コバノトンボソウ Platanthera tipuloides  Lindl.
  var. nipponica  Makino
ラン科 ツレサギソウ属
湿生植物  兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (西宮市・湿地 2008.7/7)

日当たりのよい湿った草原や貧栄養な湿地に生える多年草。
茎は肥厚する根茎から出て直立し、高さ20〜40cmで、きわめて繊細。
葉はふつう1個で広線形、長さ3〜7cm、幅3〜10mm、基部は茎を抱く。
鱗片葉は披針形、茎にへばりつくようにつくので目立たない。
花は淡黄緑色、花茎に数個つく。苞は披針形。背萼片は卵形、長さ2〜2.5mm。
側萼片は長楕円形、側花弁は斜長楕円形、ともに背萼片より少し長い。
唇弁はやや肉質で、舌状、長さ2.5〜4mm。距は長く、12〜18mm、後方に跳ね上がる。
蕊柱は短く、葯室は平行であるが相接する。花粉塊は根棒状。

■分布:北海道、本州、四国、九州
■生育環境:日当たりの良い湿った草地や貧栄養な湿地。
■花期:6〜8月
■市内での分布:2ヶ所の湿地で確認。自生地、個体数ともに少なく稀。

Fig.2 全草標本。(兵庫県篠山市・小湿地 2009.6/23)
  画像のものは高さ約45cm。地下には肥厚した根茎があり、茎にはふつう1個の葉がつく。
  (画像のものは県内産地報告のため標本にしたもの。)

Fig.3 花茎。(西宮市・湿地 2007.7/19)
  花は花茎に互生してつく。最下の花だけが違う方向を向いているのは何故なんだろうか?

Fig.4 花冠。(西宮市・湿地 2008.7/7)
  花には長い距(きょ)があって、中に腺体があり蜜を分泌する。

Fig.5 花の正面拡大。(西宮市・湿地 2008.7/7)
  ラン科のほとんどの種は雄蕊と雌蕊が合体した蕊柱を持つ。
  雄蕊の花糸は退化して無く、葯だけがあり中には花粉塊がある。花粉塊は葯の入り口にある粘着体につながっている。
  粘着体は訪花した昆虫に付着して、昆虫は他の花に花粉塊を運ぶという仕組みになっている。

Fig.6 背面から見た花。(西宮市・湿地 2008.7/7)
  花の基部は苞に包まれる。子房は長い。

Fig.7 葉は茎にふつう1個つくが(左)、2個つけることもある(右)。(西宮市・湿地 2008.7/7)
  2個の葉をつけるものでは、上部の葉は小さい。葉の基部は茎を抱く。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.8 小湿地に生育するコバノトンボソウ。(西宮市・湿地 2008.7/7)
湧水によって成立した小規模な湿地。ここで確認できたのは4個体だった。
ヌマガヤ、トダシバ、イヌノハナヒゲ、アリノトオグサ、ハイニガナ、モウセンゴケ、ホソバリンドウ、ウメバチソウなどと混生している。

Fig.9 イヌノハナヒゲ、ミカヅキグサ群落中のコバノトンボソウ。(西宮市・湿地 2008.7/7)
画像でも解りにくいが、実際の現場でも高い草に紛れて見落とすことがある。開花中でないと、存在すら気付かないだろう。

他地域での生育環境と生態
Fig.10 山間の貧栄養湿地に生育するコバノトンボソウ。(兵庫県篠山市・湿地 2010.6/30)
山間の谷間の緩斜面にある貧栄養湿地のコイヌノハナヒゲ群落中にコバノトンボソウが点在していた。
湿地内はコイヌノハナヒゲ群落、イヌホタルイ群落、チゴザサ群落が地下水位、傾斜、栄養度によってパッチ状に分布し、コバノトンボソウは
湿地斜面上部の表層をゆるやかに湧水が流れるコイヌノハナヒゲ群落中にサギソウ、モウセンゴケとともに生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑、および一般書籍を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
里見信生, 1982 ラン科ツレサギソウ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.195〜198. pls.174〜177. 平凡社
村田源, 2004 ラン科ツレサギソウ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.18〜23. pls.5〜6. 保育社
秋山守・佐宗盈 2001. ラン科ツレサギソウ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 492〜495. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. コバノトンボソウ. 『六甲山地の植物誌』 257. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. コバノトンボソウ. 『近畿地方植物誌』 136. 大阪自然史センター
黒崎史平・高野温子 2005. コバノトンボソウ. 兵庫県産維管束植物11 ラン科. 人と自然20:187. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:4th.Jan.2011

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