ハンノキ Alnus japonica  (Thunb.)Steud. カバノキ科 ハンノキ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・水辺湿地林 2007.5/27)


Fig.2 (西宮市・河川敷 2010.5/29)

低地の湿地、溜池畔、河畔、休耕田などに生育する高さ約15mになる落葉広葉樹の中高木。
樹皮は暗紫色〜灰褐色、小さく割れてはがれる。根は浅根型で、空中窒素固定能力のある放線菌が共生し根粒を形成する。
葉は卵状長楕円形、鋭凸頭、低い不整の鋸歯があり、長さ5〜13cm、幅2〜5.5cm、側脈は7〜9対、葉脈の先は湾曲し、ほとんど無毛。
葉身の基部はくさび形で、葉柄は長さ1〜3.5cm。
雌雄同株で、開葉する前に開花する。雄花序は枝先に2〜5個散房状について下垂し、長さ4〜7cm。
雌花序は葉腋に1〜5個つける。果穂は広楕円形で、長さ1.5〜2cm、幅13mm。

若枝に褐色の毛を密生するものを変種ケハンノキ(var. koreana)として区別することがある。
酷似する種にサクラバハンノキA. trabeculosa)がある。葉身基部は円形または心形に少しきれこみ、側脈は9〜12対あり、
樹幹は割れずになめらかである。自生地、個体数ともに少なく、絶滅危惧種に指定されている地域が多い。
近似種 : ケハンノキ、サクラバハンノキ

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、中国、台湾、ウスリー
■生育環境:湿地、溜池畔、河畔、休耕田、水路脇など。
■花期:11〜3月
■西宮市内での分布:中・北部の湿地、溜池畔、休耕田などで見られる。
■ホストとする種:ミドリシジミ(狭)、オナガミズアオ(狭)、オオミズアオ、コウモリガ、ウスミミモンキリガ(狭)、トビスジシャチホコ、
ルリモンシャチホコ、ハンノキマガリバ、イラガ、ハンノキハムシ、ヒメオオクワガタ、コフキコガネ(後食)、ハンノキカミキリ、
ベニハンノキカミキリ、ゴマダラカミキリ、ホソキリンゴカミキリ、ムネマダラトラカミキリ、オトシブミ、ヒメクロオトシブミ、
シロスジカミキリ、ハヤシオオカスミカメ、キイロモモブトハバチ(狭)など
*(狭)はハンノキ属だけに依存する狭食性の種。(後食)は成虫が後食する種。

Fig.3 高木化したハンノキの樹幹。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.12/3)
  樹皮は暗紫色〜灰褐色、細かく縦に割れてはがれる。

Fig.4 成熟した葉の表(左)と裏(右)。(西宮市・池畔 2008.7/7)
  卵状長楕円形で、側脈は7〜9対。基部はくさび形。

Fig.5 初夏の頃の葉。(西宮市・水辺湿地林 2007.5/27)
  楕円形で、成熟した葉と比べると丸みを帯びる。

Fig.6 若い葉は時に赤紫色を帯びる。(西宮市・池畔 2008.7/7)
  幹の下部から出たひこばえや、伐採直後の芽、1mに満たない若い木の芽などは赤紫色を帯びることが多い。

Fig.7 花序は開花の前年の夏から形成され、秋には目立つようになる。(神戸市北区・溜池畔 2008.11/11)

Fig.8 降雪の中、開花したハンノキ。(兵庫県三田市・溜池畔 2008.2/1)
  葉が展開する前に開花する。花芽は芽鱗に包まれることなく裸出する。
  兵庫県南部の里山では1月中旬頃から開花することが多い。

Fig.9 雌雄同株で雌雄異花。(兵庫県三田市・溜池畔 2008.2/1)
  長く下垂した雄花がついた枝のすぐ下の節から、雌花序の柄が出る。雌花序は狭卵形。各鱗片に2花がつく。
  風媒花であるため花粉の飛散量は多く、ハンノキ花粉症のアレルゲンとなる。

Fig.10 雄花序の拡大。(西宮市・湿地 2007.1/25)
  緑色の鱗片内には2個の小苞を持った花が2〜3個つく。雄花の萼は4裂し、雄蕊は4個ある。

Fig.11 初夏の未熟な果実。(西宮市・池畔の植栽 2007.5/31)
  果実は苞葉が螺旋状に配列し、その中に種子ができる。
  このような構造の果序をもつものはカバノキ属、シデ属、カナムグラ属にも見られ、果序全体をストロビルと呼ぶ。

Fig.12 出芽間近いハンノキ群落。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.3/1)
  兵庫県南部では、葉は3月に入ってから展開しはじめる。

Fig.13 ハンノキをホスト(食樹・食草)とする昆虫類は多い。(西宮市・休耕田の水路脇 2007.6/27)
  画像はオトシブミ(左:通常のタイプ、右上:黒化型)とその揺籃(左下)。体長8mm前後で、ハンノキの葉上でもっともよく眼にする甲虫である。
  揺籃の作り方は器用で巧みであり、中に1個の卵を産卵する。揺籃は画像のように樹上に残すこともあるが、切り離して地上に落下させることもある。
  オトシブミは他のカバノキ科の樹木やクリもホストとする広食性の昆虫だが、ハンノキやサクラバハンノキだけをホストとする狭食性の昆虫も多い。
  有名なところではミドリシジミがあるが、オナガミズアオ、ウスミミモンキリガ、キイロモモブトハバチなどはその生息地域に
  まとまったハンノキの群落がなければ生育できない。
  開発による湿地の減少に伴って、これらの種は減少傾向が強く、どの種も国内のいずれかの地域で絶滅危惧種に指定されている。
  幸いなことに、兵庫県内ではまだかなり多くの湿地環境が残されているため、注意して探せばこれらの種を見つけることができる。

Fig.14 ハンノキハムシ。(兵庫県加西市・小湿地脇 2013.5/8)
  ハンノキをホストとし、よく見られる。成虫が若葉を後食していた。

Fig.15 ミドリシジミ♀。(兵庫県三木市・溜池土堤 2013.7/20)
  ハンノキをホストとし、ハンノキ林を伴う古い溜池で見られることが多いが、溜池改修、埋立て、伐採で減少しつつある。

Fig.16 ハンノキハイボフシ。(兵庫県三田市・小湿地脇 2008.5/4)
  フシダニの一種による虫えいで、葉の表面に円い袋状に突出する。直径は約2mmで、葉裏部は開口している。
  内部には白色の柔毛がつまり、その間にフシダニが生活しているが、生活史は明らかにされていない。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.17 湿地の周縁に生育するハンノキ。(西宮市・湿地 2007.5/13)
ヌマガヤが優占する小湿地の周縁部でキガンピ、イヌツゲなどの低木とともに生育している。
湿地内にはトダシバも侵入して遷移が進みつつあるが、オニスゲ、カキラン、サワギキョウ、アギスミレなども見られる。


Fig.18 池畔に成立したハンノキの水辺湿地林。(西宮市・湿地 2006.10/20)
池畔にかなりな規模のハンノキ主体の水辺湿地林が形成されている。ハンノキは葉をまばらにつけるので林床には充分な光量が届く。
このため、水辺湿地林内にはヨシ、クサヨシ、チゴザサ、サンカクイ、タチスゲ、ゴウソ、アゼスゲ、コウガイゼキショウ、イグサ、
ヘラオモダカ、アカバナ、ミズオトギリ、アギスミレ、イヌゴマ、ホソバノヨツバムグラなどからなる湿生植物群落が形成されている。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
牧野富太郎, 1961 ハンノキ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 85. 北隆館
大森雄治. 2001. カバノキ科ハンノキ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 546〜548. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ハンノキ. 『六甲山地の植物誌』 103. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ハンノキ. 『近畿地方植物誌』 127. 大阪自然史センター
薄葉重. 2003. ハンノキハイボフシ. 『虫こぶハンドブック』 18. 文一統合出版
福岡誠行・黒崎史平・高橋晃 2000. ハンノキ. 兵庫県産維管束植物3 カバノキ科. 人と自然11:89. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:26th.Feb.2017

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