アリノトウグサ Haloragis micrantha  (Thunb.) R. Br. アリノトウグサ科 アリノトウグサ属
湿生植物

Fig.1 (三田市・溜池畔 2008.6/15)

溜池畔、湿地、草地、畦などの日当たりのよい場所に生育する小型の多年草。
茎の下部は地表をはって分枝し、節からひげ根と直立する茎を出し、高さ10〜40cmになる。
葉は対生し、上部の葉はときに互生し、無柄または短い柄があり、卵形〜卵円形、基部は円形、鈍鋸歯があり、長さ6〜12mm、幅4〜10mm、無毛。
花序は頂生する複総状花序で、枝は開出する。花は小さく、下向きにつく。萼筒は倒卵状球形、4裂片は3角形、長さ約1mm。
花弁は4個、長楕円形で、黄褐色〜紅色、萼裂片より長い。花は雄性先熟で、雄花期が終わると葯と花弁は脱落して、4個の羽毛状の柱頭が開く。
果実は石果でほぼ球形、8肋条がある。

【メモ】 本種は本来、向陽裸地を好む種であるが、溜池畔や地すべり地や崩壊地の湿地の常在種であるため湿生植物の項に収録した。
■分布:日本全土 ・ 温帯〜熱帯
■生育環境:溜池畔、湿地、草地、畦など。
■果実期:7〜9月
■西宮市内での分布:市内では中部の丘陵部から北部の里山まで広く見られる。

Fig.2 茎と葉。(西宮市・溜池畔 2010.8/13)
  茎下部は地表をはってよく分枝する。葉はふつう対生する。

Fig.3 Fig.2の一部拡大。(西宮市・溜池畔 2010.8/13)
  葉は卵形〜卵円形で鈍鋸歯があり、長さ1cm前後、無毛。

Fig.4 分枝した茎と花茎。(西宮市・溜池畔 2010.8/13)
  分枝した茎は直立する。花茎も同様に直立するが、大きく広がった花序は斜上気味となる。

Fig.5 複総状花序。(西宮市・溜池畔 2010.8/13)
  分枝した複数の総状花序で、枝は開出し、両性花をまばらにつける。

Fig.6 雄花期の花。(西宮市・溜池畔 2010.8/13)
  花はごく小さく、下向きにつき、雄性先熟。画像は上からつぼみ、雄花開花、雄花花後。
  雄花期が終わると花弁と雄蕊はしおれて落ちる。

Fig.7 雌花期の花。(西宮市・溜池畔 2010.8/13)
  雌花期では羽毛状の柱頭が萼列片の間から現われる。

Fig.8 紅葉した草体。(兵庫県たつの市・溜池畔 2010.12/6)
  晩秋から冬期にかけて、寒風に晒される場所に生育するものは紅葉していることが多い。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.9 棚田にある果樹園の土手に群生するアリノトウグサ。(西宮市・果樹園土手 2010.7/5)
粘土質の土手に群生しているもので、土手を広く覆っている。土手の下部は湿っており、上部は乾いているが、斜面をまんべんなく覆っていた。
土壌が粘土質であることから、乾いているように見えても、毛管現象によって少量でも水分が供給されているのであろう。
土手にはネザサが少量生育し、チガヤ、アオウシノケグサ、オミナエシ、ヒメハギ、アオスゲ、ケショウアザミ、カナビキソウが見られた。

他地域での生育環境と生態
Fig.10 溜池土堤に生育するアリノトウグサ。(兵庫県加西市・溜池土堤 2011.7/22)
ツルヨシ、アゼスゲ、ヤマイが生育する溜池土堤の水際近くに帯状に群生している。
アリノトウグサ群落より水際よりには湿生植物が生育するが、上側ではカナビキソウ、ワレモコウ、リンドウなどの草原性植物がみられた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北川政夫, 1982. アリノトウグサ科アリノトウグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.270. pls.246. 平凡社
村田源, 2004 アリノトウグサ科アリノトウグサ属. 北村四郎・村田源 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.34〜35. pls.10. 保育社
村上司郎. 2001. アリノトウグサ科アリノトウグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1046〜1047. 神奈川県立生命の星・地球博物館
村田源. 2004. アリノトウグサ. 『近畿地方植物誌』 63. 大阪自然史センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. アリノトウグサ. 『六甲山地の植物誌』 164. (財)神戸市公園緑化協会
布施静香・角野康郎・黒崎史平 2003. アリノトウグサ. 兵庫県産維管束植物5 アリノトウグサ科. 人と自然14:148. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:4th.Sept.2011

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