アカバナ Epilobium pyrricholophum  Franch. et Savat. アカバナ科 アカバナ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県芦屋市・溜池畔 2006.9/22)

Fig.2 (兵庫県神河町・溝 2010.10/2)

休耕田・用水路脇・溜池畔・水田周辺・中栄養な湿地などの湿った場所に生育する多年草。
草体全体に腺毛があり、高さは15〜90cm。葉は卵形〜卵状披針形で葉柄はなく基部が茎を抱き、茎の下部では対生し、
花茎が分枝する上部では互生し、低い鋸歯がある。
生育良好な勢いのある株は地中に根茎を横走して繁殖する。
夏〜秋口にかけて、茎の上部の葉腋に紅〜淡紅色の花を多数つける。
花弁は4枚で先端が2裂し、長さ5〜10mm。雌蕊の柱頭は白く棍棒状で目立つ。
花弁の下には4つの萼片と長い子房があり、この部分が花後に果実となる。子房には腺毛が生える。
果実は刮ハで晩秋〜冬になると裂開し、種髪の付いた種子が多数現れる。
種子は風に乗って分散し、落下した場所が湿った場所であれば間もなく発芽し、その発芽率は高い。
地域によっては休耕田などでよく見られる種のひとつだが、最近では減少傾向にある。

山地帯の湿地には近縁種のイワアカバナE. cephalostigma)が生育する。雌蕊の柱頭は頭状で、花柱は柱頭よりもはるかに長い。

■分布:日本全土、朝鮮半島、中国
■生育環境:休耕田・用水路脇・溜池畔・水田周辺・中栄養な湿地。
■花期:7〜9月
■西宮市内での分布:西宮市内では北部地域の休耕田、溜池畔などで見られるがあまり多くない。

Fig.3 花茎の上部葉腋に付く花。(兵庫県加東市・休耕田 2008.10/19)
 花期になると葉や茎は赤味を帯びるため、アカバナの名がついたとされる。
 萼片は花後に剥落し、棒状の子房が残る。

Fig.4 つぼみや花の萼筒、花茎上部には腺毛が目立つ。(西宮市・池畔の湿原 2006.10/20)

Fig.5 雌蕊の柱頭は白く棍棒状で目立つ。花弁の外縁は中央で切れ込む。(西宮市・池畔の湿原 2007.8/19)

Fig.6 花の白味の強い個体。地域により花色の濃淡があるようだ。
  この個体は滋賀県高島町の自生個体から種子採取したもの。(自宅植栽 2006.8/12)

Fig.7 4裂した刮ハ。種髪をつけた種子が縦に並んでいるのがわかる。(自宅植栽 2006.11/16)
 

Fig.8 裂開した刮ハと種髪をつけた種子。(自宅植栽 2006.11/16)


Fig.9 種髪を取り除いた種子の大きさは1.5mm前後。(自宅植栽 2006.11/16)
  右画像は種子の拡大。乳頭状突起が縦に並ぶ。

Fig.10 越冬するアカバナ。(自宅植栽 2006.12/23)
 花茎をつけた株は枯れて、根元付近にコンパクトな株の塊をつくる。

Fig.11 冬期に自生地付近の林道脇に見られた実生苗。(西宮市・湿った林道脇 2007.1/18)
  実生は開花した年の晩秋から翌年の春まで散発的に発芽するのが観察される。
  沈水状態で発芽するものほど、発芽時期は遅い。
  また、湛水と渇水を頻繁に繰り返す環境下で発芽した株は生長状態が非常に良い。

Fig.12 春の湿原で生長を始めたアカバナ。(西宮市・水辺湿地林内 2007.4/13)
  まだ鋸歯ははっきりせず、赤味を強くおびたものが多い。

Fig.13 成長期のアカバナ。(西宮市・水辺湿地林内 2007.5/27)
  この時期のアカバナはほとんど対生の葉を付ける。
  茎や葉裏は赤味を帯びることが多く、葉の基部は茎を抱き、葉には鋸歯が目立つ。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.14 池畔にある広範囲な湿原に自生するアカバナ。(西宮市・池畔の湿原 2006.10/20)
湿原の表面は水が流れている。後方で倒れこんでいるのはミソハギ。
池ではイヌタヌキモの生育も見られるが、夏場は池の水面をヒシが覆い、岸辺にはヒメガマとカンガレイが繁茂する。
この池には上流から流入した土砂が長年かけて堆積した部分が湿原となっていて、上部にハンノキを主とした水辺湿地林が形成され、
その下部一帯に広がるチゴザサ、イグサ、ミゾソバ、ヤノネグサを主体とした中栄養な湿原にかなりの個体が成育している。
湿原内にはミソハギ、ヌマトラノオ、ヒメシロネなどの丈の高い湿生植物が所々に群落をつくり、
それらの群落間の比較的草丈の低い草本が被植する部分に、ミズオトギリ、ヘラオモダカなどとともに自生している。
この池を取り巻く林道上には種子が飛散した実生苗が多く見られるが、湿原内の株よりも貧弱で、開花数は少なく丈も低い。
アカバナほか特異的な種が自生するこの湿原は、市内で唯一の大規模な中栄養型の低層湿原として、今後も保存されるべきものであると思う。

他地域での生育環境と生態
Fig.15 棚田の放棄水田でアキノウナギツカミ、ツユクサ、ミソハギなどとともに生育するアカバナ。(岡山県真庭市 2006.9/27)

Fig.16 休耕田に点在するアカバナ。(兵庫県篠山市 2010.7/31)
谷戸に連続する休耕田のうちの1枚にアカバナ群落が見られた。
休耕田は湛水状態とまではいかないが、薄い表水があり、ヤノネグサ、セリ、ホソバノヨツバムグラ群落によって密に覆われている。
画像中に見られる濃赤紫色の草体がアカバナで、まだ開花はしていなかった。前方と後方の白い花はセリのもの。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北川政夫, 1982. アカバナ科アカバナ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.264〜266. pls.240〜242. 平凡社
北村四郎・村田源, 2004 アカバナ科アカバナ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 37〜40 保育社
牧野富太郎, 1961 アカバナ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 423. 北隆館
村上司郎. 2001. アカバナ科アカバナ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1035〜1037. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. アカバナ. 『六甲山地の植物誌』 163. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. アカバナ. 『近畿地方植物誌』 63. 大阪自然史センター
黒崎史平, 2003. 兵庫県産維管束植物5 アカバナ. 人と自然・兵庫県立人と自然の博物館 14:146〜147.

最終更新日:4th.Oct.2014

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