クリンソウ Primula japonica  A. Gray サクラソウ科 サクラソウ属
湿生植物  兵庫県RDB Aランク
Fig.1 (兵庫県篠山市・山中の溜池畔 2013.5/22)

山野の湿地や河畔、ときに溜池畔に生育する多年草。栽培されることも多い。
根茎は短く、分枝して株をつくる。葉は大きく、根生し、軟らかく無毛、裏面に腺状の細点を散布する。
葉身は倒卵状長楕円形で、長さ15〜40cm、幅5〜13cm、上部は丸く、縁は不整な多数の低3角状の歯牙があり、表面にしわが多い。
葉身の基部は次第に狭まって翼のある柄状になり、ふつう赤味を帯びる。
花茎は高さ40〜80cmで直立、無毛、2〜5段輪生して多数の花をつける。苞は線形。
萼は狭い杯状で長さ6〜8mm、花後わずかに伸び7〜10mm、1/3ほどまで5裂し、裂片は狭3角形で先は細くとがる。
花冠は紅紫色で径2〜2.5cm、萼筒はやや細く長さ1.5〜1.7cm。花には短花柱花と長花柱花の2型がある。
刮ハは球形で径7mm、萼とほぼ同長。クリンソウに似たサクラソウ属の種はないが、いくつかの園芸品種がある。

■分布:北海道、本州、四国 ・ 台湾
■生育環境:湿地、溜池畔、河畔など。
■花期:5〜5月
■西宮市内での分布:市内では見られない。シカの忌避植物であり、自生地では殖えつつある。

Fig.2 全草の様子。(兵庫県篠山市・山中の溜池畔 2009.5/24)
  葉は根生葉で地表に大きく広げ、高い花茎を立ち上げる。

Fig.3 根生葉。(兵庫県篠山市・山中の溜池畔 2009.6/4)
  根生葉は倒卵状長楕円形、縁には不整な低三角状の歯牙が並び、葉脈間の表面は多少とも盛り上がり、中央脈基部付近は赤味を帯びる。

Fig.4 花序に輪生する花。(兵庫県篠山市・山中の溜池畔 2013.5/22)
  花は合弁花で、花茎に多数段をなして輪生してつき、花茎の下方から咲き上がる。

Fig.5 苞と萼。(兵庫県篠山市・山中の溜池畔 2013.5/22)
  小花柄の下側には小花柄よりも少し短い線形の苞が1個つく。
  萼は狭い杯状で長さ6〜8mm、1/3ほどまで5裂し、裂片は狭3角形で先は細くとがる。

Fig.6 花冠。(兵庫県篠山市・山中の溜池畔 2013.5/22)
  花冠は鮮やかな紅紫色で径2〜2.5cm、多数の花をつけるため遠くからでもよく目立つ。
  花には短花柱花と長花柱花とがあり、それぞれ別のタイプの花の花粉によってしか受粉しないという。
  画像の花は花柱の見えない短花柱花である。

Fig.7 未熟な果実。(兵庫県篠山市・山中の溜池畔 2009.5/24)
  果実は刮ハで球形。花柱はかなり後まで残る。萼は開花期よりも少し長くなる。

Fig.8 果実期には枯れた花茎が直立して残る。(兵庫県篠山市・林道脇 2015.8/12)

Fig.9 種子。(兵庫県篠山市・林道脇 2015.8/12)
  種子は不斉な立方形で、長さ0.6〜0.9mm、黒色、表面には隆起した網目模様がある。

Fig.10 開花期に見られた幼苗。(兵庫県篠山市・山中の溜池畔 2009.5/24)
  種子は春先に出芽するようだ。成熟株周辺には多数の幼苗が見られ、発芽率は高そうである。
  画像中にはオタカラコウやミゾホオズキの幼苗も見えている。

Fig.11 春先に根生葉を広げはじめたクリンソウ。(兵庫県篠山市・山中の溜池畔 2009.3/12)
  若い葉にはしわが多い。

生育環境と生態
Fig.12 山中の溜池畔の流れ込み部分の湿地に群生するクリンソウ。(兵庫県篠山市・山中の溜池畔 2009.5/24)
溜池に流入する河川上流にはクリンソウの群生する湿地があり、そこから種子が流入して定着したものだろう。
周辺の裸地には実生苗が沢山あって踏みつけそうになる程で、数年すれば大きな群落となりそうである。
流れ込み部分には土砂が溜まり湿地状となっており、タカネマスクサ、シラコスゲ、タニガワスゲ、オオバチドメ、ニシノヤマクワガタ、ミズタビラコ、
オタカラコウ、ミヤマタゴボウ、アケボノソウ、ニシノオオタネツケバナ、ネコノメソウなどの湿生植物のほか、
荒地や川原に見られるヤマゴボウやジャケツイバラが生育している。

Fig.13. 枯れたタニガワスゲの株上に生育するクリンソウ。(兵庫県篠山市・山中の溜池畔 2013.5/22)
Fig.10と同じ自生地で、4年経た現在ではFig.10画像の溜池の水際に見られたスゲ類は全てシカに食い尽くされてしまった。
流れ込みに生育していたタニガワスゲも食い尽くされて枯れてしまい、その上にクリンソウが根付いていた。
同じタニガワスゲの残骸上に生育しているのはシカの忌避植物であるマツカゼソウ、食害を受けにくいチャルメルソウ、それにオオバタネツケバナ、
ノミノフスマ、ミズタビラコの幼苗で、これらの幼苗は大きくなると食べられてしまうだろう。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山崎敬, 1981. サクラソウ科サクラソウ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.21〜24. pls.16〜20. 平凡社
北村四郎・村田源, 2004 サクラソウ科サクラソウ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(T) 合弁花類』 p.230〜234. pl.69. 保育社
村上司郎. 2001. サクラソウ科サクラソウ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1108〜1109. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. クリンソウ. 『六甲山地の植物誌』 174. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. クリンソウ. 『近畿地方植物誌』 53. 大阪自然史センター
布施静香・黒崎史平 2005. 兵庫県産維管束植物6 サクラソウ科. 人と自然16:103-112. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:9th.Aug.2016

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