ミズオトギリ Triadenum japonicum  (Blume) Makino オトギリソウ科 ミズオトギリ属
湿生〜抽水植物
Fig.1 (西宮市・水辺湿地林内 2007.8/19)

Fig.2 (兵庫県福崎町・水路脇 2014.8/21)

湿地や溜池畔、河川に生育する多年草。抽水状態で見られることも多い。
地下に紅色を帯びた細長い根茎があって、分枝して群生し、茎は分枝せずに直立し、高さ30〜70cm、基部は赤紫色を帯びることが多い。
葉は無柄で長楕円形または披針状長楕円形、長さ3〜7cm、幅1〜3.5cm、全面に明点があり全縁、円頭ときに鈍頭で、網状脈が目立つ。
花序は葉腋につき、ごく短い柄のある径1cm前後の淡紅色の花を1〜3個づつける。花は1日1花づつ、午後2時から1日花を開く。
萼は卵状楕円形で、5個、赤褐色を帯び、長さ3〜4mm。花弁は狭倒卵形で長さ約5mm、淡肉紅色。
雄蕊は9個で、葯の先端に小さな突起があり、基部で3個づつ合着。腺体は3個あり、橙黄色で、長さ1mm。雌蕊の花柱は3個、離生し、互いに相寄り直立する。
刮ハは楕円状球形、長さ約1cmで明腺条があり、鋭頭。熟すと3裂する。種子は楕円形で、長さ1〜1.2mm、表面には蜂の巣状の隆起した格子模様がある。

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、満州、シベリア東部
■生育環境:湿地や溜池畔、河川など。
■花期:8〜9月
■西宮市内での分布:北部の溜池畔の湿原と、棚田の畦の2ヶ所で生育を確認している。

Fig.3 茎の頂部が開花中の個体。(西宮市・水辺湿地林内 2007.8/19)

Fig.4 葉腋で開花したミズオトギリ。(西宮市・水辺湿地林内 2007.8/19)
  各葉腋に1〜3個づつ花をつけ、1日に1個づつ開花する。開花は午後2時以降にはじまり、夜半になると閉じる1日花。
  葉腋から花柄が伸びて2出集散状に分枝しているのがわかる。

Fig.5 花冠の拡大。(西宮市・水辺湿地林内 2007.8/19)
  雄蕊は3本づつ基部で合着し、計9本。合着した雄蕊間の根元には赤い腺体が見られる。

Fig.6 秋の果実形成期、自生地では透き通るような美しく黄葉した個体が眼を引く。(西宮市・池畔 2007.10/20)
  黄葉と赤く色付いた果実のコントラストが見事だ。
  刮ハは長さ1cmで、長卵形で鋭頭、明腺条がある。画像の刮ハは赤く色づいていて、間もなく熟す。

Fig.7 茎が完全に赤化し、葉が朱に染まったもの。(西宮市・池畔 2006.10/20)
  こちらも透明感のある美しさだ。

Fig.8 冬枯れのミズオトギリ。(西宮市・池畔 2007.1/18)
  花茎は冬になっても立ち枯れたまま残り、3裂した刮ハ残骸がよく目立ち、萼も宿存する。
  この頃のものでも、わずかな種子が底部に残存している。

Fig.9 種子は1.2mm前後で、楕円形〜俵形、表面には5〜6角形の格子模様がある。(西宮市・池畔 2007.1/18)
  種子の発芽率は高い。

Fig.10 成長期のミズオトギリ。(西宮市・池畔 2007.5/27)
  葉は無柄で長楕円形、円頭。葉身は網状脈が目立つ。

Fig.11 葉裏には腺点が散布する。(兵庫県宍粟市・湿地 2009.9/26)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.12 水辺湿地林の林床に群生するミズオトギリ。(西宮市・水辺湿地林内 2007.8/19)
ここでは抽水状態とならず、水際の泥地に群生していた。
表面を水が流れるような場所ではヘラオモダカやタチスゲが多く見られた。

Fig.13 池畔で抽水状態で生育するミズオトギリ。(西宮市・池畔 2007.10/16)
同所的にカンガレイが生育しているが、ミズオトギリはカンガレイよりもほんのわずか陸地寄りの浅場に、抽水状態で群生している。
この場所では、池の深場からカンガレイ→ミズオトギリ→コシロネ・チゴザサ→ヘラオモダカ→ヤノネグサ(ほぼ陸上)→ヒメシロネ(完全に陸地)
といった順序で、ときに混生しながら、池の縁に帯状の群落を形成している。

Fig.14 棚田の水田の縁で生育するミズオトギリ。(西宮市・水田の畦 2010.8/13)
丘陵部の棚田の水田の縁に帯状に生育していた。草刈りに遭うためか背丈の低いものが多い。
同所的にサワヒヨドリ、ワレモコウ、ノコンギク、ノアザミ、キツネノボタンなどが生育している。

他地域での生育環境と生態
Fig.15 農業用水の脇に群生するミズオトギリ。(兵庫県加東市・水路脇 2007.8/19)
丘陵部の農業用水の脇にミズオトギリの群生が長い距離にわたって続いていた。
群生の間にはカモノハシ、ヌマガヤ、ホソバリンドウ、ヤマラッキョウなどが混じって生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
籾山泰一, 1982. オトギリソウ科ミズオトギリ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.113. pl.110. 平凡社
北村四郎・村田源, 2004. オトギリソウ科ミズオトギリ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.66. pl.16. 保育社
牧野富太郎, 1961 ミズオトギリ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 747. 北隆館
城川四郎. 2001. オトギリソウ科ミズオトギリ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 732〜735. 神奈川県立生命の星・地球博物館
大滝末男, 1980. ミズオトギリ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 70〜71. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984. ミズオトギリほか. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 66〜69. 保育社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ミズオトギリ. 『六甲山地の植物誌』 126. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ミズオトギリ. 『近畿地方植物誌』 70. 大阪自然史センター
黒崎史平 2001. ミズオトギリ. 兵庫県産維管束植物3 オトギリソウ科. 人と自然12:150. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:9th.Nov.2014

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