キセルアザミ (マアザミ) | Cirsium sieboldii Miq. | キク科 アザミ属 |
湿生植物 |
Fig.1 (西宮市・用水路脇 2006.11/9) 中〜貧栄養な湿地、比較的自然度の高い棚田の用水路などに生育する多年草。 茎はやや花茎状で高さ50〜100cm、少数の小型の葉がある。 根生葉は長さ15〜50cmで多数あり、羽裂して両面無毛。 ふつう頭花は茎の先に横向きに生じ、花が終わると上を向く。 総苞は幅2〜3cm、片は圧着し鋭頭で外片はごく短い。花冠は17〜19mm。 別名のマアザミは、春先の新芽を食用とすることから、「本当のアザミ」という意味でつけられた。 近似種 : オハラメアザミ、ヨシノアザミ ■分布:本州、四国、九州 ■生育環境:中〜貧栄養な湿地、比較的自然度の高い棚田の畦や休耕田、用水路脇など。 ■花期:9〜11月 ■西宮市内での分布:北部の棚田周辺に多い。 |
||
↑Fig.2 開花したキセルアザミ。(西宮市・休耕田 2006.9/21) 総苞は長さ約22mm、幅2〜3cm。花冠は長さ17〜19mm。 総苞片はふく瓦状に並び圧着、鋭頭、先端は刺針とならない。 |
||
↑Fig.3 総苞の一部拡大。(兵庫県小野市・溜池畔 2010.11/15) 総苞片はふつう7列見られ、基部から上に向って序々に大きくなり、形状は同一、基部よりのものはくも毛がある。 |
||
↑Fig.4 総苞片が葉状に伸びたもの。(兵庫県小野市・溜池畔 2011.11/6) 画像のものは基部近くの5〜7列の総苞片が伸びて葉状となり、総苞直下の花茎に線形の葉が集まってついたもの。 アザミの仲間には時折見られる現象で、キセルアザミの場合、抽水状態にあるものや、開花の遅いもの、開花期に刈り込みに遭ったものによく見られる。 |
||
↑Fig.5 開花間もないものは花が下を向き、完全に開くと横を向く。(兵庫県三田市・湿地 2006.10/13) ただし例外もあり、開花時期の遅れた個体では、開花初期から上を向いている花がある。 |
||
↑Fig.6 開花直前の花。(兵庫県小野市・溜池畔 2010.11/15) 筒状花のつぼみが密に整然と並んでいる。 |
||
↑Fig.7 正面から見た頭花。(西宮市・用水路脇 2006.11/9) 長く伸びているのは花柱で、一定方向に渦巻くように並んでいる。いったい何の影響によるものだろうか。 |
||
↑Fig.8 横から見た開花最盛期の頭花。(兵庫県加東市・水田の畦 2008.10/19) 成熟した薄紫色の集葯雄蕊には花粉が詰まっていて、わずかな刺激や、下から上がってくる雌蕊によって押し出される。 花粉を出し切った集葯雄蕊は雌蕊と同様、淡紅色となる。 |
||
↑Fig.9 キセルアザミを訪花したチャバネセセリ。(西宮市・用水路脇 2006.11/9) アザミ属には多くの種の蝶やハチが集まるが、蝶では特にセセリチョウ科やアゲハチョウ科のものを見かけることが多い。 チョウが頭花に止まり、雄蕊に触れると、集葯雄蕊から花粉が押し出され、チョウの体に付いて、チョウは送粉者となる。 |
||
↑Fig.10 果実形成期の上を向いた頭花。(西宮市・用水路脇 2008.11/23) 花後、頭花は上向きとなる。全ての筒状花は枯れて黒化し、集葯雄蕊の先近くは白化する。 |
||
↑Fig.11 飛散しはじめた種子(痩果)。(兵庫県三田市・湿地 2008.10/13) 枯れた筒状花の花弁は絡み合ってひとかたまりとなり頭花から脱落し(頭花左下)、痩果上部の冠毛が現れて、風にのって飛ぶ。 |
||
↑Fig.12 キセルアザミの葉。表面(上)、裏面(下)。(兵庫県三田市・小湿地 2008.5/4) 葉は羽状裂葉で裂片は細く、先端は小刺針となり、両面とも無毛。 |
||
↑Fig.13 ロゼットで越冬する。(西宮市・湿田の畦 2007.1/25) 他のアザミ属の種と同様、冬期はロゼットを形成する。 |
||
↑Fig.14 初夏のキセルアザミ。(兵庫県三田市・小湿地 2008.5/4) |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.15 棚田最上部の休耕田に生育するキセルアザミ。(西宮市・休耕田 2006.9/21) チゴザサに覆われた休耕田に、サワヒヨドリ、ホソバリンドウ、イヌシカクイなどと生育している。 ススキやセイタカアワダチソウなどの侵入が見られ、遷移が進みつつある。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.16 畑地脇の小湿地に生育するキセルアザミ。(兵庫県三田市・湿地 2008.10/13) チゴザサ、イヌノハナヒゲ、ヌマガヤ、スイラン、サワヒヨドリ、シロイヌノヒゲとともに群生する。 キセルアザミは農耕地周辺の湿地や用水路脇に出現することが多い。 |
||
【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 北村四郎, 1981. キク科アザミ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.212〜220. pls.188〜200. 平凡社 北村四郎・村田源・堀勝, 2004 キク科アザミ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花編』 p.30〜40. pls.8〜12. 長田武正・長田喜美子, 1984 キク科アザミ属. 『野草図鑑 4 たんぽぽの巻』 p.138〜148. 保育社 高橋秀男. 2001. キク科アザミ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1326〜1332. 神奈川県立生命の星・地球博物館 田中肇, 1997 ブラシのように. 『エコロジーガイド 花と昆虫がつくる自然』 p.115〜117. 保育社 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. キセルアザミ. 『六甲山地の植物誌』 204. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. キセルアザミ. 『近畿地方植物誌』 21. 大阪自然史センター 小山博滋・黒崎史平・高橋晃 2007. キセルアザミ. 兵庫県産維管束植物8 キク科アザミ属. 人と自然17:159. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:10th.Dec.2011 |