ヒメミズワラビ(ミズワラビ) | Ceratopteris gaudichaudii Brongn. var. vulgaris Masuyama & Watano |
ミズワラビ科 ミズワラビ属 |
湿生〜抽水植物 兵庫県RDB Cランク種 西宮市絶滅種 |
Fig.1 (滋賀県・休耕田 2012.9/7) |
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Fig.2 (滋賀県・休耕田 2007.11/4) 水田、休耕田、水路、溜池などに生える1年草。シダ植物。 従来日本産のミズワラビとされていたものは、2つに分けられ、鹿児島県以北のものをヒメミズワラビとされた。 ミズワラビは沖縄県(石垣島、西表島など)に見られるものを指すようになった。 しかしながらこの名称はまだ一般的ではないため、カッコをつけてミズワラビも併記した。 学名はヒメミズワラビのものを採用している。 除草剤の使用や圃場整備によって減少し、各地で絶滅危惧種に指定されている。 草丈は生育環境や時期により変異が激しく、大きなものでは50cmを越すことがある。 根茎は短く、葉は斜上し叢生する。葉には栄養葉(裸葉)と胞子葉(実葉)の2型がある。 栄養葉は柔らかく、1〜4回羽状に深裂し、裂片は幅広い。沈水、または浮遊状態のものは羽片の分岐点によく無性芽を生じる。 水中や浮遊状態のものは裂片の幅が広くなり、縁は全縁で、質は薄くなり、網目状脈が透けて見える。 胞子葉は栄養葉よりも長く伸び、2〜4回羽状に深裂し、裂片は細長く、角状となり、羽片の外縁は裏側に反転し、その内側に 柄のない胞子嚢を葉脈にそって、1個づつ並列してつける。 「日本水生植物図鑑 北隆館」には東南アジアでは、アクもなく柔らかいのでサラダとして食されるとあり、 web上で調べると生食あるいは調理して食べることができるようであるが、詳細なレシピは拾えなかった。 ミズワラビは中国でも減少しているようで易危(VU)、國家二級保護野生植物としてランクされている。 ■分布:本州、四国、九州、沖縄 ・ 亜熱帯〜熱帯域 ■生育環境:水田とその周辺の湿地、溜池など。 ■出現期:5〜11月 ■西宮市内での分布:2004年に平野部の水田で確認したが、それ以降、市内では確認できていない。 |
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↑Fig.3 栄養葉。(滋賀県・休耕田 2007.11/4) 1〜4回羽状に深裂する。画像のものは3回羽状裂葉。寒気にあたったためか、赤褐色を帯びている。 |
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↑Fig.4 胞子葉を出したヒメミズワラビ。(西宮市丸橋町・水田 2004.10/8) 秋期、9月以降は栄養葉よりも、胞子葉を出すことのほうが多くなる。 |
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↑Fig.5 胞子葉。(滋賀県・水田 2007.11/8) 2〜4回羽状に深裂する。外縁は裏側に反転して角張り、角状となる。 |
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↑Fig.6 胞子葉の葉脈にそって切った縦断面(上)と横断面(下)。(滋賀県・水田 2007.11/8) 胞子嚢は柄がなく、円形で、葉脈の両側に並列してつく。胞子嚢の環帯は不完全。 胞子嚢には、12〜32個の胞子ができ、胞子は四面体で、径120μ(0.12mm)ある。 *注:1μ(ミクロン)=1/1000mm |
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↑Fig.7 ヒメミズワラビの幼株。(滋賀県・休耕田 2007.11/4) 幼株の栄養葉は切れ込まず倒卵形。画像のものは11月という時期柄か、小さな栄養葉を出してすぐに、胞子葉を出している。 *注:周囲に見られる暗緑色のコケはツノゴケ綱のヤマトツノゴケモドキ(ツノゴケ科ツノゴケモドキ属)。 |
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↑Fig.8 展葉途上の栄養葉。(兵庫県丹波市・水田 2010.9/1) |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.9 2004年に市内平野部の水田で見られたヒメミズワラビ。(西宮市丸橋町・水田 2004.10/8) 市内ではこの年以降、ヒメミズワラビの自生を確認できていない。 ヒメミズワラビの胞子の寿命は長いとされているので、復活を期待したいところだが…。 追記:その後、標本を未採集であったので採集に出掛けたところ、自生地の水田はすべて真新しい住宅地となっていた。 周辺ではヒメミズワラビの生育は確認できておらず、西宮市内では絶滅した可能性が高い。 |
生育環境と生態 |
Fig.10 休耕田で群生するヒメミズワラビ。(滋賀県・休耕田 2007.11/4) 除草剤をほとんど使用していないのだろうか、ここでは様々な水田雑草が見られた。 同所的に見られたものは、ヘラオモダカ、ウリカワ、コウガイゼキショウ、ヒロハイヌノヒゲ、ハリイ、ホタルイ、マツバイ、ヒナガヤツリ、タマガヤツリ、 アゼナ、アゼトウガラシ、キカシグサ、サワトウガラシ、チョウジタデ、ミズネコノオなどであった。 |
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Fig.11 溜池畔の休耕田で群生するヒメミズワラビ。(兵庫県丹波市・休耕田 2010.9/5) ミズワラビは阪神・摂津では稀だが、丹波地方ではふつうな水田雑草として、水田や休耕田で生育しているのが見られる。 ここでは溜池畔の休耕田で、キクモ、トキンソウ、ミゾハコベ、ヒデリコ、テンツキ、アゼナ、チョウジタデ、アゼトウガラシなどの 水田雑草やニシノオオアカウキクサとともに生育していた。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 牧野富太郎, 1961 ミズワラビ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 56. 北隆館 角野康郎, 1994. ミズワラビ科. 『日本水草図鑑』 p.9. pl.11. 文一統合出版 大滝末男, 1980. ミズワラビ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 272〜273. 北隆館 山本明. 2001. ホウライシダ科ミズワラビ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 48. 神奈川県立生命の星・地球博物館 江村伸一・鈴木武. 2008. 川西でデンジソウとミズワラビを発見. 兵庫県植物誌研究会会報 77:3 矢内正弘・松永麻子. 2009. 西脇市におけるミズワラビの調査. 兵庫県植物誌研究会会報 78:4〜5 松岡成久. 2010. ミズワラビ. 西宮市産植物・補遺、並びに西宮市内に生育する要注目種(その1)シダ植物. 兵庫県植物誌研究会会報 82:3 白岩卓巳・鈴木武 1999. ミズワラビ. 兵庫県産維管束植物1 ホウライシダ科. 人と自然10:85. 兵庫県立・人と自然の博物館 角野康郎. 2011. ヒメミズワラビ. 水草研究会誌 96:表紙. 水草研究会 最終更新日:23rd.Sep. 2012 |