ヒメミソハギ Ammannia multiflora  Roxb. ミソハギ科
湿生植物
Fig.1 (西宮市・水田 2006.9/25)

Fig.2 (西宮市・水田 2009.11/10)

水田や休耕田、農耕地周辺の湿地や溝などに生える1年草。
除草剤の使用や圃場整備によって急激に減少した水田雑草で、環境良好な水田でないと見られない。
近年では、ヒメミソハギよりも外来種のホソバヒメミソハギばかりが目立つようになってしまった。
茎は四角柱状で直立し、高さ20〜30cm、大きな草体ではよく分枝するが、抽水状態や小さな草体では分枝は少ない。
葉は対生し、長さ1.8〜5cm、幅0.5〜1.2cm、広線形〜披針状長楕円形で、普通、基部はやや耳形となって茎を抱く。
花は葉腋に数個密につき、1mm前後の花柄があるか、または花柄を欠き、径約1.5mm。
花弁は紅紫色〜淡紅色で、ごく小さく4個つき、刮ハは約2mm。
痩果は0.3mm、暗赤色〜赤褐色で、倒卵形。

似たものに、以下の2種の外来種が知られている。
ホソバヒメミソハギ(A. coccinea)は、葉の基部がやや心形となって両脇が耳状に張り出し、花は径4mmで紅紫色。花柄と小花柄は長さ1〜2mm。
ホソバヒメミソハギは市内にも広く帰化しており、繁殖力が強く、ヒメミソハギよりもはるかに多く見られる。
ナンゴクヒメミソハギ(A. auriculata)は、ホソバヒメミソハギと同様の紅紫色の花をつけ、花柄と小花柄は長さ3〜10mmと長い。

■分布:本州、四国、九州 ・ 東南アジア、マレーシア、オーストラリア、中央アジア、アフリカ
■生育環境:水田、休耕田、農耕地周辺の湿地や溝など。
■花期:9〜10月
■西宮市内での分布:市内では数ヶ所の水田で自生を確認しているが、このうち平地の水田のものは、
              いつ消滅してもおかしくないような立地条件にある。

Fig.3 花は葉腋に密につく。(西宮市・水田 2006.9/25)
  花柄は分枝して先端に1個の花をつける。萼は4中裂し裂片は三角形。雄蕊4個。この個体では花弁は淡紅色。
  果実は赤褐色で約2mm、下部は萼筒に包まれている。

Fig.4 秋期、紅葉したヒメミソハギ。(西宮市・水田 2006.10/30)

Fig.5 内部の種子が充分に熟し、充実した刮ハ。(西宮市・水田 2006.10/30)

Fig.6 虫えいが見られた刮ハ。(西宮市・水田 2006.10/30)
  ミソハギ科の仲間には、子房に虫えいをつくるホソクビゾウムシ科チビゾウムシ亜科が何種かつくので、
  虫えいの主はそのあたりだろうか。
  しかし、ホソクビゾウムシ科チビゾウムシ亜科に関しては、まだ充分に調べられておらず、正確な正体はわからない。
  今後、注意して調べる必要がある。同様の虫えいは外来種のホソバヒメミソハギにも見られる。

Fig.7 虫えい(ゴール)から羽化したチビゾウムシsp.。(西宮市・水田 2008.11/6)
  10/24に刈り取り後の水田のヒメミソハギの虫えいを持ち帰ったところ、11/6から羽化しはじめた。
  webで検索してみると、どうやらこのチビゾウムシには正式な和名がまだ与えられていないようだった。

Fig.8 水田で発芽した実生苗。(西宮市・水田 2007.7/1)

Fig.9 ヒメミソハギの種子。(西宮市・水田 2006.9/25)
  扁円状倒卵形で、長さ約0.3mm、暗赤色〜赤褐色。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.10 水田の縁に生き残ったヒメミソハギ。(西宮市・水田 2006.11/2)
稲の刈り取り後、ここでは十数株生育しているのが確認できた。水田の中央部では見られず、縁に点々とかろうじて生育する。
付近の水田には見られず、コンクリートの畦に囲まれた、この1枚の水田のみで確認できた。
株のまわりには、秋に発芽した実生苗が見られるが、冬になると枯死してしまう。
画像の前方に見える根生葉のタネツケバナ、後方に見えるタマガヤツリなど、一般的な水田雑草がみられる。

Fig.11 平地の水田で生育するヒメミソハギ。(西宮市・水田 2006.8/20)
葉腋からよく分枝し、一見ホソバヒメミソハギやナンゴクヒメミソハギを思わせるが、後日開花した花を確認するとヒメミソハギだった。
この水田は稲作と畑作が交互に行われる二毛作の水田で、水田のトラクターなどの農業器機の乗り入れ口付近に数株が生育していた。
この水田では、その箇所のみで見られ、一年生本草であるヒメミソハギにとっては、この地での生育基盤は非常に脆弱だといわざるをえない。

他地域での生育環境と生態
Fig.12 水田の縁に生育するヒメミソハギ。(兵庫県南あわじ市・水田 2010.11/7)
刈り取り後かなり経た水田にチョウジタデ、アゼナ、アメリカアゼナ、イヌガラシ、コイヌガラシ、スカシタゴボウ、タネツケバナ、コオニタビラコ、
スズメノカタビラ、スズメノテッポウ、ヨモギ、ヘビイチゴ、キカシグサ、イヌホタルイなどとともに見られた。
水田の中では刈り取り後に側枝を伸ばした小型の個体が多く見られたが、縁の刈り取りの難を逃れたものが沢山の果実をつけ、大きく生長していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北川政夫, 1982. ミソハギ科ヒメミソハギ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.261. pls.238. 平凡社
村田源, 2004. ミソハギ科ヒメミソハギ属. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.46〜47. pls.13. 保育社
牧野富太郎, 1961 ヒメミソハギ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 418. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984. ヒメミソハギほか. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 98〜100. 保育社
村上司郎. 2001. ミソハギ科ヒメミソハギ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1030〜1031. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヒメミソハギ. 『六甲山地の植物誌』 162. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ヒメミソハギ. 『近畿地方植物誌』 64. 大阪自然史センター
藤井伸二・福岡誠行・布施静香・黒崎史平 2003. ヒメミソハギ. 兵庫県産維管束植物5 ミソハギ科. 人と自然14:143. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:31st.Dec.2010

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