クロカワズスゲ Carex arenicola  F. Schmidt カヤツリグサ科 スゲ属 クロカワズスゲ節
湿生植物
Fig.1 (西宮市・棚田の畦 2007.4/8)

Fig.2 (西宮市・河川堤防 2012.4/24)

水田の畦や農耕地周辺、砂質の湿地や海岸に生える1年草。
棚田の畦では、春先にスズメノヤリとともに密生しているのをよく見かける。
高さ10〜30cmで、根茎は横走し直立する茎が疎らに出る。葉は硬く、幅2〜3mm、有花茎よりも短い。
小穂は褐色を帯び、長さ5〜8mm、茎の上部に密集し、各小穂の最上部には雄花が付き、雄花に接した下部に雌花を多数つける。
果胞は開出し、卵形、長さ3〜4mm、背面は円く突出し、基部は肥厚して海綿質、上方はやや長い嘴となって縁がざらつき、口部は膜質。
鱗片は褐色を帯び、果胞とほぼ同長、長さ3〜4mm。痩果は長さ1.7mm。柱頭は2岐する。

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ サハリン、朝鮮半島
■生育環境:水田の畦や農耕地周辺の日当たりがよくやや湿った場所。
■花期:4〜5月
■西宮市内での分布:中部〜北部の水田や農耕地に比較的普通。

Fig.3 全草標本。(西宮市・旧畑地 2010.5/13)
  根茎は横走し、節から直立する茎と束生する葉をまばらに立ち上げる。

Fig.4 基部。(西宮市・棚田の畦 2007.4/8)
  鞘は淡色でやや赤褐色を帯びる。
  画像のものは畦の急な斜面に生育していたもので、根茎は斜上しているように見える。

Fig.5 雄花期のクロカワズスゲ。(西宮市・水田の畦 2008.4/6)
  ふつうスゲ類では、雄花期の後、雌花期があり、自家受粉を防ぐ。

Fig.6 雌花期のクロカワズスゲ。(西宮市・農道脇 2007.4/29)
  2岐する雌蕊柱頭は非常に長く、短毛を密生する。

Fig.7 農道のコンクリートの隙間にそって根茎を伸ばし、疎らに花茎を立ち上げるクロカワズスゲ。(西宮市・農道脇 2007.4/29)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.8 春先の農耕地でスズメノヤリ、カンサイタンポポ、オランダミミナグサ、タチイヌノフグリ、ヒメオドリコソウ、スギナ、スイバ、
ギョウギシバ、アオスゲ、スズメノエンドウなどとともに、農耕地路傍の典型的な景観をつくりだす。(西宮市 2007.4/29)

Fig.9 棚田の畦でスズメノヤリとともに密生するクロカワズスゲ。(西宮市 2007.5/13)

Fig.10 抽水状態で匍匐枝をのばして生育するクロカワズスゲ。(西宮市・溜池畔 2008.5/14)
山間の溜池でオオミズゴケ群落中にモウセンゴケやイヌノヒゲ類とともに生育していた。
クロカワズスゲは棚田の畦や畑地という印象が強かったので、はじめは別種だと思ったが小穂を確認すると本種だった。
池中に向かってヒメホタルイのように列をなして匍匐枝を伸ばし生育しており、日陰には弱いが水中にはある程度の耐性があるようだ。

Fig.11 開花した農道脇のクロカワズスゲ群落。(西宮市・農道脇 2009.4/10)
市内では農道脇や畦などに芝状に密生する場所が見られる。
草丈の低いクロカワズスゲは刈り込みに遭っても被害は軽微で、横走する根茎によって生育領域を広げ画像のようになる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. クロカワズスゲ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.168. pl.148. 平凡社
小山鐡夫, 2004 クロカワズスゲ. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.258. pl.65. 保育社
勝山輝男. 2001. スゲ属クロカワズスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 448. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男, 2005 クロカワズスゲ. 『日本のスゲ』 46,47. 文一総合出版
谷城勝弘, 2007 クロカワズスゲ. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 39. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. クロカワズスゲ. 『六甲山地の植物誌』 242. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. クロカワズスゲ. 『近畿地方植物誌』 153. 大阪自然史センター

最終更新日:5th.Apr.2013

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