ミズタビラコ Trigonotis brevipes  (Maxim.) Maxim. ムラサキ科 キュウリグサ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・渓流畔 2008.5/16)

山間の湿地、溜池畔、渓流畔、湿った林内に生育する多年草。半日陰〜日陰を好む傾向が強い。
茎は下部で分枝して少し横に這い、上部では直立し、長さ10〜40cm、やや圧毛があり、基部に短い地下茎がある。
葉は楕円形で、長さ1.5〜4cm、幅1〜2cm、茎下部につくものは有柄、上部のものはときに無柄。
花序は巻散花序で、茎の上部に1〜5個生じ、小花の基部には苞はない。萼は5深裂し、裂片は3角形で長さ0.5〜1mm。
花は淡青紫色で5裂し、径2.5〜3mm、喉部に副隣があり、花軸に密に多数つく。小花柄は萼より短く、花後も直立する。
雄蕊は5個、花筒の中部につく。分果は4面体、黒褐色で平滑、光沢がある。

変種に分果の背に環状の付属物がつくコシジタビラコ(var. coronata)があり、近畿地方と北陸地方に分布する。
近似種 : タチカメバソウ

■分布:本州、四国、九州
■生育環境:山間の湿地、渓流畔、溜池畔、湿った林内など。
■花期:5〜6月
■西宮市内での分布:中〜北部の山地渓流に見られるが少ない。県内では中〜北部に広く分布する。

Fig.2 成長期のミズタビラコ。(兵庫県三田市・渓流畔の林床 2008.4/21)
  茎下部で分枝して多少横に広がり、茎上部は直立する。

Fig.3 葉の様子。(兵庫県三田市・渓流畔の林床 2008.4/21)
  葉は楕円形で全縁、毛がまばらに生え、葉縁にはやや多く毛が生える。
  茎上部の葉は無柄となることがあるが、葉柄が見られるものが多い。

Fig.4 茎はときに倒伏して横に這うこともある。(兵庫県篠山市・砂防ダム 2008.5/8)
  茎は軟らかく、ときに赤紫色を帯び、圧毛が生える。

Fig.5 花序。(兵庫県篠山市・渓流畔 2008.5/16)
  花序は巻散(けんさん)花序で、はじめ巻いているが、解けながら開花してゆき、花後の花軸は直立する。
  開花間もない小花が、おおよそ巻いた花序の頂上付近に来るようになっている。

Fig.6 小花。(兵庫県篠山市・渓流畔 2008.5/16)
  開花期は5〜6月。花冠は5裂し、淡青紫色を帯び、花筒の喉部に白色の副隣がある。副隣の奥には5個の雄蕊が見える。
  萼裂片は3角形。小花柄は萼よりも短く、花軸や小花柄、萼には圧毛が生える。画像には6裂した花冠も見られ、面白い。

Fig.7 果実。(兵庫県丹波市・溜池畔 2009.6/18)
  果実は分果。4面体で平滑、光沢のある黒褐色。

Fig.8 越冬を終えて春先に出芽した個体。(兵庫県三田市・湿った林道脇 2008.3/13)
  葉身は小さく、葉柄が長く目立つ。

生育環境と生態
Fig.9 管理放棄された溜池跡に生育するミズタビラコ。(兵庫県三田市・溜池跡の湿地 2009.5/11)
溜池跡の軟泥化した腐植質と流入する土砂が堆積し、表層を湧水が細流となって広がる湿地に生育している。
画像左に見えているネコノメソウ、中央のニシノヤマクワガタなどのほかシラコスゲ、クサスゲ、オタルスゲ、オオバタネツケバナ、アケボノソウ、
ハイチゴザサ、ドクダミ、イグサなどとともに生育している。

Fig.11 溜池畔に生育するミズタビラコ。(兵庫県丹波市・溜池畔 2009.6/18)
溜池畔の湧水がしみ出す日なた〜半日陰の裸地に生育している。
ここではシラコスゲ、オオハリイ、タチスゲ、イグサ、ドクダミ、ネコノメソウ、ニシノヤマクワガタ、トウバナ、オオバタネツケバナ、
シソ科sp.などとともに見られた。溜池畔や湿地などに同所的に生育する種には一定の傾向が見られるようである。

Fig.11 渓流畔に生育するミズタビラコ。(兵庫県篠山市・渓流畔 2008.5/16)
渓流畔の岩上にタチネコノメソウ、ヒメレンゲ、コアカソやミヤマイラクサの幼株、オオバタネツケバナなどとともに生育している。
ミズタビラコの本来的な生育環境のイメージはこのような場所であるが、兵庫県内では三田市より北では湿地や溜池畔にも出現してくることが多くなる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
村田源, 1981. ムラサキ科キュウリグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 pp.65〜66. pls.54〜55. 平凡社
北村四郎・村田源, 2004 ムラサキ科キュウリグサ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(T) 合弁花類』 pp.196〜197. pls.60. 保育社
牧野富太郎, 1961 ミズタビラコ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 513. 北隆館
佐々木あや子. 2001. ムラサキ科キュウリグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1178〜1180. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ミズタビラコ. 『六甲山地の植物誌』 182. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ミズタビラコ、コシジタビラコ. 『近畿地方植物誌』 48. 大阪自然史センター
小林禧樹・高野温子 2006. ミズタビラコ. 兵庫県産維管束植物6 ムラサキ科. 人と自然15:126. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:30th.Jun.2009

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