい流水速度(=水圧)に対して翼を形成することで適応したとみることもできる。

他地域での生育環境と生態
Fig.10 細流脇で混生するナガサキテングサゴケ。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2015.3/8)
管理放棄されて堤体も切られた溜池跡湿地の細流脇に、他の苔類とともに混生していた。
ここではフソウツキヌケゴケ、オオウロコゴケと混生しており、細流内にある転石にも付着している。
湿地内の他の場所ではコマチゴケ、アブラゴケ、クシノハゴケとの混生が見られた。
周辺にはヒメイヌノハナヒゲ、イトイヌノヒゲ、ニッポンイヌノヒゲ、モウセンゴケ、ミミカキグサ、ホザキノミミカキグサなどの小型の
湿生植物が多く見られ、画像中にもヒメイヌノハナヒゲのこぼれ落ちた痩果が見えている。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
岩槻善之助, 1972. スジゴケ科. 岩槻善之助・水谷正美『原色日本蘚苔類図鑑』 p.356〜359. pl.47. Fig.183. 保育社

最終更新日:17th.Mar.2015

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