オニスゲ Carex dickinsii  Franch. et Sav. カヤツリグサ科 スゲ属 オニナルコ節
湿生植物
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池直下の湿地 2007.6/6)

Fig.2 (西宮市・休耕田の水路脇 2011.6/1)

日当たりのよい貧〜中栄養な湿地に生育する中型のスゲで、夏緑性の多年草。抽水状態で生育しているもこともある。
スゲ属のなかでは開花期は遅く、開花後には果胞が膨らんで目立つ。
匍匐枝を盛んに伸ばし、画像のように自生地では群生を見ることが多い。
基部の鞘は淡色。
オニスゲの雌小穂、および果胞は独特の形をしており、他種と間違えることはまずない。

オニナルコスゲC. vesicaria)がやや似るが、雌小穂は花茎頂部にかたまってつかず、互いに離れてつくことにより区別できる。
近年、アメリカ東部原産の近縁種カレックス・モーニングスターC. grayi)が切花用として流通している。

【メモ】2009年までは兵庫県RDB Cランク種とされていたが、自生地が多数発見され、標本数も多いためレッドリストから除外された。
■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島
■生育環境:湿地や細流脇。
■花期:5〜7月
■西宮市内での分布:北部の棚田周辺の休耕田、湿地、用水路脇、溜池跡など、6ヶ所で自生を確認している。市内ではやや稀。

Fig.3 全草標本。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.6/21)
  匍匐枝を伸ばして群生する。葉幅4〜8mm。有花茎は20〜50cm。

Fig.4 基部。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.6/21)
  基部の鞘は淡色。斜め下方に向かって匍匐枝が伸びている。

Fig.5 開花中の雌小穂。(西宮市・休耕田の水路脇 2009.5/29)
  雌性先熟で雌小穂の雌花群から開花する。開花といっても3岐した雌蕊柱頭が果胞から出るだけである。

Fig.6 雌小穂は茎の頂部に固まって付く。(西宮市・棚田脇の小川 2007.6/5)
  画像のものは花後しばらく経った花序で、果胞がかなり膨らんでいる。

Fig.7 雌小穂。(西宮市・休耕田 2007.6/10)
  鱗片は淡緑色で鋭頭。果胞に比して小さく、果胞が膨らむとほとんど間に埋もれる。

Fig.8 オニスゲの痩果。(西宮市・休耕田 2007.8/2)
  卵型で3稜あり、頂部は非常に長い湾曲した嘴状になる。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.9 休耕田の湿地状の場所で生育するオニスゲ。(西宮市 2007.6/10)
やや叢生しているが、もとは一株だったものが匍匐枝を伸ばして殖えたものだろう。
画像には写っていないが、株元周辺に湧水が滲み出しているようで、オオミズゴケのマットが見られる。
日照環境は半日陰〜日陰地で、細流脇にハリガネスゲ、オオミズゴケのマットの上にはヒメアギスミレ、株元にはオオチドメが群生し、
オニスゲはゴウソとともに生育している。
画像をご覧のとおり、オニスゲのすぐ脇までセイタカアワダチソウが進出してきている。

Fig.10 棚田の脇の流れに見られたオニスゲ。(西宮市 2007.6/28)
流れにはドジョウツナギ、ムカゴニンジン、タニガワスゲ、タチスゲが見られ自然度は高い。

Fig.11 湿地に生育するオニスゲ。(西宮市 2007.8/2)
ここでは叢生して比較的大きな株をつくっていた。
サワシロギク、サワギキョウ、ヤチカワズスゲが多く、アギスミレ、カキランなどの湿生植物も豊富。
ヌマガヤ、トダシバも多く、周囲にはハンノキ、イヌツゲ、キガンピなどの樹木が侵入しており遷移が進みつつある。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. オニスゲ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.150. pl.127. 平凡社
小山鐡夫, 2004 オニスゲ. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.296〜297. pl.74. 保育社
牧野富太郎, 1961 オニスゲ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 806. 北隆館
勝山輝男. 2001. スゲ属オニナルコ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 478〜480. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男, 2005 オニナルコ節. 『日本のスゲ』 336〜343. 文一総合出版
谷城勝弘, 2007 スゲ属オニナルコ節. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 110〜111. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. オニスゲ. 『六甲山地の植物誌』 243. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. オニスゲ. 『近畿地方植物誌』 155. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. オニスゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:144.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:25th.Feb.2014

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