ノグサ Schoenus apogon  Roem. et Schult. カヤツリグサ科 ノグサ属
湿生植物  兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (西宮市・遊歩道脇の湧水湿地 2007.5/24)

Fig.2 (神戸市・多湿の草地 2011.6/1)

Fig.3 (兵庫県三田市・溜池土堤 2014.5/27)

攪乱を受けやすい湿地の砂質の土壌に生えるやや稀な1年草〜多年草。日当たりのよい場所に生育する。
草体は25cm未満と小さい。基部の鞘は赤紫色で目立ち、幅約0.5mmの短い根生葉を束生する。
匍匐枝はなく、茎は多数叢生し、細く扁平で2枚の葉を付ける。
葉鞘の部分は赤紫色で目立ち、そこから1〜5本の小穂を付ける。小穂は長さ4〜6mm、扁平な披針形、ときに一部血赤色を帯びる。
痩果は球形、白色で、長さ約1mm、細かい網状紋があり、刺針状花被片は6個だが、発達は悪く、脱落しやすく、上向きにざらつく。柱頭は3岐。
生育条件を満たすような場所が少なく、またそのような場所は開発や遷移などで環境改変されやすく、各地で減少している。

【メモ】 兵庫県レッドデータブック2010 で新たにCランク種とされた。自生地の遷移により減少している。
■分布:本州(福島県以南)、四国、九州、沖縄
■生育環境:攪乱を受けやすい、日当たりのよい湿地や、その周辺部。
■花期:6〜8月
■西宮市内での分布:市内では2ヶ所で生育するが、個体数は少ない。

Fig.4 産地報告の標本用に採取したノグサ。(西宮市・遊歩道脇の湧水湿地 2009.5/25)
  根生葉は有花茎の半分以下と短く、幅も0.5mmの糸状。有花茎にはふつう2個の短い葉がつく。

Fig.5 基部の様子。(西宮市・遊歩道脇の湧水湿地 2009.5/25)
  赤紫色を帯び、光沢がある。

Fig.6 開花中のノグサ。小穂と葉鞘の赤紫色が陽光を浴びて美しい。(西宮市・遊歩道脇の湧水湿地 2007.5/24)
  画像からは雌蕊柱頭が3岐する様子が解る。

Fig.7 花序は2〜3個、1〜5個の小穂をつける。(西宮市・遊歩道脇の湧水湿地 2007.5/24)
  小穂には花序枝があり、頂部に向かうにつれて花序枝は短くなる。

Fig.8 小穂は長さ4〜6mm。扁平、披針形、赤血色〜赤紫色で5〜6個の鱗片をつける。(西宮市・遊歩道脇の湧水湿地 2007.5/24)
  鱗片の先端は鈍頭、または凹頭芒有。

Fig.9 痩果。(兵庫県南あわじ市・崩壊谷筋 2010.12/1)
  痩果は広楕円形、白色で、長さ1〜1.3mm、表面には格子紋が縦に並ぶ。
  刺針状花被片は6個で比較的脱落しやすく、長さは痩果の2倍以上で、上向きにざらつく。

Fig.10 晩秋のノグサ。(兵庫県南あわじ市・崩壊谷筋 2010.12/1)
  根生葉は冬期にも常緑。枯れてすっかり漂白した花序が垂れて残っていた。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 粘土質の斜面の湧水がにじみ出す付近に生育するノグサ。(西宮市・遊歩道脇の湧水湿地 2009.5/25)
溝の石組みの間や上に見られ、クサスゲ(左)などとともに生育している。

他地域での生育環境と生態
Fig.12 急峻な崩壊谷筋に生育するノグサ。(兵庫県南あわじ市・崩壊谷筋 2010.12/1)
崩壊しつつある谷筋の湧水がにじむ付近に数個体がかたまって生育している。
ノグサは湧水部よりも少し上側の粘土質の斜面に生育し、同じ条件の他の場所ではミズスギが生育していた。

Fig.13 貧栄養な湿地に生育するノグサ。(兵庫県たつの市・湿地 2011.6/5)
禿山の山麓の緩斜面に湧水による裸地の多い貧栄養な湿地が見られノグサの群落が見られた。
周辺はアカマツ、コナラ、リョウブ、ヒサカキの低木がややまばらに生え、草地は丈の低いトダシバが優占し、イヌノハナヒゲ、イガクサ、
イシモチソウ、トウカイコモウセンゴケ、アリノトウグサなどが生育している。

Fig.14 湧水のある岩壁に生育するノグサ。(神戸市・岩壁 2013.6/25)
流紋岩質凝灰岩の堅牢な日当たり良い岩壁の、湧水の滲みだす岩棚や隙間にノグサの群生が見られた。
同所的にイヌノハナヒゲが生育している。上記の禿山やこのような岩壁などの植生の少ない場所がノグサ本来の生育環境なのだろう。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科ノグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.171. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ノグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.251. pl.63. 保育社
牧野富太郎, 1961 ノグサ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 773. 北隆館
勝山輝男・堀内洋. 2001. カヤツリグサ科ノグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 441. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 ノグサ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 192,193. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 ノグサ. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 123. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ノグサ. 『六甲山地の植物誌』 252. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ノグサ. 『近畿地方植物誌』 166. 大阪自然史センター
星野卓二・正木智美, 2011 ノグサ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 558,559. 平凡社
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ノグサ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:178.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:20th.Nov.2014

<<<戻る TOPページ