キクモ Limnophila sessiliflora  Bl. ゴマノハグサ科 シソクサ属
湿生〜抽水〜沈水植物
Fig.1 (西宮市・水田 2006.9/22)

Fig.2 (兵庫県小野市・水田内の排水路 2011.9/19)

水田や溜池、緩やかな流れの用水路、河川などに生える多年草。
二次的自然度が高い環境良好な水田で多く見られ、河川や用水路などでは、比較的水質もよく、流れが穏やかで砂泥底の立地を好む。
湿田の休耕田などでは大群生が見られることがある。
根茎は泥中を横走し、節から茎と匍匐枝を出す。匍匐枝は水中に沈水〜抽水状態の場合に顕著に見られる。
花は沈水状態では開花することはなく閉鎖花。気中葉の葉腋に1つ付け無柄。
合弁花で萼は中5裂、花冠は淡紅色〜紫紅色で上唇が浅く2裂、下唇は3裂する。
他のゴマノハグサ科草本同様、最初は閉鎖花を付ける。充分に生長した後、刈り込み後の水田で開花しているのを良く見かける。
沈水葉は大きく広がり、繊細な糸状に細裂し美しい。

近年、アクアリウム・プラントとして、東南アジアのファームで栽培されたものが出回っているが、明らかに沈水葉の形態に差があり、
遺伝子レベルで個体群差があると思われる。
キクモは閉鎖花で結実することが多いとはいえ、人為的な逸出による遺伝子の攪乱が危ぶまれる。
キクモは菊藻であり、葉が菊の形に似て水中に生じることによる。全草にはかすかな香りがある。

近縁種に群馬県、岡山県南部、福岡県、兵庫県などに稀に産するコキクモL. indica)があるが、
コキクモは花柄が萼片と同長であるという特徴で区別できる。キクモに花柄はない。

■分布:本州、四国、九州 ・ 東南アジア、インド、オーストラリア
■生育環境:水田溜池、河川、用水路。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では北部の棚田を中心に分布。あまり多くはない。

Fig.3 陸生形。(自宅植栽 2006.9/25)
  気中葉の裂葉の裂片の幅は広く、茎は太くて開出毛を密生して赤味を帯びることが多い。

Fig.4 花冠は筒状の唇形花。(兵庫県三田市・水田 2008.10/13)
  開花する花は陸生〜抽水形で見られ、沈水状態では閉鎖花をつけて結実する。

Fig.5 果実期。葉腋に付いた果実には柄がない。(岡山県真庭市・水田 2007.9/23)

Fig.6 水の落ちた水田で、陸生形で生育するキクモ。(西宮市・水田 2006.9/17)
  水田では夏期の中落ち(イネの株元を強固にするために落水する)以降に画像のように生育していることが多い。

Fig.7 刈り取り後の水田で開花するキクモ。(岡山県真庭市・水田 2007.9/23)
  イネの刈り取り後も、霜が降りるまでは開し続けることが多い。

Fig.8 キクモの沈水形。(自宅水槽植栽 2005.8/11)
  葉身の裂片が糸状に細く伸び、繊細で美しい草体となる。沈水〜抽水状態のものは匍匐枝をよく伸ばす。

Fig.9 湧水河川のキクモ。(滋賀県・小河川 2011.9/27)
  流速のある湧水河川に生育するものは軟弱な沈水形は見られず、流れに強い陸生形に近いものとなる。

Fig.10 水田で見られる沈水形。(西宮市・水田 2008.8/2)
  水田に生育するものは生育条件の変化にあわせて葉身の裂片の幅や長さが変化する。

Fig.11 沈水形の閉鎖花と果実。(兵庫県三田市・水田 2008.10/13)
  黄色の矢印で示したものが閉鎖花で、閉じた萼の先が少し開いている。
  水色の矢印のものは閉鎖花により結実した果実で、円く太り、萼の先は開かない。

Fig.12 沈水形の輪生した葉の様子。(自宅水槽植栽 2008.8/19)
  葉は多数輪生する。

Fig.13 沈水葉(左)とその裂片の拡大(右)。(自宅水槽植栽 2008.8/19)
  明瞭な中央脈から、ほぼ対生するように細い裂片が生じ、さらに0〜3回程度細裂する。
  繊細は裂片は全縁で鈍頭またはやや鋭頭、鋸歯や小刺は見られない。

Fig.14 沈水形の茎横断面。(自宅水槽植栽 2008.8/19)
 

Fig.15 刈り取り後の水田で発芽したキクモ。(兵庫県三田市・水田 2007.10/7)

Fig.16 種子は長楕円形で0.6〜0.8mm。やや内側に湾曲し黒褐色〜茶褐色で光沢がある。(西宮市塩瀬町名塩・水田 2006.11/16)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.17 山間の棚田で生育するキクモ。(西宮市 2006.9/17)
落水後の水田ではコナギなどの勢力の強い水田雑草の生育がおさえられ、キクモが繁殖するのに好都合となる。
周囲に見られる水田雑草はアメリカアゼナ、チョウジタデ、イヌホタルイ、ミゾカクシなど。

他地域での生育環境と生態
Fig.18 キクモを中心とした水田雑草群落。(兵庫県三田市 2008.9/28)
コナギ、イボクサ、アゼナ、タマガヤツリ、ヒナガヤツリ、クログワイ、エゾノサヤヌカグサなどの一般的な水田雑草に混じって、
キクモ、シソクサ、キカシグサ、ミズマツバ、アブノメ、タウコギが生育していた。
画像にはキクモの他に、クログワイ、アゼナ、エゾノサヤヌカグサ、コナギ、シソクサ、アブノメが写っている。

Fig.19 休耕田に群落をつくるキクモ。(兵庫県篠山市 2009.9/11)
中山間地の休耕田にキクモの群生が発達し、ほとんどの場所はキクモによって占められていた。
キクモ群落以外には半裸地状の場所にヒナガヤツリ、タマガヤツリ、アゼトウガラシ、アゼナなどが少量見られる程度だった。
左手前の中型の草体はタウコギで、この周辺ではあちらこちらの水田に多産していた。

Fig.20 湧水起源の水路内に生育するキクモ。(滋賀県・水路 2011.9/27)
湖東地方の田園地帯に流れる用水路の底面にびっしりと群生していた。
水路は3面コンクリート張りであるが、水底には土砂が溜まっており、多くの水生植物が生育している。
ここではキクモ群落中にナガエミクリ、ミズハコベ、ヤナギタデ、コカナダモ、オランダガラシなどが点在していた。

Fig.21 溜池畔に生育するキクモ。(兵庫県姫路市・溜池 2011.10/2)
やや富栄養な溜池畔のマコモ群落の根際周辺に沈水〜陸生状態で群生していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
角野康郎, 1994. ゴマノハグサ科シソクサ属. 『日本水草図鑑』 p.145. pl.147. 文一統合出版
大滝末男, 1980. キクモ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 24〜25. 北隆館
牧野富太郎, 1961 キクモ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 558. 北隆館
北村四郎・村田源・堀勝, 2004. ゴマノハグサ科シソクサ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花編』 p.150〜151. pl.46. 保育社
山崎敬, 1981. ゴマノハグサ科シソクサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.101. pl.86. 平凡社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. キクモ. 『六甲山地の植物誌』 191. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. キクモ. 『近畿地方植物誌』 39. 大阪自然史センター
角野康郎, 2007. 兵庫県新産の水生植物2種. 水草研究会会報 86:33〜34.
黒崎史平・高野温子 2006. キクモ. 兵庫県産維管束植物7 ゴマノハグサ科. 人と自然16:104. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:24th.Nov.2011

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