ハンゲショウ Saururus chinensis  (Lour.) Baill. ドクダミ科 ハンゲショウ属
湿生〜抽水植物  兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (西宮市甲山町・植栽 2008.7/7)

Fig.1 (兵庫県豊岡市・汽水域 2011.7/27)

低地の湿地や溜池畔に生育する多年草で、抽水状態で見られることも多い。
匍匐根茎が泥中を横走して、節から茎を立ち上げ、高さ50〜100cm。
葉身は長さ6〜17cm、幅4〜9cm、5〜7脈あり、基部はやや耳状心形。花期には花序の葉は下半が白化する。
花は10〜15cmの細長い穂状花序を形成して多数つき、はじめ下垂しているが花後に立ち上がる。
花は両性で小さく、花弁はない。雄蕊は6〜7個。3〜5個の心皮からなる子房があり、無毛。

【メモ】 ハンゲショウは過去から現在にわたって茶花として好まれており、庭先や畑地に植栽されることがある。
     このような植栽が起源となって水路などに逸出している例も多い。
     調査の際に発見しても、自生か逸出の判断が難しいもののひとつで、近隣でのインタビューが不可欠だろう。
     兵庫県下からの記録は多いが、コウホネがそうであったように、植栽されたものも多いと考えられる。
■分布:本州、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、中国、フィリピン
■生育環境:低地の湿地や溜池畔など。
■花期:6〜8月
■西宮市内での分布:中部の照葉樹林の小川沿いの湿った林縁にわずかに見られる。
              甲山町とんぼ池や夙川公民館横の片鉾池の池畔などでは植栽されているものが観察できる。

Fig.3 開花期のハンゲショウ。(西宮市甲山町・植栽 2008.7/7)
  地下には匍匐根茎があり、群生をつくる。

Fig.4 花序近くの葉と、咲き始めの花序。(兵庫県豊岡市・汽水域の後背湿地 2011.7/27)
  花期になると花序近くの葉の下半が白く色づく。咲き始めの花序は先が下垂している。

Fig.5 花序。(西宮市甲山町・植栽 2008.7/7)
  穂状花序。花は下から咲きあがり、開花した部分から直立していくようになる。

Fig.6 花序の一部を拡大。(西宮市甲山町・植栽 2008.7/7)
  花には花弁はなく、花柄の先に6〜7個の雄蕊と、3〜5個の心皮からなる子房が、小さな1個の卵状の苞とともにつく。
  花柄と花序中軸には毛が密生している。

Fig.7 立ち上がる花序。(西宮市甲山町・植栽 2008.7/7)
  花序の開花の終わった部分は立ち上がっている。


Fig.8 苞葉と葉身。(西宮市甲山町・植栽 2008.7/7)
  ふつう5脈が明瞭。茎の下方につくものほど基部は耳状に近づく。

Fig.9 葉柄の基部は茎を抱く。(西宮市甲山町・植栽 2008.7/7)

Fig.10 春先に出芽したハンゲショウ。(西宮市甲山町・植栽 2007.4/20)
  出芽したばかりの草体は強く赤味を帯びる。

Fig.11 成長期のハンゲショウ。(西宮市甲山町・植栽 2007.5/31)
 

西宮市内での生育環境と生態
Fig.12 通称とんぼ池に植栽されているハンゲショウ。(西宮市甲山町・植栽 2008.7/7)
ミソハギやフトイなどとともに池畔に植栽され、生育状態もよく、よく馴染んでいる。
追記:この場所に植栽されたものが仁川の広河原に逸出・侵入しつつある。今後、仁川あるいは仁川武庫川合流地点より下流にハンゲショウが
見られた場合はとんぼ池のものが逸出繁殖したものとして注意する必要がある。


Fig.13 照葉樹林の林縁に生育するハンゲショウ。(西宮市・湿った林縁 2010.7/12)
湧水があって湿った林縁にヌマトラノオ、ヤブミョウガ、ヤブヘビイチゴ、ヒカゲイノコヅチ、シケシ、ドクダミや植栽とおぼしきミョウガなどとともに生育する。
過去にも採集記録のある場所であるが、湧水池には植栽もしくは投げ込まれたとみえるフサジュンサイ、スイレン、ポンテデリア、カラーなどもある一方、
ヒメタイコウチの採集記録もあり、ここのものが自生であるか植栽であるかは慎重に判断しなければならない。
ハンゲショウは茶花として好まれた経緯があることから、先ずは自生を疑ってかかるべきかと思う。

他地域での生育環境と生態
Fig.14 用水路内に群生するハンゲショウ。(兵庫県篠山市・用水路 2010.7/31)
盆地内の沖積平野の田園地帯につくられた2面コンクリートの幅1m程度の用水路内に群生していた。
水路内ではマコモが多く、ミゾソバ、サクラタデ、キツネノボタン、ヒメジソ、クサヨシなどが見られる。
これまで丹波地方からの記録はなかったが、この場所だけで群生しており、逸出の可能性がないとはいえない。
地元の農家の方にインタビューする必要があるだろう。

Fig.15 汽水湖の後背湿地に群生するハンゲショウ。(兵庫県豊岡市・汽水域の後背湿地 2011.7/27)
汽水域の潟状湖沼と連続する後背湿地にハンゲショウの密な純群落が成立していた。
この付近はシカの食害の多い地域であり、ハンゲショウはシカの忌避植物であるため、競合種が淘汰され、純群落が成立している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
籾山泰一, 1982. ドクダミ科ハンゲショウ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.98. pl.98. 平凡社
北村四郎・村田源, 2004 ドクダミ科ハンゲショウ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花編』 p.348. pl.72.
牧野富太郎, 1961 ハンゲショウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 73. 北隆館
青木清勝 2001. ドクダミ科ハンゲショウ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 718〜719. 神奈川県立生命の星・地球博物館
村田源. 2004. ハンゲショウ. 『近畿地方植物誌』 131. 大阪自然史センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ハンゲショウ. 『六甲山地の植物誌』 123. (財)神戸市公園緑化協会
黒崎史平・高橋晃 2001. ハンゲショウ. 兵庫県産維管束植物3 ドクダミ科. 人と自然12:144. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:27th.Feb.2014

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