ミズニラ | Isoetes japonica A. Braun |
ミズニラ科 ミズニラ属 |
湿生〜抽水〜沈水植物 環境省準絶滅危惧種(NT)・兵庫県RDB Cランク種 |
Fig.1 (兵庫県篠山市・池干しされた池底 2008.7/27) 貧栄養〜やや中栄養または腐植栄養質な溜池、水路、水田、休耕田などに生育する多年または1年草。 水生のシダ植物で、溜池などでは沈水状態のものも多い。 茎は塊茎で泥中にあり、黒褐色偏球状でふつう底部が3裂する。 葉は塊茎上方に螺旋状につき、多数が叢生し、鮮緑色〜緑白色、線状円柱形で、長さ10〜50cm、幅1.4〜2.5mm、先に向かうにつれて細くなり、 葉先はとがる。内部は4室からなる空洞が発達し、柔らかい。 葉の基部は急に幅広くなり、白色扁平で、外側に膨らみ、辺縁は膜質となる。 6,7月頃から葉の基部内側に胞子が形成されるが、胞子には大胞子と小胞子の2型がある。 大胞子は外側の葉身基部に、小胞子は内側の葉身基部にできる。 大胞子は灰白色球形で、大きさ約0.1mm、太い3脈があり、その間がハチの巣状の隆起した網目状となる。 小胞子は半円形、長径約25μで、大胞子の1/4程度と小さく、平滑。 この仲間はミズニラの他にヒメミズニラ(I. asiatica)とシナミズニラ(I. sinensis)、ミズニラモドキ(I. puseudojaponica)などがある。 ヒメミズニラは北方系で、本州中部以北から北海道、千島、サハリン、カムチャッカに分布し、ミズニラより小型で、塊茎底部は2裂し、 大胞子表面には密に円錐形の突起がある。 シナミズニラは本州の霞ヶ浦と中国地方南部、四国、九州、中国といった暖帯域に分布。ミズニラに酷似するが大胞子表面の 模様が不規則で、うね状、またはイボ状になることで区別される。 シナミズニラには4倍体と6倍体とがあり、6倍体のものはオオバシナミズニラ(I. sinensis var. coreana)とされ、葉幅は1.6〜4.3mmにおよぶ大型なものとなる。 近年、新記載されたミズニラモドキは、大胞子に網目状模様があり、小胞子には針状突起がある。また、葉身基部につく小舌はミズニラより小さい。 また、ミズニラとミズニラモドキの種間雑種はミチノクミズニラ(I. × michinokuana)とされ、7倍体で両種のF1種間雑種で不稔。 大胞子と小胞子の表面はミズニラモドキと変わらないという。今のところ宮城県のみで発見されている。 ■分布:本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国 ■生育環境:貧栄養な溜池、水路、水田、休耕田など。 ■胞子形成期:6〜11月 ■西宮市内での分布:市内では確認できていない。兵庫県下では比較的よく見かける。 |
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↑Fig.2 沈水状態のミズニラ。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.6/23) |
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↑Fig.3 全草の様子。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.8/23) |
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↑Fig.4 葉の横断面。(兵庫県篠山市・溜池畔 2014.8/14) 葉は扁円柱形で、向軸側(画像では下側)がやや扁平となる。 維管束組織は中心柱部に集まり、周囲が気室となって縦の隔壁により4管に分けられており、さらに1管中にまばらな横の隔壁がある。 |
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↑Fig.5 葉の縦断面。(兵庫県篠山市・溜池畔 2014.8/14) 縦の長い管が、横の隔壁によって仕切られており、これによって気室の強度を増す。 |
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↑Fig.6 葉の基部は外側に膨らみ、内側に胞子を生じる胞子嚢がある。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.8/23) 最外縁の1枚の葉を下げて内側を覗くと、胞子嚢が破れて大胞子がこぼれ出た。 |
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↑Fig.7 葉の基部内側の大胞子嚢の様子。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.8/23) 小舌の下側に胞子嚢を生じる。画像では小舌は欠損している。大胞子嚢は6月ごろから形成される。 大胞子嚢は大胞子の粒が大きいため、膜壁の向こうに大胞子が透けて見えている。 |
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↑Fig.8 成熟した大胞子嚢の膜壁は薄くて破れやすく、破れると多数の大胞子がこぼれ出る。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.8/23) |
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↑Fig.9 ミズニラの大胞子。(兵庫県篠山市・溜池畔 2014.8/14) 大胞子は球形で3本の脈があり、その間がハチの巣状の隆起した網目となる。色は灰白色〜白色。 |
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↑Fig.10 株の中心付近。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.9/14) 株の中心付近の葉の基部には小胞子がつくられる小胞子嚢がある。 小胞子嚢は大胞子嚢よりも少なく、1株のうち10個以下であることがほとんど。 |
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↑Fig.11 小胞子嚢のある葉身基部内側。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.9/14) 小胞子嚢は白色〜灰白色。中は液体とともに膨大な量の小胞子が詰まっている。 小胞子嚢は大胞子嚢よりも形成時期が遅れ、充分に生育した個体でないと確認できないことがある。 |
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↑Fig.12 ミズニラの小胞子。(兵庫県篠山市・溜池畔 2014.8/14) 小胞子は半円形、長径約25μで、大胞子の1/4程度と小さく、平滑かまたは瘤状の突起がある。 外見上区別のつかないミズニラモドキの小胞子嚢には針状の突起があり、同定には高倍率の顕微鏡による観察が不可欠である。 |
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↑Fig.13 干上がった沼沢地の底一面に発芽したミズニラ。(兵庫県三田市・沼沢地 2007.9/16) |
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↑Fig.14 晩秋の干上がった溜池畔で見られた若いミズニラの個体。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.11/25) 葉の基部には胞子嚢は形成されていない。 |
生育環境と生態 |
Fig.15 溜池畔で生育するミズニラ。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.6/23) 地表に広がったミズユキノシタ群落の合い間に点々と生育する姿が見られた。 |
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Fig.16 野生動物による攪乱の多い溜池畔のミズニラ。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.8/23) マット状に剥ぎ取られたマツバイが散乱する間に見られた。 |
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Fig.17 山中の渇水した沼沢地の底面に群生したミズニラ。(兵庫県三田市・沼沢地 2007.9/16) |
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Fig.18 やや中栄養な溜池畔に生育するミズニラ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2008.7/27) 溜池の流れ込み部分に中型のイヌノヒゲ類(種は未確認)やマツバイとともに混生している。 池の大半がコカナダモによって占められているが、ヒメホタルイやサワトウガラシの密な群落、ホソバミズヒキモ、少数のヒシ、シャジクモなどが見られる。 ミズニラsp.は沈水状態のものも多数見られた。 池畔にはミソハギ、クサヨシ、ヒメガマ、ショウブ、キショウブが見られ、やや中栄養状態であることがわかる。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 角野康郎, 1994. ミズニラ科. 『日本水草図鑑』 p.8. pl.10. 文一統合出版 大滝末男, 1980. ミズニラ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 276〜277. 北隆館 高宮正之・渡邊充・小野莞爾, 1997. 日本産ミズニラ属の種生物学的研究. 4. 胞子体の形態学及び解剖学,地理的分布,分類学. 植物分類・地理 48(2):89〜122. 下田路子, 1983. ため池の水辺に生育する小型の「両性植物」について. 水草研究会会報 11:1〜3. 白岩卓巳・鈴木武 1999. ミズニラ. 兵庫県産維管束植物1 ミズニラ科. 人と自然10:78. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:18th.Aug. 2014 |