ウメバチソウ Parnassia palustris  Linn. var. multiseta  Ledeb. ユキノシタ科 ウメバチソウ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・湿地 2007.10/18)

Fig.2 (兵庫県養父市・高原の草地 2010.10/11)

ウメバチソウは普通、山地〜高山の日当たりのよい湿った草原や湿地に生える多年草。
市内では氷河期の遺存種として湧水によって涵養される湿地や、渓流沿いに生育が見られる。
生育初期や成長期では長い葉柄を持つ根生葉をロゼット状に付けるが、花期になると根生葉は枯れてしまうことが多く、
葉柄のない葉を1枚付けた花茎を上げて開花する。
花には5本の雄蕊の他に、15〜22本の糸状に裂開した仮雄蕊があり、その先端部には蜜を出さない腺体がある。
この仮雄蕊は花粉を媒介する昆虫類を集めるのに役立っていると言われている。


■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 台湾、東アジア北部、樺太、千島
■生育環境:湿地や山地の湿った草原。
■花期:8〜11月
■西宮市内での分布:六甲山周辺の湿地や渓流の湧水の滲み出す崖などに隔離分布する。自生地は少なく、稀。
              各自生地で遺伝子レベルでの地域個体群の分化が起こっている可能性が考えられる。

Fig.3 ウメバチソウの花。(西宮市・湿地 2006.11/5)
  花弁は普通5枚で淡緑色の脈があり、雄蕊5本。
  雄蕊の間からは先端に腺体もち分枝する仮雄蕊が生ずる。
  この仮雄蕊の様子が、梅の花を想像させることからウメバチソウの名がついた。

Fig.4 ウメバチソウの花にきたハナアブの仲間。(神戸市・湿地 2011.10/16)
  仮雄蕊に魅かれたのか、ハナアブの仲間(ホソヒラタアブか?)が訪花していた。
  画像の花はまだ雄蕊が開いていない。

Fig.5 成長期の個体。(西宮市・湿地 2007.7/19)
  花茎を上げる前は長い葉柄を持つ心形の葉をロゼット状に広げる。

Fig.6 花茎を上げ始めた個体。(西宮市・湿地 2007.7/19)
  花茎に付く葉には葉柄がなく、茎を抱く。
  花茎を上げて開花する頃になると根生葉は枯れてしまうことが多い。

Fig.7 果実形成期の個体。(西宮市・湿地 2007.11/22)
  子房は膨らみ、仮雄蕊は宿存している。

Fig.8 成熟した果実。(西宮市・湿地 2007.11/22)
  萼片と仮雄蕊は最後まで残る。刮ハの内部には無数の種子が詰まっている。
  刮ハは頂部が4列し、種子は風に揺られたり、雨滴に当たって周辺に飛散する。


Fig.9 ウメバチソウの痩果。(西宮市・湿地 2007.11/22)
  痩果は0.7〜1mm、不定形で淡褐色。小さな翼がある。表面には縦に長い網目模様があり、琥珀様の光沢がある。
  痩果の翼は未発達であり、遠隔地に分布を広げるつもりはないようで、個々の自生地では遺伝子レベルでの分化が起こっている可能性がある。
  栽培下では種子の発芽率はあまり良くはなく、夏期の暑さに弱く、開花させるまでの管理にはやや手間がかかる。

Fig.10 冬に向けて、小型のロゼットとなったウメバチソウ。葉幅は1cmに満たない。(西宮市・湿地 2007.11/22)
  冬季の寒さをしのぐため、湧水につかるように地面に張り付き小型化したウメバチソウの根生葉。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 ウメバチソウは、湿地の中央部よりも、中央部とヌマガヤなどが生える周辺部の湿原の間際を好む。(西宮市・湿地 2006.11/5)
その位置はシロイヌノヒゲの生育域と重なるが、それよりやや陸地寄りであり、オオミズゴケが生え始めるあたりである。
画像中の線形の葉を持つ大型のイネ科草本はヌマガヤで、小さな頭花を沢山立ち上げているのはシロイヌノヒゲ。

Fig.12 オオミズゴケ群落中に生じたウメバチソウ。(西宮市・湿地 2006.11/5)

他地域での生育環境と生態
Fig.13 高原の芝地に生育するウメバチソウ。(兵庫県養父市・草地 2010.10/11)
刈り込まれた芝地に点々と生育が見られた。画像中央の木本はヤマヤナギ。
同所的にイトハナビテンツキ、チチコグサ、アリノトウグサのほか、道路沿いの場所であるためブタナなどの外来種も見られた。

Fig.14 里山の用水路脇に生育するウメバチソウ。(兵庫県宝塚市・用水路脇 2010.10/22)
ウメバチソウはときに自然度の高い棚田の用水路脇に生育していることがある。
ここでは画像に見られるチゴザサ、カキラン、キガンピ、イヌツゲのほか、オミナエシ、リンドウ、シロイヌノヒゲなどが見られた。
このような場所は本来湿地だった場所が水田とされたものだろう。

Fig.15 棚田の土手に生育するウメバチソウ。(神戸市・棚田 2014.10/19)
草刈りされた棚田の土手の中部から下部にかけてウメバチソウが点在していた。
同所的にチガヤ、ススキ、ノゲヌカスゲ、ジャノヒゲ、ミツバツチグリ、ワレモコウ、センブリ、タツナミソウ、ヘクソカズラ、
シラヤマギク、ニガナ、オカオグルマ、ハルジオン、フユノハナワラビなどが生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑や一般書籍を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大場秀章, 1982. ユキノシタ科ウメバチソウ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.154〜155. pl.145. 平凡社
村田源, 2004 ユキノシタ科ウメバチソウ属. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.143〜144. pl.35. 保育社
牧野富太郎, 1961 ウメバチソウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 237. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984 ウメバチソウ属. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 p.129. pl.127. 保育社
高橋秀男. 2001. ユキノシタ科ウメバチソウ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 798〜799. 神奈川県立生命の星・地球博物館
近藤浩文, 1982 甲山周辺の湿地植物. 『六甲の自然』 85〜87. 神戸新聞出版センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ウメバチソウ. 『六甲山地の植物誌』 134. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ウメバチソウ. 『近畿地方植物誌』 98. 大阪自然史センター
福岡誠行・布施静香・橋本光政・黒崎史平・若林三千男 2002. ウメバチソウ. 兵庫県産維管束植物4 ユキノシタ科. 人と自然13:139. 兵庫県立・人と自然の博物館
矢野悟道・竹中則夫. 1978. 甲山湿原(仁川地区)の植生調査並びに保全に関する報告書. 西宮市自然保護課

最終更新日:29th.Oct.2014

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