ミズタカモジ Elymus humidus  (Ohwi et Sakam.) Osada イネ科 エゾムギ属
湿生植物 
環境省絶滅危惧U類(VU)・兵庫県RDB Aランク種
Fig.1 (西宮市・耕起前の水田 2011.5/17)

Fig.2 (西宮市・耕起前の水田 2011.5/17)

田植え前の水田、畦、休耕田などに生育する多年草。中国からの史前帰化植物とする説がある。
叢生し、茎下部は横にはって放射状にひろがり、中部以上は立ち上がり、高さ30〜70cm。
葉は広線形〜狭披針形で、カモジグサよりも短く、葉鞘の縁は無毛。
花穂は線形、直立し、長さ10〜20cm、中軸は太く、小穂は中軸に密着し、カモジグサのように展開せず、紫色を帯びることが多い。
小花の内頴と護頴はほぼ同長、護頴は無毛で2〜3cmの芒があり、内頴は鈍頭。
花後、鱗片葉をつけた茎が直立して伸び、それが倒伏して節に新苗を生じて栄養繁殖する。

【メモ】 本種は圃場整備、稲作の早稲品種の導入などが原因で、各地で急速に減少している。
     今回の西宮市内での発見で、兵庫県下には5ヶ所の自生地が見つかったことになるが、草体はまさに雑草というかんじで、
     野外にあってもあまり気付かれていない可能性がある。カモジグサよりも開花期は早い。

オオタチカモジAgropyron ×mayebaranum)はミズタカモジとカモジグサの雑種とされ、花穂の上部は下垂し、不稔であるという。
近似種 : カモジグサ、アオカモジグサ、タチカモジグサ、オオタチカモジ

■分布:本州、四国、九州 ・ 中国
■生育環境:田植え前の水田、畦、休耕田など。
■花期:5月
■西宮市内での分布:北部の耕起前の水田2枚で確認した。

Fig.3 全草標本。(西宮市・耕起前の水田 2011.5/16)
  茎基部は横にはい、中部以上で立ち上がり、花穂は直立する。葉はカモジグサよりも短い。

Fig.4 基部。(西宮市・耕起前の水田 2011.5/17)
  叢生して、茎下部は放射状に地表を覆う。

Fig.5 節。(西宮市・耕起前の水田 2011.5/16)
  節はあまり肥厚せず、無毛。節と葉鞘基部は赤紫色を帯びていた。

Fig.6 葉鞘と葉舌。(西宮市・耕起前の水田 2011.5/16)
  葉鞘の縁は重なり合い、無毛。葉舌は短く、高さ0.7mm前後、切形。

Fig.7 花穂。(西宮市・耕起前の水田 2011.5/17)
  花穂はカモジグサのように下垂せず、直立し、小穂は中軸に密着するため線形となる。
  花穂は線形であるため、離れた場所から見ると、カモジグサよりもムツオレグサと見紛う。
  近寄って見ると、護頴の長い芒が確認でき、ミズタカモジだと知れる。

Fig.8 中軸。(西宮市・耕起前の水田 2011.5/16)
  小穂を1個取り除いて、中軸を露出させた。花穂の中軸は太く、縁には上向きの刺状突起が並ぶ。

Fig.9 ミズタカモジとカモジグサの花序。(西宮市・耕起前の水田 2011.5/16)
  ミズタカモジは小穂が中軸に接するが、カモジグサの小穂は斜開する。
  カモジグサの中軸はミズタカモジのものと比べると、非常に細い。

Fig.10 小穂。(西宮市・耕起前の水田 2011.5/16)
  小穂は無柄で、長さ17〜22mm(芒をのぞく)、はじめ淡緑色、のちに赤褐色を帯びる。
  幅はカモジグサの小穂よりも狭く、ほっそりとした印象を与える。

Fig.11 分解した小穂。(西宮市・耕起前の水田 2011.5/16)
  最左の2個が苞頴、ほぼ同形同長。小花は数個あり、画像では6個の小花がある。
  各小花の柄のように見えるものは小軸、花序の中軸にあたるもので、柄ではない。

Fig.12 小花。(西宮市・耕起前の水田 2011.5/16)
  上側が護頴で、下側が内頴。護頴と内頴はほぼ同長で、護頴には長さ2〜3cmの芒がある。葯は紫褐色。

Fig.13 護頴と苞頴。(西宮市・耕起前の水田 2011.5/16)
  護頴の背は無毛。内頴は2稜あり、稜上に上向きの微毛が生えている。

Fig.14 果実期。(京都府中丹地方・水田の畦 2015.5/29)
  花序は小穂が結実するとその場所から折れて脱落しやすい。

Fig.15 果実。(京都府中丹地方・水田の畦 2015.5/29)
  頴果は線状長楕円形で熟すと濃褐色、長さ約5mm、苞頴はかたく合着して分離しがたい。

Fig.16 耕起時に掘り上げた大型の個体。(西宮市・耕起前の水田 2011.5/16)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.17 田植えの耕起前にセトガヤとともに生育するミズタカモジ。(西宮市・耕起前の水田 2011.5/17)
耕起前の水田で中〜大型の個体が多数生育している。水田は耕起の真っ最中で、1時間後にはこの個体も土中に鋤き込まれ見られなくなった。
ミズタカモジはスズメノテッポウ、セトガヤ、カズノコグサなどと同様、耕起前のわずかな期間で生育して開花結実する性質を持つ。
しかし、今年は開花が遅れたためか、開花中の個体ばかりで、結実しているものはなかった。

Fig.18 耕起後、難を逃れて生き残った畦に生育する集団。(西宮市・耕起後の水田 2011.5/17)
耕起後の畦には点々と生き残った集団が見られ、これらの集団が世代をつないで行くと思われる。
畦にはアゼスゲ、ノテンツキ、クロテンツキ、ヒデリコ、ハリイ、ヤブカンゾウ、クサイ、スズメノヤリ、ヌカボ、オニウシノケグサ、ニワゼキショウ、
スイバ、チドメグサ、セリ、ウマノアシガタ、ヘビイチゴ、オヘビイチゴ、オランダミミナグサ、ムラサキサギゴケ、ノコンギク、ノアザミ、オオジシバリ、
ニガナ、カンサイタンポポ、オオバコ、コナスビなどが生育し、外来種は比較的少ない。


他地域での生育環境と生態
Fig.19 用水路脇の畦畔に生育するミズタカモジ。(京都府中丹地方・水田の畦 2015.4/24)
用水路に面した畦に半円状に広がった個体が生育しているもので、1個体が大きくなって、一部が水田内に鋤き込まれたものだろう。
画像に見える枕木状の木材の手前に用水路があり、向かいの畦にはミズタカモジは見られず、オオウシノケグサ、セイタカアワダチソウ、
ヒレタゴボウなどの外来種が多いが、手前側は在来種が多く生育している。
一帯は氾濫原由来の水田地帯で、コガマ、ヒメコウガイゼキショウ、ノハナショウブ、カキツバタ、ムツオレグサ、ウシノシッペイ、
サンカクイ、ホシクサ、ヒメミソハギ、ミズマツバ、タコノアシ、スズメハコベ、コタネツケバナ、アブノメ、シソクサ、ハッカ、
ノニガナ、オグルマなど多様な在来の湿生植物が残存している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 イネ科カモジグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.117〜118. pls.102〜103. 平凡社
木場英久. 2001. イネ科エゾムギ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 308〜311. 神奈川県立生命の星・地球博物館
矢内正弘. 2005. 兵庫県産絶滅危惧植物の昔と今 ミズタカモジ. 兵庫の植物 15:169.
藤本義昭・布施静香・黒崎史平・高橋晃・高野温子 2008. ミズタカモジ. 兵庫県産維管束植物10 イネ科. 人と自然19:179. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:30th.Jul.2016

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