ムツオレグサ (ミノゴメ) | Glyceria acutiflora Torr. | イネ科 ドジョウツナギ属 |
湿生〜抽水植物 |
Fig.1 (西宮市・水田内の素掘り水路 2007.5/13) |
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Fig.2 (神戸市・休耕田 2013.5/22) 比較的自然度の高い湿田、休耕田、用水路、溜池畔に生える多年草。用水路や溜池では抽水状態のものもよく見かける。 茎は基部では横に這い、春先の花期が近づくと直立して、高さ20〜70cmになり、基部に斜上する新芽をつける。 葉は薄く線形で長さ10〜30cm、幅3〜6mm。 葉舌は長さ3〜7mmあって披針状三角形で鋭頭、白色膜質で欠損しやすい。 小穂は花序中軸に嵌め込み状に密着するために、円錐花序は線形に見える。 花序の長さは10〜30cm、5〜20個の小穂をつける。 小穂は長さ2.5〜5cmで、8〜15個の小花よりなる。苞穎は2個。 小花は1個の護穎と1個の内穎に包まれ、護穎は7脈あり披針形。内穎は護穎よりもわずかに長く先端は2尖頭に終わる。 和名の「六折草」は、小穂が熟すと、小花がばらばらに落ちることからきたといわれている。 別名のミノゴメはみの米で、ときに「田麦」と呼ばれることもありいずれも食糧となることから。 ■分布:本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国中南部、北アメリカ ■生育環境:比較的自然度の高い湿田、休耕田、用水路、溜池畔など。 ■花期:5〜6月 ■西宮市内での分布:市内では北部の棚田周辺の用水路や湿田内に見られるが、少ない。 |
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↑Fig.3 全草標本。(兵庫県三田市・素掘りの水路 2011.5/15) 茎の下部は淡紅紫色を帯びることが多い。葉や葉鞘は無毛で、脈上に刺状突起があり、ざらつく。 |
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↑Fig.4 開花時でも小穂は中軸に寄り添い、花枝はほとんど展開することはない。(西宮市・休耕田 2008.11/16) 線形の総状花序のように見えるが、本来は円錐花序である。 図鑑などでは開花は初夏となっているが、盛夏と厳冬期以外ほぼ1年中開花が見られる。画像は11月中旬の撮影である。 |
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↑Fig.5 花序中軸に嵌め込み状に付く小穂。(西宮市・用水路 2007.6/10) |
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↑Fig.6 花序の拡大。(西宮市・用水路 2007.6/10) |
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↑Fig.7 小穂。(西宮市・用水路 2007.6/10) 小穂は5〜20個の小花からなり、基部には小さな不同長な苞穎が2個ついている。 画像のものでは11個の小花が見られる。 |
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↑Fig.8 護穎には7脈ある。(西宮市・水田内の素掘り水路 2007.5/13) 護穎の先端からは、2裂した内穎の先がわずかにのぞいている。 |
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↑Fig.9 内穎は護穎よりもわずかに長い。(西宮市・水田内の素掘り水路 2007.5/13) 護穎には7脈あるが、脈が不鮮明なものもあるので注意。 |
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↑Fig.10 展開した小花。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.8/23) 内穎(左側)と護穎(右側)を展開すると穎果が現れる。画像の小花護穎は長さ8mm。 |
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↑Fig.11 脱落寸前の小花内の穎果は2.8mm前後。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.8/23) 雌蕊の基部には軟毛が見られ、種子の内側(背軸面)中央には縦に溝がある。 穎果の最下端に付属する小さな突起のように見えるものは鱗皮で、左右に1対ある。鱗皮は花被片の退化したものと考えられている。 ムツオレグサは古くは食糧とされたらしいが、穎果を包む内・外穎は容易に剥離せず、脱穀の手間は大変だっただろう。 |
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↑Fig.12 葉舌は3〜7mmで三角形で鋭頭だが、柔らかく先端部分は欠損しがち。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.8/23) 葉鞘は無毛でざらつかない。 |
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↑Fig.13 冬期、溜池で自生するものは浮葉のように葉を水面になびかせる。(兵庫県三田市・溜池 2007.2/8) |
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↑Fig.14 用水路内で常緑越冬するムツオレグサ。(西宮市・用水路 2008.2/25) 基部付近から伸びる斜上する新しい茎が何本か見え、冬期でも成長している様子が窺える。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.15 鉱物質の多い用水路内で抽水状態で生育するムツオレグサ。(西宮市・湿田の水路 2007.6/5) 同じ水路内にはチゴザサ、コウガイゼキショウ、ホソイなどが抽水状態で見られた。 田植えが終わって間もない時期、水路の水は満水状態だった。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.16 溜池畔の湧水湿地で生育するムツオレグサ。(兵庫県丹波市・湧水池 2010.5/14) 溜池畔の湿地にできた小規模な湧水池に生育している。湧水池内にはセリが群生し、ミズユキノシタ、チドメグサが沈水状態で生育している。 ムツオレグサは抽水状態で点在しており、溜池の浅瀬にも生育していた。湿地ではミソハギ、ウマノアシガタ、アゼスゲ、ヤマアゼスゲが多い。 |
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Fig.17 休耕田で群生するムツオレグサ。(兵庫県篠山市・休耕田 2013.5/22) 谷津最奥にある冬期も湛水状態となる休耕田で一面を埋め尽くすように群生していた。 休耕田内にはこのほかニシノオオアカウキクサ、コウガイゼキショウ、イボクサ、ニョイスミレ、コケオトギリ、セリ、チドメグサ、オオチドメ、 ヘビイチゴ、ムシクサ、ムラサキサギゴケ、トウバナなどが、畦畔にはミヤマシラスゲ、ジュズスゲ、コジュズスゲ、キンキカサスゲが生育している。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 大井次三郎, 1982. イネ科ドジョウツナギ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.109〜110. pl.94. 平凡社 小山鐡夫, 2004 イネ科ドジョウツナギ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.326〜328. pl.82. 保育社 牧野富太郎, 1961 ムツオレグサ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 715. 北隆館 藤本義昭. 1995. イネ科ドジョウツナギ属. 『兵庫県イネ科植物誌』 122〜127. 藤本植物研究所 佐藤恭子・古川冷實. 2001. イネ科ドジョウツナギ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 279〜281. 神奈川県立生命の星・地球博物館 桑原義晴, 2008 ドジョウツナギ属. 『日本イネ科植物図譜』 p.250〜257. pl.21. 全国農村教育協会 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ムツオレグサ. 『六甲山地の植物誌』 230. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. ムツオレグサ. 『近畿地方植物誌』 176. 大阪自然史センター 藤本義昭・布施静香・黒崎史平・高橋晃・高野温子 2008. ムツオレグサ. 兵庫県産維管束植物10 イネ科. 人と自然19:185. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:10th.Mar.2014 |