コウヤワラビ Omoclea sensibilis  L.
 var.interrupta  Maxim.
イワデンダ科 コウヤワラビ属
湿生植物
Fig.1 (滋賀県・湖岸の湿地林内 2008.9/8)

Fig.2 (滋賀県・湖岸の後背湿地 2009.6/11)

水田の畦や溜池畔と湿地に生える夏緑性の多年草で群生する。
根茎は長く横走し、径3〜6mm、ほぼ褐色で、若いときには鱗片があるが、後に裸出する。
葉には2型あり、軟毛と鱗片は葉が展開すると脱落する。
栄養葉の葉柄は長さ8〜30cm、わら色で、基部は褐色。
葉身は広卵形〜3角状楕円形、長さ8〜30cm、幅8〜25cm、切れ込み方は変化に富み、全縁から全裂までさまざまな状態がある。
羽片は5〜11(〜14)対あり、披針形で鈍頭、基部に向けてしだいに狭くなり、下部の羽片は狭いくさび形で有柄、上部のものは
中軸に流れ、連続した翼をつくる。縁はほぼ全縁〜鈍鋸歯縁。栄養葉の葉脈は網状に結合、網目の中に遊離脈はない。
胞子葉は栄養葉より少し短いか同長。2回羽状複葉。裂片は内側に強く曲がって球状となり、中に胞子嚢群ができる。
胞子は冬期に熟す。

■分布:北海道、本州、九州 ・ 朝鮮半島、中国、ロシア東部
■生育環境:水田の畦や湿地、溜池畔など。
■胞子形成期:冬期
■西宮市内での分布:過去に名塩での記録があるが、生育を確認できていない。

Fig.3 コウヤワラビの栄養葉。(滋賀県・水田の畦 2007.11/4)
  上部の羽片の基部は中軸に流れ、連続した翼をつくる。羽片には粗い鈍鋸歯がある。

Fig.4 栄養葉の網状脈。(滋賀県・水田の畦 2007.11/4)
  葉脈は網状に結合し、遊離脈はない。

Fig.5 根茎。(滋賀県・湖岸の湿地林内 2008.9/8)
  根茎は地表近くを這い、褐色、分枝して先端付近の節から葉を単生する。

Fig.6 水田の畦に生育する個体。(滋賀県・水田の畦 2007.11/4)
  畦に生育するものは、頻繁に刈り込みに遭うため、小型で葉も小さい。

Fig.7 異形葉を生じたコウヤワラビ。(兵庫県篠山市・用水路脇 2010.8/5)
  刈り込みに遭った個体は、夏〜秋に画像のような葉を出すものがある。
  これは本来、胞子葉となるものが刈り込みに遭ったため、急きょ栄養葉に転じて出たものだとされている。

Fig.8 異形葉の羽片裏面。(兵庫県篠山市・用水路脇 2010.8/5)
  不完全なソーラスが形成されている。苞膜内に胞子嚢は形成されていなかった。

Fig.9 立ち枯れた胞子葉。(兵庫県篠山市・用水路脇 2012.4/29)
  正常な胞子葉は、翌春になっても立ち枯れたまま残っていることが多い。

Fig.10 初夏に見られるフィドルヘッド。(兵庫県篠山市・用水路脇 2011.5/6)
  この頃には葉柄に淡褐色で膜質卵形の鱗片が見られるが、早落性で後に脱落する。
  葉身部分には毛が生えているが、これも脱落する。

生育環境と生態
Fig.11 湿地林の脇に生育するコウヤワラビ。(滋賀県・湖岸の湿地林脇 2008.9/8)
オノエヤナギやハンノキが生育する湿地林の脇の湿った場所にヒメシダ、アシボソ、コシロネ、ハシカグサ、イヌゴマ、カナムグラ、
スズメウリなどとともに生育していた。

Fig.12 用水路脇に生育するコウヤワラビ。(兵庫県篠山市・用水路脇 2010.8/5)
山間に開けた田園地帯の用水路の水際に点在していた。
周囲にはシロツメクサ、オニウシノケグサ、カモジグサなど、どこにでも見られる雑草が多く、コウヤワラビは辛うじて残っている様子であった。

Fig.13 高原の湿地に群生するコウヤワラビ。(兵庫県香美町・湿地 2011.5/26)
高原の農地と山際の間にある湿地にコウヤワラビの群落が見られた。
コウヤワラビ群落の後方に見えるのはオタカラコウの群落。他にミヤマシラスゲ、キンキカサスゲ、ヤマアゼスゲ、タムラソウ、ミソハギなどが生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
岩槻邦男, 1992. イワデンダ科コウヤワラビ属. 岩槻邦男(編)『日本の野生植物 シダ』 p.223〜224. pl.144. 平凡社
光田重幸, 1986. コウヤワラビ. 『しだの図鑑』 pls.55. p.57. 保育社
山本明. 2001. コウヤワラビ. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 114〜115. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. コウヤワラビ. 『六甲山地の植物誌』 98. (財)神戸市公園緑化協会
白岩卓巳・鈴木武 1999. コウヤワラビ. 兵庫県産維管束植物1 イワデンダ科. 人と自然10:112. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:7th.May.2013

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