ミズトンボ Habenaria sagittifera  Reichb. fil. ラン科 ミズトンボ属
湿生植物  兵庫県RDB Cランク種・西宮市絶滅種
Fig.1 (兵庫県加東市・湿地 2008.9/22)

Fig.2 (兵庫県姫路市・湿地 2011.8/30)

Fig.3 (兵庫県小野市・休耕田 2014.9/24)

日当たりのよい湿地に生える夏緑性多年草。
茎は3角柱状で直立し無毛、楕円形の球茎からでて、ふつう高さ40〜70cm、競合する種と混生すると80cmを超えることがある。
葉は茎の下半部に数個互生してつき、線形で長さ5〜20cm、幅3〜6mm、先は細長くとがり、基部は茎を抱く。また、上部には線形の鱗片葉がつく。
花は淡緑色、径8〜10mm、茎頂にやや多数を総状につける。
苞は線状披針形、長さ8〜15mm。背萼片は円心形で長さ約4mm。側萼片は著しく下側が張り出し半切腎形で長さ5mm、幅6mm、花時には反展する。
側花弁はゆがんだ卵形、前縁下部は凸出して蕊柱に圧着する。唇弁は淡黄緑色で肉質、長さ2cm、3裂して十字形をなし、裂片は線形。
中裂片は全縁、側裂片は先にわずかに微歯があり、斜上して開出する。
距は15mm、下垂し、先端は急に球状にふくれる。蕊柱は短く、前方に突出する。葯は2室で、平行し、葯室に1個の花粉塊を入れる。

本種は自生地の開発、自生地の遷移、園芸目的による採取、営利目的による採取により減少しつつある。
サギソウと比較すると、栄養繁殖は難しく、栽培も容易ではない。山野草のカタログに載っているものはほぼ全て自生地からの採取によろもので、
不買運動すべきものだ。

関東以北には似たオオミズトンボH. linearifolia)が湿地に生育する。花は白色で径1〜1.5cmと大きく、距は2.5〜3cmと長い。

■分布:北海道西南部、本州、四国、九州 ・ 中国中部
■生育環境:湿地、溜池畔など。
■花期:7〜9月
■西宮市内での分布:東六甲や甲山での戦前の記録があるが、生育は確認できず、絶滅していると思われる。県内ではまだまだ自生地は多い。

Fig.4 花序。(兵庫県加東市・湿地 2008.9/22)
  花茎は直立し、花は総状花序にやや多数つく。

Fig.5 正面(左)と側面(右)から見た花のつくり。(兵庫県加東市・湿地 2008.9/22)
  蕊柱が前方に突き出し、唇弁が3裂して十字形になっているのが大きな特徴。
  サギソウと同属とは思えない姿だがが、この属の花にはユニークな形をしたものが多いということだろう。
  右側の横から見た花では、すでに葯はしぼんで粘着体は見られず、葯の中の花粉塊はポリネータによって持ち去られた後である。

Fig.6 斜めから見た花。(兵庫県加東市・湿地 2008.9/22)
  花は今にも飛び立とうとする風情だ。それとも懸命にポリネータを呼んでいる姿だろうか?
  自然のいたずらか、左側の粘着体には他の植物の冠毛らしきものが引っ付いている。

Fig.7 茎につく葉(朱矢印で示した)。(兵庫県加東市・湿地 2008.9/22)
  茎につく葉は線形で、上部に行くほど小さく、基部は茎を抱く。

Fig.8 果実形成期。(兵庫県小野市・休耕田 2010.10/27)
  花弁や萼片は枯れたまま宿存している。刮ハは長楕円形で、基部の先のとがった苞葉がよく目立つ。

生育環境と生態
Fig.9 湿地に生育するミズトンボ。(兵庫県加東市・湿地 2008.9/22)
溜池直下にある、かつては休耕田だったと思われる湿地にまばらに見られた。
シカクイとアゼスゲ群落が発達する中、サワヒヨドリ、キセルアザミなどと散生していた。

Fig.10 休耕田に群生するミズトンボ。(兵庫県小野市・休耕田 2011.9/11)
休耕されて何年経っているのか分からないが、かなりの年数を経たと思われる溜池直下の休耕田に、ミズトンボの大群生が見られた。
休耕田内はチゴザサ、コシンジュガヤ、イヌノハナヒゲが優占し、ミズトンボはおよそ1uに20個体程度が高密度に生育している。
このほか、休耕田内にはサワヒヨドリ、ミソハギ、キセルアザミ、スイランが多く、ミズトンボの花後にはスイランのお花畑となる。
畦や溜池土堤直下の排水路周辺ではユウスゲ、ノハナショウブ、オミナエシ、キキョウ、タムラソウ、ウメバチソウが生育する、非常に自然度の高い場所である。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑や一般書籍を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
里見信生, 1982. ラン科ラン亜科ミズトンボ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.191〜193. pls.172〜173. 平凡社
村田源, 2004 ラン科ミズトンボ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.7〜9. pls.1〜2. 保育社
牧野富太郎, 1961 ミズトンボ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 882. 北隆館
秋山守・佐宗盈 2001. ラン科ミズトンボ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 488〜489. 神奈川県立生命の星・地球博物館
近藤浩文, 1982 甲山周辺の湿地植物. 『六甲の自然』 85〜87. 神戸新聞出版センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ミズトンボ. 『六甲山地の植物誌』 255. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ミズトンボ. 『近畿地方植物誌』 134. 大阪自然史センター
黒崎史平・高野温子 2009. ミズトンボ. 兵庫県産維管束植物11 ラン科. 人と自然20:140. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:26th.July.2014

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