ヌカキビ Panicum bisulcatum  Thunb. イネ科 キビ属
湿生植物
Fig.1 (滋賀県・用水路脇 2007.11/8)

Fig.2 (兵庫県小野市・休耕田 2012.9/28)

水田の畦、休耕田、用水路、溜池畔、河川敷、湿った原野などに生える1年草。
茎の下部は地を這い、よく分枝して立ち上がり高さ30〜120cmになる。
葉は線形で長さ5〜30cm、幅4〜12mm。葉鞘はざらつかない。葉舌は長さ0.5mmで目立たず、無毛。
円錐花序は大きく、卵円形で12〜30cm。先は垂れ下がる。
花序中軸から出る花序枝はほぼ開出し、花序枝はさらにまばらに分枝して、小さな小穂をまばらに付ける。
花期は7月からだが、晩秋にもっとも目立つように感じられる。
小穂は楕円形でやや鋭頭。色は淡緑色、ときに暗紫色を帯び、長さ1.8〜2.5mm。第1苞頴は小穂の1/2〜1/3長。
小穂には5つの穎があり、本来2小花であったものが、1小花は退化して、1個の穎(第3穎=第1護穎)が残ったもの。

オオクサキビP. dichotomiflorum)は北米原産の帰化種で、クサキビより大型。小穂は卵状楕円形で長さ約2.5mm、第1苞頴は小穂の1/4以下。

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、中国、ウスリー、インド
■生育環境:水田の畦、休耕田、用水路、溜池畔、河川敷、湿った原野など。
■花期:7〜10月
■西宮市内での分布:市内全域に広く分布する。武庫川河川敷には特に多い。

Fig.3 花序は大く展開するが、花序枝、小穂ともにまばらで繊細な感じを受ける。(西宮市塩瀬町名塩・溜池畔 2007.11/1)


Fig.4 花序枝はほぼ開出して花序中軸に付く。(西宮市塩瀬町名塩・溜池畔 2007.11/1)
  花序枝はまばらに分枝し、先端に小さな小穂をまばらに付ける。

Fig.5 花序枝先端に2〜6個の小穂をつける。(西宮市塩瀬町名塩・溜池畔 2007.11/1)

Fig.6 小穂は楕円形で、やや鋭頭、長さ1.8〜2.5mm。(西宮市塩瀬町名塩・溜池畔 2007.11/1)
  第2穎(正常小花の第2苞穎)、第3穎(退化小花の護穎)には不明瞭な脈があり、脈上には短毛がまばらに生える。

Fig.7 展開した小穂と、その構造。(西宮市塩瀬町名塩・溜池畔 2007.11/1)
  小穂は1両性小花であるように見えるが、本来2小花であったものが、1小花が1個の護穎を残して退化したもの。
  そのため、穎は合計5個ある。
  -----------------------------【小花の構造】-----------------------------
  1個の両性小花の果実(穎果)を硬質で厚く分離しにくい護穎、内穎(それぞれ第4、第5穎)が包み、
  さらにそれを、退化した不完全花の護穎(第3穎)と第2苞穎(第2穎)が包み、
  横に広がった第1苞穎(第1穎)が小穂基部を囲むように包む。
  小花は熟して穎果となっても護穎と内穎(第4、第5穎)に堅くつつまれた状態で落果する。
  キビ属のものはみな同様な構造をしており、他のイネ科ではトダシバ属、イヌビエ属、エノコログサ属、ヌメリグサ属などで
  似たような構造が見られる。
  なお、穎果とは種子と果皮が分かちがたく癒合した果実で、特にイネ科の果実について使用される。  

Fig.8 葉鞘(上)と節(下)。(西宮市塩瀬町名塩・溜池畔 2007.11/1)
  葉鞘、節ともに無毛でざらつかない。
  葉舌は0.5mmで目立たず、無毛。
  葉鞘口部の縁は三角形で先はとがり、先端部にわずかに毛が見られる。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.9 武庫川河川敷で群生するヌカキビ。(西宮市・武庫川河川敷 2007.11/30)
武庫川河川敷ではメリケンガヤツリと競合するような場所に生育して、かなり大きな群落をつくっている。
チクゴスズメノヒエやキシュウスズメノヒエよりもやや高水敷寄りを好むようだ。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. イネ科キビ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.99〜100. pl.82. 平凡社
小山鐡夫, 2004 イネ科キビ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.363〜364. pls.96. 保育社
桑原義晴, 2008 イネ科キビ属. 『日本イネ科植物図譜』 p.350〜360. pls.25〜26. 全国農村教育協会
藤本義昭. 1995. イネ科キビ属. 『兵庫県イネ科植物誌』 170〜174. 藤本植物研究所
佐藤恭子. 2001. イネ科キビ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 332〜334. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヌカキビ. 『六甲山地の植物誌』 234. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ヌカキビ. 『近畿地方植物誌』 168. 大阪自然史センター

最終更新日:2nd.Feb.2014

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