ミズガヤツリ Cyperus serotinus  Rottb. カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・河川敷 2007.10/11)

Fig.2 (西宮市・休耕田 2015.9/22)

日当たりのよい水田や休耕田、河川敷、湿地などに生育するやや大型の多年草。
細長い根茎があり叢生し、基部の鞘は赤褐色で、2〜8個の葉を根生する。
花茎は高さ50〜100cmで、3稜あり、太く平滑。花序は複生し、苞葉は数枚つき葉状で、2〜3個は花序よりも長い。
花序枝は3〜7個あり、多数の小穂をつけ、中軸にはまばらに刺毛がある。
小穂は長さ1〜2cm。鱗片は広卵形で鈍頭、赤褐色で中肋は緑色、縁はやや内曲する。
痩果はレンズ状、卵形〜円形で、長さ1.3〜1.5mm、熟すと赤褐色となる。雌蕊柱頭は2岐する。
夏の終わり以降に地中に匍匐枝を伸ばし、晩秋には先端付近の節が肥厚して、塊茎となって越冬する。

■分布:日本全土、朝鮮半島、中国、インドシナ
■生育環境:日当たりのよい水田や休耕田、河川敷、湿地など。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:北部地域の水田周辺や河川敷などに見られる。

Fig.3 開花直前のミズガヤツリの花序。(西宮市・水田の畦 2007.9/6)
  水田の畦に生えるものは、頻繁に草刈の対象となるため、なかなか立派な個体の開花が見れない。
  この個体も、開花時に再観察に行くときれいさっぱりと刈り取られ、どこに生えていたのかさえ解らない状態だった。
  この時期の小穂は円筒形に近い形をしている。

Fig.4 ようやく出会えた開花中の株。(西宮市・河川敷 2007.10/11)
  自生地の他の株は全て花後で、この小さく貧弱な株だけが開花中だった。
  2岐する雌蕊柱頭が鱗片の間から伸びている。

Fig.5 開花後、種子形成期の花序。(西宮市・河川敷 2007.10/11)
  花序には3、4個の苞葉が付き、そのうち2本は花序よりもかなり長い。花序枝は普通、5〜8本。

Fig.6 小穂は花序枝中軸に開出〜やや斜上して付く。(西宮市・河川敷 2007.10/11)
  花序枝中軸は捩れ、短毛が生えている。

Fig.7 左:小穂は長さ10〜15mm、鱗片の中肋は緑色で背(竜骨)は丸く、縁は内曲し、先端は鈍頭。(西宮市・河川敷 2007.10/11)
  右:やや未熟な痩果。長さ1.5mmで卵形でレンズ状。痩果中央に見える膜質テープ状のものは残存した雄蕊の花糸。

Fig.8 花茎の横断面。(西宮市・河川敷 2007.10/11)
  大きな個体では茎の径は1cmにもなる。画像の個体では径4mm。
  茎内部には縦に長い気質に囲まれた維管束の集合組織が散在する。縦に長い気質には所々に、小孔のある横の仕切りがある。

Fig.9 地下部の匍匐枝と、形成された塊茎。(西宮市・河川敷 2007.10/18)
 

Fig.10 塊茎は他のカヤツリグサ科植物と較べて長く、大きい。(西宮市・河川敷 2007.10/18)
  塊茎は根茎の節の部分が肥厚して数節つながったもので、先端部に越冬芽が形成されている。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 河川敷の湿地状の場所で群生するミズガヤツリ。(西宮市・河川敷 2007.10/18)
比較的自然度の高い河川敷では、在来のカヤツリグサ属の観察に適している。
ここではミズガヤツリをはじめとして、アゼガヤツリ、カワラスガナ、コゴメガヤツリ、カヤツリグサ、ハマスゲ、チャガヤツリ、
ヒメクグなど、多くのカヤツリグサ科カヤツリグサ属の草本が見られた。
キシュウスズメノヒエ、セイバンモロコシ、メリケンガヤツリなどの外来種もかなり優勢だが、シロバナサクラタデ、クサソテツ、
サデクサなど、ここでしか見られない種も多い。

Fig.12 住宅地に残された水田内でかろうじて残存したミズガヤツリ。(西宮市 2007.10/11)
除草の対象となる水田中央には見られず、水田の外縁付近でようやく生育している。
生育状態も貧弱で、花序枝は3本のみ見られ、小穂も米粒のようで、まるで別種のようにみえる。(画像右上)
この水田内にはオモダカ、ウリカワ、コナギ、チョウジタデ、アゼナ、アメリカアゼナ、イヌホタルイなど一般的な水田雑草に混じって、
近年急激に減少したヒメミソハギが生えている。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科カヤツリグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.180〜184. pls.164〜168. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科カヤツリグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.238〜246. pls.60〜62. 保育社
牧野富太郎, 1961 ミズガヤツリ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 760. 北隆館
北川淑子・堀内洋. 2001. カヤツリグサ属ミズガヤツリ亜属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 413. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003. カヤツリグサ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 50〜99. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007. カヤツリグサ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 174〜197. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ミズガヤツリ. 『六甲山地の植物誌』 250. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ミズガヤツリ. 『近畿地方植物誌』 163. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ミズガヤツリ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:168.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:5th.Aug.2016

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