アケボノソウ Swertia bimaculata  (Sieb. et Zucc.) Hooker et Thomson リンドウ科 センブリ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池畔 2006.10/7)

Fig.2 (兵庫県篠山市・細流脇 2015.9/14)

湿地や溜池畔、渓流畔、山地の細流脇などに生える2年草。高標高地ではやや湿った草原でみられることもある。
生育1年目は長い柄のあるロゼット状の根生葉で過ごし、オオバコに似るが、葉の付き方を見ると、あくまで対生であるため区別がつく。
茎は直立し高さ60〜90cm、横断面は4角形。葉は対生で長卵形、長さ5〜12cm、鋸歯はなく全縁、3脈が目立つ。
初年度の根生葉には長い葉柄があるが、開花年度の茎に付く葉には、ほとんど葉柄がない。
葉腋から盛んに分枝し、先端に1個の花をつける。開花期には根生葉は枯れてしまっている。
花は白色で径2cm。花冠は基部近くまで5裂し、先端部には黒点が多数あり、中央部には淡緑色で2つの円形の密腺がある。
地下部では黄色味を帯びたやや太い側根を多数出す。

【メモ】 シカの不嗜好植物として一時は山地寄りの溜池や渓流畔に多く見られたが、最近ではアケボノソウまで食害されつつある。
     シカの増殖を食い止めることは難しく、今後もしばらくは湿生植物の受難の日々が続きそうである。
     西宮市内にはまだシカは侵入しておらず、今のところアケボノソウをはじめとした湿生植物は安泰である。
■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 中国、ヒマラヤ
■生育環境:湿地、溜池畔、渓流畔など。
■花期:9〜10月
■西宮市内での分布:六甲山系に多い。北部の溜池畔や渓流沿いなどでも稀に見られる。

Fig.3 直立した茎から沢山の花茎を分枝し、多くの花を咲かせる。(兵庫県三田市・溜池畔 2006.10/7)

Fig.4 花は分枝した枝先に1個づつ付き、花冠は5つに深裂する。(西宮市・砂防ダム内の湿地 20076.9/13)
  雌蕊柱頭は短く2岐し、外側にやや湾曲している。雄蕊は5本で葯は灰〜灰白色。
  花冠の色は白色、先端部には黒点が散在し、花弁の中央には2つの淡緑色の丸い斑紋がある。
  この斑紋は密腺で、ハチやハエなどがよく集まる。

Fig.5 訪花昆虫をねらって、雄蕊の陰に潜むハナグモの仲間。(西宮市・砂防ダム内の湿地 20076.9/13)
  赤や紫といった色の花弁をもった花では、ハナグモは花弁の裏側で待機していることが多いが、そのような際立って
  目立つ色がないアケボノソウの場合は、花弁上で待機していることも多い。
  まるで、自分の体色と葯の色がよく似ていることを知っているかのようだ。
  画像では、花弁上の密腺から密が出ている様子がわかる。

Fig.6 葉は対生し、長卵形で全縁、3〜5脈が目立つ。開花年度に茎に付く葉には、ほとんど葉柄はない。(兵庫県三田市・溜池畔 2006.10/7)
  各葉腋から1本づつ茎を分枝し、全草の形は円錐形に近くなる。

Fig.7 冬枯れたアケボノソウの刮ハの残骸。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.2/8)
  自生地では立ち枯れたままで、刮ハの残骸だけを茎の先端に残した状態のものを良く見かける。
  刮ハは2裂して開いた状態だが、まだ少量の種子が残っている。

Fig.8 種子は不定形で、表面には網目模様があり、網目の稜上がところどころで不規則に翼状に張り出す。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.2/8)
  種子の発芽率は50%程度で、春・秋はよく育ち栽培し易いが、街中では夏期の暑さに弱い。

Fig.9 根生葉をロゼット状に開いたアケボノソウの越冬態。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.2/8)
  オオバコによく似ているが、この時期にはオオバコは枯れており姿は見られず、また葉の付き方が対生を保っていることから区別できる。
  葉にはやや厚味があり、冬期とはいえ瑞々しい印象を受ける。

Fig.10 2年目、初夏のアケボノソウ。(西宮市・渓流畔 2007.5/5)
  茎を立ち上げる直前の株。越冬中のものに較べると葉柄は短くなっている。

Fig.11 茎を立ち上げたアケボノソウ。(西宮市・渓流畔 2007.6/5)
  前の画像のちょうど1ヶ月後の姿。

Fig.12 初年度株の成長期の様子。(西宮市・渓流畔 2007.8/2)
  根生葉には葉柄があり、葉先は丸く、開花状態の成株とは程遠い姿をしている。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.13 砂防ダム内に成立した湿地周辺の斜面に生育するアケボノソウ。(西宮市 2006.9/13)
アケボノソウが生育しているのは細流が流れ込む緩斜面で、一面をヤマイに覆われている。
後方に見えている白い房状の花はヒヨドリバナ。

Fig.14 渓流畔で越冬するアケボノソウの群落。(西宮市 2007.1/13)
冬期はアケボノソウだけが常緑であるために目立ち、群生地を発見しやすい。

他地域での生育環境と生態
Fig.15 溜池畔の湿地に生育するアケボノソウ。(兵庫県篠山市・湿地 2013.9/22)
溜池畔の流れ込み付近の湿地にイグサ、ミヤマシラスゲとともに生育している。
周辺にはミズニラ、エゾハリイ、イヌシカクイ、ハナビゼキショウ、ヒロハノコウガイゼキショウ、アオコウガイゼキショウ、ミミカキグサ、
ミズユキノシタ、サワトウガラシ、ヒメジソ、イヌセンブリなどが生育している。

Fig.16 細流畔に生育するアケボノソウ。(兵庫県篠山市・細流脇 2015.9/14)
シカの食害の多い地域で、食害によってコントロールされたこの地域の山地渓流畔の典型的な例の一つ。
アケボノソウとマツカゼソウが目立ち、ネコノメソウ、ミゾホオズキ、ヒメチドメ、サワハコベ(ツルハコベ)などの匍匐性の草本や
わずかなオオバタネツケバナが見られ、周辺からイワヒメワラビが侵入している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔, 1981. リンドウ科センブリ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.33〜35. pls.29〜30. 平凡社
北村四郎・村田源・堀勝, 2004. リンドウ科センブリ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花類』 p.214〜217. pl.65. 保育社
牧野富太郎, 1961 アケボノソウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 496. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984 アケボノソウ. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 pl.59. p.61. 保育社
田中京子. 2001. リンドウ科センブリ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1130〜1133. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. アケボノソウ. 『六甲山地の植物誌』 176. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. アケボノソウ. 『近畿地方植物誌』 51. 大阪自然史センター
福岡誠行・布施静香・黒崎史平 2004. アケボノソウ. 兵庫県産維管束植物6 リンドウ科. 人と自然15:110. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:5th.Aug.2016

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