ミソハギ Lythrum anceps  (Koehne) Makino ミソハギ科 ミソハギ属
湿生植物

Fig.1 (西宮市・用水路 2007.8/2)

Fig.2 (兵庫県加東市・溜池畔 2010.8/8)

用水路脇、水田の畦、休耕田、中栄養な湿地、農耕地周辺の湿地に生える多年草。
地下で根茎が横走して、節から茎を立ち上げて群生し、高さ50〜100cm。茎には稜があって、ほとんど無毛。
葉は対生し、広披針形でほとんど柄はなく、長さ2〜6cm、幅6〜15mm。基部は茎をあまり抱かず、葉先は鈍頭。
花は苞葉の腋に1〜3個づつつき、柄はごく短く、萼筒は長さ5〜8mmで、針状の付属体が開出してつく。
花弁は6個(ときに4〜5個)、紅紫色で長さ6〜7mm。雄蕊は12個、雌蕊は1個あり、花によって長短3型がある。
苞は広披針形〜長楕円形で、葉縁に毛状突起がある。

ミソハギはちょうど盆の時期に開花し、盂蘭盆会の仏花として使われた。そのため「ボンバナ」の異名がある。
またミソハギという和名自体も「みそぎはぎ(禊ぎ萩)」が訛ったものからきている。
このため、水田の畦に生えているものは自生のものか植栽であるのか、現在となっては区別し難いものが多い。
このような例は、古くは薬用や食用、祭事用や細工用に用いられた有用植物に共通する。
湿生、水生植物ではミソハギのほかに、例えば、サジオモダカ、ショウブ、カサスゲなどがあげられる。

ミソハギに似たものにエゾミソハギL. Salicaria)があり、生息環境も似るが、全体に短毛があり、茎の上部や萼にも毛状突起があり、
萼筒の付属物はやや長く、開出せずに直立する。葉には柄がなく、基部は幅広く、茎を抱く。
また、ミソハギとエゾミソハギの種間雑種にメミソハギL. anceps × salicaria)があり、萼筒の付属物は斜開するなど、
両種の中間的な形質を現す。園芸品として夏になるとエゾミソハギとして出回るもののほとんどは、メミソハギである。
最近、都市部などでは植栽されたメミソハギをよく眼にするようになった。

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島
■生育環境:用水路脇、水田の畦、休耕田、中栄養な湿地、農耕地周辺の湿地など。
■花期:8月
■西宮市内での分布:市内では中・北部に比較的普通。市内では休耕田で見られることが最も多い。

Fig.3 花は茎上部の葉腋につく。(西宮市・溜池畔 2007.7/19)
  正面の花冠は花弁が5個だが、普通は他の花冠のように花弁は6個つく。
  花には雌蕊の長さの異なる短花柱花、中花柱花、長花柱花の3型があり、自家受粉を防いでいる。画像のものは短花柱花。
  蕾のものは萼筒についた針状の付属物がわかりやすい。付属物は萼片の間に開出してつく。

Fig.4 長花柱花。(西宮市・用水路脇 2007.7/19)
  長花柱花は雌蕊が花冠から飛び出し、丸い柱頭がよく目立つ。雄蕊は短い。

Fig.5 刮ハ。(神戸市・湿原 2011.10/16)
  刮ハは萼筒に包まれて熟す(右)。
  刮ハは長楕円状披針形で先がとがり、長さ約3mm、中に多数の種子がある。

Fig.6 種子。(神戸市・湿原 2011.10/16)
  種子は卵形〜長卵形、淡褐色で、長さ約0.8mm、表面には網目状のしわがある。

Fig.7 茎と葉。(西宮市・溜池畔 2007.7/19)
  茎には、ふつう4稜あるが、それよりも数が多いこともあり、多少とも赤味を帯びることが多い。
  葉は披針形で、先端は鈍頭。葉柄はほとんどなく、茎を抱くことはあまりない。

Fig.8 前年の地下茎から出芽したばかりのミソハギ。(西宮市・池畔の湿地 2007.4/13)

Fig.9 成長期のミソハギ。(西宮市・休耕田 2007.4/29)
  赤い茎がよく目立つ。

Fig.10 抽水状態のミソハギの基部。(兵庫県丹波市・休耕田 2010.7/23)
  抽水状態で生育するものでは、水中にある茎の基部がスポンジ状の多孔質となって肥厚する。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 やや富栄養な溜池畔で開花しはじめたミソハギ。(西宮市・溜池畔 2007.7/19)
溜池畔の平坦地でヌマトラノオ、トダシバ、ムカゴニンジン、サワヒヨドリなどとともに群生している。
開花初期のミソハギは、茎も間延びせず、草体もみずみずしく、もっとも美しい。

Fig.12 用水路脇で刈り残されて開花したミソハギ。(西宮市・用水路 2007.8/2)
Fig1 と同じ箇所のもの。仏花として使われるのだろうか、ミソハギだけは刈り残され、他の草はきれいに刈り取られていた。
株元は斜面からにじみ出た湧水起源の水路で、オオミズゴケの群落がみられ、オモダカが進入していた。あまり見られない面白い光景だ。

Fig.13 棚田の畦に刈り残されたミソハギ。(西宮市・棚田の畦 2008.8/2)
同じような場所に生育するノカンゾウやワレモコウ、ヌマトラノオなどは綺麗サッパリと刈り取られている。
「盆花」として旧くから親しまれてきた習慣がそうさせるのだろう。刈り残されたミソハギは遠くからでもよく目立つ。

Fig.14 休耕田で群生するミソハギ。(西宮市・休耕田 2016.8/22)
2年前はアゼスゲやチゴザサ、ミゾソバ、ヤノネグサなどの水田雑草が繁茂していたが、数年でミソハギの大きな群落となっていた。

他地域での生育環境と生態
Fig.15 中栄養な溜池畔の湿地で群生するミソハギ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2013.9/8)
溜池畔では抽水状態でカンガレイ、クログワイ、ヒメガマの群生が見られ、水際からチゴザサの群落が広がり、そこにミソハギが群生する。
ミソハギ群落中にはコマツカサススキ、ムカゴニンジン、ヌマトラノオが混生している。
ミソハギ群落上端部には湧水湿地があり、イヌノハナヒゲ、スイラン、コシンジュガヤ、エゾアブラガヤ、シロイヌノヒゲ、イトイヌノヒゲなどが見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北川政夫, 1982. ミソハギ科ミソハギ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.261. pl.238. 平凡社
村田源, 2004 ミソハギ科ミソハギ属. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(U) 離弁花類』 p.48〜49. pl.13. 保育社
牧野富太郎, 1961 ミソハギ,エゾミソハギ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 417〜418. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984 ミソハギ科ミソハギ属. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 50+52. 保育社
村上司郎. 2001. ミソハギ科ミソハギ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1031〜1032. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ミソハギ. 『六甲山地の植物誌』 162. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ミソハギ,エゾミソハギ. 『近畿地方植物誌』 64. 大阪自然史センター
藤井伸二・福岡誠行・布施静香・黒崎史平 2003. ミソハギ. 兵庫県産維管束植物5 ミソハギ科. 人と自然14:143. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:8th.Dec.2016

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