ヤナギゴケ Ambiystegium riparium  (Hedw.) B. S. G. ヤナギゴケ科 ヒメヤナギゴケ属
抽水〜沈水植物・蘚類
Fig.1 (兵庫県篠山市・溜池畔 2015.2/27)

Fig.2 (兵庫県篠山市・溜池畔 2015.2/27)

Fig.3 (兵庫県篠山市・溜池の水中 2015.3/21)

湿岩上、湿地、水中などに緑色〜褐色の群落をつくる蘚類。環境による変異が著しい。
葉は長い卵形で、先はしだいに細くなり、鋭頭、長さの変異が多く、ふつう1.5〜2mm。
葉縁はほとんど全縁、中肋は1本で葉の半ば以上、ときに3/4に達する。
葉身細胞は線形で薄膜、幅5〜8μ、平滑。翼細胞は方形〜長方形で薄膜。
剳ソは長く、凾ヘかたむき、剋浮ヘ完全。染色体数n=10。
近似種 : ミヤマカギハイゴケ、ウカミカマゴケ
関連ブログ・ページ 『Satoyama, Plants & Nature』 水中のコケ

■分布:本州 ・ 世界に広く分布。
■生育環境:湿岩上、湿地、水中など。
■西宮市内での分布:中部から北部にかけての水田周辺の用水路内などに生育している。
              市内のものは葉が短いが、丹波地方など内陸のものは葉の長いものが多い。

Fig.4 止水中に生育していたもの。(兵庫県丹波市・溜池畔の湧水溜り 2013.2/12)
  茎は這い、不規則羽状に分枝しする。仮根のようなものは見られず、枯れた硬い茎が泥中でからまりながら定着していた。
  枝葉の長さは変異に富むようで、この時はかなり長いものが多かったが、次の年にはやや長い程度のものが多く見られた。

Fig.5 水深のある止水中のもの。(兵庫県篠山市・用水桶 2015.2/4)
  茎は直立して長く伸び、分枝は少なかった。

Fig.6 分枝した枝。(兵庫県丹波市・溜池畔の湧水溜り 2013.2/12)
  枝葉は開出せず、斜開してつく。枝葉は少し鎌状に曲がっていた。

Fig.7 偽毛葉。(兵庫県篠山市・用水桶 2015.2/4)
  新しい芽の脇には、3角状卵形〜披針形の偽毛葉があり、長いものでは1mmに達する。

Fig.8 枝葉。(兵庫県丹波市・溜池畔の湧水溜り 2014.2/13)
  葉は長い卵形で、先はしだいに細くなり、鋭頭、長さの変異が多く、ふつう1.5〜2mm。
  葉縁はほとんど全縁、中肋は1本で葉の半ば以上、ときに3/4に達する。
  この葉は3mmを超えているので、長い方だろう。

Fig.9 葉身細胞。(兵庫県篠山市・用水桶 2015.2/4)
  葉身細胞は線形で薄膜、幅5〜8μ、長さ59〜107μ、平滑。1目盛は1.6μ。

Fig.10 翼細胞。(兵庫県丹波市・溜池畔の湧水溜り 2014.2/13)
  翼細胞は方形〜長方形で薄膜。

Fig.11 茎の表皮細胞。(西宮市・用水路 2015.3/25)
  茎の表皮細胞は小型で厚膜。

Fig.12 凵iさく)。(兵庫県丹波市・溜池畔の湧水溜り 2013.2/12)
  水中でも凾つけていた。剳ソは長く赤褐色、凾ヘかたむき、剿Xも赤褐色。

Fig.13 剳ソ基部の苞葉。(兵庫県篠山市・水路 2015.2/4)
  苞葉は外側のものは小さく卵形、最も内側のものは線形で長さ約2.5mmだった。

Fig.14 凾フ拡大。長さ約2mm。(兵庫県篠山市・水路 2015.2/4)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.15 休耕田の水路の側壁に着生したヤナギゴケ。(西宮市・休耕田の用水路 2015.2/17)
溜池直下にある休耕田の水路側壁に凾上げた集団が生育していた。
同じ水路の側壁にはナガサキホウオウゴケ、コツクシサワゴケなどが付着していた。

Fig.16 農地の溝に生育するヤナギゴケ。(西宮市・農地の溝 2015.3/25)
湧水の多い丘陵谷津の排水用の溝に陸生〜沈水状態で帯状に生育している。
溝は湧水のために常に涸れることがないため、常緑性の浮草であるムラサキコウキクサとともに生育している。

Fig.17 用水路脇のしみ出し部に群生するヤナギゴケ。(西宮市・用水路脇 2015.3/25)
水路脇のコンクリートの隙間から湧水がしみ出し、そこでコツクシサワゴケとともに生育している。
これらの蘚類のマットが湿生植物生育の温床となって、そこにミズタネツケバナ、イヌガラシ、ムシクサ、オランダミミナグサなどが生育する。

他地域での生育環境と生態
Fig.18 湧水溜りで生育するヤナギゴケ。(兵庫県丹波市・溜池畔の湧水溜り 2013.2/12)
溜池畔に湧水と溜池の水が混ざった水溜りがあり、そこに群生している。
水中にはヤナギゴケのほかに、ヤノネゴケも見られ、チドメグサ、セリ、ミズユキノシタ、ムツオレグサが生育し、ミソハギ、ミゾソバなどが抽水状態で見られる。

Fig.19 Fig.18の5月の遠景。(兵庫県丹波市・溜池畔の湧水溜り 2010.5/14)

Fig.20 水路壁面と底面に生育するヤナギゴケ。(神戸市・水路 2014.12/15)

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
岩槻善之助, 1972. ヤナギゴケ科. 岩槻善之助・水谷正美『原色日本蘚苔類図鑑』 p.204〜212. Fig.103. 保育社

最終更新日:5th.Apr.2015

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