ミズスギ Lycopodium cernuum  L. ヒカゲノカズラ科 ヒカゲノカズラ属
湿生植物  兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (兵庫県南あわじ市・棚田の土手 2010.10/25)

Fig.2 (長崎県・棚田の土手 2009.10/25)

Fig.3 (兵庫県加東市・棚田の土手 2013.11/21)

日当たりのよい湿地周辺や用水路脇などの貧栄養な場所に生える暖地系の常緑の多年草。
茎には主軸と側枝とがあり、主軸は地表を這って不規則に分枝し、ところどころで地について、直立した側枝を出し、根をつける。
直立する側枝は高さ10cm程度となり、葉とともに径5〜9mm、分枝して樹木状となる。側枝は暖地では大きくなる傾向がある。
葉は淡緑色で全体に軟らかく、針状線形で全縁、内向することが多く、鋭頭で、糸状とならない。
胞子嚢穂は直立した側枝の先端に1〜2個頂生し、無柄、卵形で下向きにつく。
胞子葉は広卵形で、鋭尖頭、淡色、辺縁には微突起がある。

【メモ】 自然遷移、里山の管理放棄などで自生環境が減少し、自生地・個体数ともに減少しつつあり、兵庫県レッドデータブック2010 で新たにCランク種に指定された。
同属の似たものに以下の3種がある。
ヒカゲノカズラL. clavatum)…葉は線形ないし広線形で全縁で、先端は膜質の糸状となる。胞子嚢穂は長い柄を直立し、分枝して先に3〜6個つく。
               ときに、ミズスギと同所的に見られることもある。分布:北海道、本州、四国、九州、奄美諸島。
ヤチスギランL. inundatum)…茎は地表を這い5〜15cm。側枝は直立して分枝せず、先端に胞子嚢穂を単生する。胞子嚢穂の苞葉は開出してつき、基部は広がる。
               兵庫県では絶滅種(Ex)となっている。分布:北海道、本州(近畿以北)。
マンネンスギL. obscurum)…主軸は地中を長く這い、まばらに側枝を立ち上げる。側枝は直立、上部が樹木状にひろがり、各小枝端に胞子嚢穂を単生する。
               ふつう山地の林床や林縁に生育する。分布:北海道、本州、四国、九州。
近似種 : ヒカゲノカズラ、ヤチスギラン

■分布:本州(伊豆半島、東海地方以西)、四国、九州、沖縄、小笠原 ・ 亜熱帯〜熱帯に広く分布
       (北海道や北日本では火山・温泉地帯など地温の高い場所で例外的に生育する)
■生育環境:湿地、溜池畔、用水路脇など。
■生殖期:7月以降(西日本)
■西宮市内での分布:市内では中部〜北部の棚田の湿った裸地状の土手や土崖、微量な湧水のある裸地に見られるが少ない。

Fig.4 全草の様子。(西宮市・棚田の水路脇の斜面 2009.3/7)
  前年に伸びた側枝は枯れかけてワラ色になりつつある。まだ春先のためか主軸はもうひとつはっきりしていない。

Fig.5 主軸とそこにつく葉。(西宮市・棚田の水路脇の斜面 2009.3/7)
  主軸は硬く、やや光沢がある。画像では判り難いが、葉の基部から低い隆条が縦に流れる。
  葉は針状線形で先はとがり、やや膜質となるが糸状とはならない。

Fig.6 主軸から側生した成長途上の側枝(左)と、一部の拡大(右)。(西宮市・棚田の水路脇の斜面 2009.3/7)
  側枝の葉は触ると軟らかくしなる。葉はやや密につく。

Fig.7 側枝についた葉。(西宮市・棚田の水路脇の斜面 2009.3/7)
  主軸につく葉と同様、針状線形。先端は膜質となりとがる。

Fig.8 樹木状に小枝を広げた側枝。(西宮市・棚田の水路脇の斜面 2009.3/7)
  側枝は直立し、小枝を樹木状に分枝して広げ、先端に柄のない胞子嚢穂をつける。

Fig.9 胞子嚢穂。(西宮市・棚田の水路脇の斜面 2009.3/7)
  胞子嚢穂は小枝の先に下垂してつき、柄はなく、卵形。

Fig.10 胞子嚢穂を縦に裂いたところ。(西宮市・棚田の水路脇の斜面 2009.3/7)
  各胞子葉の基部に扁平な球形の胞子嚢があり、中軸を中心に螺旋状に並ぶ。胞子嚢の幅は約0.5mm。

Fig.11 胞子葉の基部についた胞子嚢(左)と胞子(右)。(西宮市・棚田の水路脇の斜面 2009.3/7)
  胞子葉は三角状卵形で、鋭頭、縁には鋸歯状の毛が生える。胞子嚢の表面には波状のしわが見える。
  胞子は図鑑では四面体形となっているが円形に近く見え、ほとんど透明に見えるのは冬期近くに形成されて、不稔であるからだろうか?

Fig.12 地下に伸びる根。(西宮市・棚田の水路脇の斜面 2009.3/7)
  主根はやや太く硬い。画像のものは一部表皮が欠損して、白い髄らしきものが見えている。
  側根も主根と比較すると太く、短い。主根、側根ともに毛根らしきものが生えているのが見える。

Fig.13 越冬したミズスギ。(西宮市・棚田の水路脇の斜面 2009.3/7)
  常緑越冬するが、山間棚田で寒風に吹かれるためか市内では冬季は褐色を帯び、半常緑といったかんじになる。

Fig.14 胞子嚢穂形成途上のミズスギ。(兵庫県篠山市・水田脇の斜面 2010.7/24)
  ミズスギの胞子嚢穂は初夏から序々に形成されはじめ、8〜10月頃に成熟し、色も淡黄色になる。
  画像のものはまだ胞子嚢穂は小さく、淡緑色で成熟していない。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.15 棚田上部の斜面に生育するミズスギ。(西宮市・棚田の水路脇の斜面 2009.3/7)
中央には素掘りの水路があり、その右手は水田の畦、左は切り通し状に削られた裸地状の斜面となりそこに生育している。
ミズスギの生育する斜面下部からは、微量ながら湧水が表面を濡らし、モウセンゴケ、アリノトウグサ、ミズギボウシが生育している。
素掘りの水路の周辺では夏になるとヘラオモダカ、チゴザサなどが見られる。

Fig.16 棚田の土手に密生したミズスギ。(西宮市・棚田の土手 2011.9/6)
刈り込まれたネザサが優占する棚田土手の急斜面にミズスギが密生していた。
ミズスギが生育する箇所は急傾斜であるため、ネザサがまばらとなって土壌が露出気味で、アリノトウグサなどとともに生育していた。

他地域での生育環境と生態
Fig.17 溜池直下の水田脇斜面に生育するミズスギ。(兵庫県篠山市・水田脇の斜面 2010.7/24)
溜池直下にある水田の山際が半裸地状の土崖となっており、その下部にミズスギが帯状に群落をつくっていた。
土崖直下には湧水を排出する素掘りの排水路が掘られており、畦をへだてて水田となっている。
素掘りの水路ではチゴザサが抽水状態で密生しており、ミズスギはチゴザサの陰となってあまり目立たない。
土崖にはミズスギのほか、ノギラン、ショウジョウバカマが数多く見られた。

Fig.18 古い林道の掘削された法面に群生するミズスギ。(京都府福知山市・林道法面 2013.8/20)
林道の掘削された日当たりよい法面を、広範囲にわたってミズスギの群生が覆っていた。
法面にはヒサカキの幼木、ヤマツツジ、カンサイスノキ、イワナシなどの低木、ショウジョウバカマ、アリノトウグサ、シシガシラなどが生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
岩槻邦男, 1992. ヒカゲノカズラ科ヒカゲノカズラ属. 岩槻邦男(編)『日本の野生植物 シダ』 p.42〜49. pls.1〜7. 平凡社
牧野富太郎, 1961 ミズスギ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 2. 北隆館
光田重幸, 1986. ミズスギ. 『しだの図鑑』 pls.22. p.24. 保育社
佐々木シゲ子. 2001. ヒカゲノカズラ科. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 13〜16. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ミズスギ. 『六甲山地の植物誌』 83. (財)神戸市公園緑化協会
松岡成久. 2010. ミズスギ. 西宮市産植物・補遺、並びに西宮市内に生育する要注目種(その1)シダ植物. 兵庫県植物誌研究会会報 82:3
松岡成久. 2011. 丹波地方におけるミズスギ(ヒカゲノカズラ科)の新産地. 兵庫県植物誌研究会会報 86:5
白岩卓巳・鈴木武. 1999. ミズスギ. 兵庫県産維管束植物1 ヒカゲノカズラ科. 人と自然10:76. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:3rd.Aug.2014

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