イトアオスゲ Carex puberula  Boott カヤツリグサ科 スゲ属 ヌカスゲ節
湿生植物
Fig.1 (西宮市・林縁の小湿地 2007.5/13)

山地の林縁、草地などに生育する多年草。
匍匐枝ななく、ややゆるく叢生する。基部の鞘はアオスゲよりもやや薄い。
葉は直立し、花茎と同長またはやや短く、幅1〜2mm、半常緑。
花茎は高さ10〜30cm(稀に50cm)、雄小穂は線形で、長さ5〜20mm、幅は1.5mm以下。
雌小穂は2〜3個、最下のものは長さ5〜20mm、花数は少なく10花まで。苞の葉身は、花序よりも短く、最下のものには鞘がある。
ふつう根際に雌小穂はつけないが、稀に生じることがある。
鱗片の芒は短い。果胞の脈は細くやや不明瞭で、長さ2.5〜3mm、まばらに毛がある。

ヌカスゲ節のものは似たものが多いが、湿地生のものは少数で、マメスゲやクサスゲ程度である。
ヌカスゲ節にはイトアオスゲに酷似する種は多く、かなりの情報量となるのでここでは省略し、いずれヌカスゲ節についてのページを設ける予定。

■分布:北海道、本州、九州、対馬
■生育環境:山地の林縁、草地など。
■果実期:4〜6月
■西宮市内での分布:六甲山系の山麓、北部の山間の湧水起源の小湿地に見られた。

Fig.2 全草標本。(西宮市・林縁草地 2010.5/9)
  匐枝はない。基部は淡色。葉は花茎と同長またはやや短い。

Fig.3 花序。(西宮市・林縁の小湿地 2007.5/13)
  あまり陽があたらない生育環境であるためか、あるいは時期が遅いのか、花序には雌小穂が1個しかついていなかった。
  雄小穂もすっかり枯れてしまっている。今年はもう少し早めに自生地を訪れたい。

Fig.4 雌小穂。(西宮市塩瀬町名塩・林縁の小湿地 2007.5/13)
  鱗片は緑白色で、中肋は緑色、短い芒がある。

Fig.5 果胞(左)と痩果(左)。(西宮市・林縁の小湿地 2007.5/13)
  果胞は長さ2.5〜3mm。まばらに短毛が生え、口部は凹形。
  痩果は長卵形〜卵形で、橙褐色、光沢があり、柱基が付属体となって残り、短い嘴が直立する。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.6 オオミズゴケ群落中に生育するイトアオスゲ。(西宮市・林縁の小湿地 2007.5/13)
林縁にある、湧水によって生じた小湿地に自生していたが、確認できたのはこの1個体のみだった。
イトアオスゲは本来、山地の林縁や草地に生育するもので、このような環境に生育するものは例外的なのかもしれない。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
小山鐡夫, 2004 イトアオスゲ. 北村四郎・村田源・小山鐡夫『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.275. 保育社
勝山輝男. 2001. スゲ属ヌカスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 459〜472. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男, 2005. ヌカスゲ節. 『日本のスゲ』 170〜251. 文一総合出版
谷城勝弘, 2007. スゲ属ヌカスゲ節. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 72〜94. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. イトアオスゲ. 『六甲山地の植物誌』 242. (財)神戸市公園緑化協会

最終更新日:23rd.May.2010

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