サギソウ Habenaria radiata  (Thunb.) Spreng. ラン科 ミズトンボ属
湿生植物  環境省準絶滅危惧種(NT)・兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (兵庫県篠山市・溜池畔 2008.8/10)

Fig.2 (兵庫県三田市・溜池畔 2011.8/27)

低地の湿地や溜池畔に生育する多年草。開発と盗掘により激減した。
地中で前年の走出枝の先端に生じた円形の球茎から地上茎をだす。
茎は高さ15〜40cm、茎の下部に3〜5葉、その上部に少数の鱗片葉がある。
花は白色で径約3cm。苞は卵状披針形、長さ5mm。萼片は緑色で、背萼片は広卵形、側萼片はゆがんだ卵形をなし長さ8mm前後。
側花弁は白色でゆがんだ卵形、背萼片とともにかぶとをつくり、長さ10〜12mm、下半部外延にふぞろいの鋸歯がある。
唇弁は大きく、3深裂し、中裂片は披針形、側裂片は側方に開出して斜扇形で縁は深く細裂する。
距は長さ3〜4cm、斜めに下垂し先端は次第に太くなる。葯室は平行し、各室に1個の花粉塊を入れる。花粉塊は卵形で黄色。

■分布:本州、四国、九州 ・ 朝鮮、台湾
■生育環境:低地のの湿地、溜池畔。
■花期:7〜8月
■市内での分布:甲山湿原(市天然記念物・特別保護地域)にのみ自生が知られている。

Fig.3 花冠。(兵庫県篠山市・溜池畔 2008.8/10)
  鷺が羽根を広げたように目立つのは花冠のうちの唇弁。唇弁は3裂し、中央の裂片の幅は狭く、側裂片は広く縁は深く細裂する。

Fig.4 横から見たサギソウの花。(兵庫県篠山市・溜池畔 2008.8/10)
  距は下方に長く伸び、先端はやや太い。
  距の内側には多数の密腺が並び、蜜を分泌する。画像からは距の下部に蜜が溜まっているのが解る。
  サギソウの花には香気があり、その香気は夜間に最も高まり、スズメガなどの距の長さに対応した長い口吻をもった夜行性昆虫を誘う。

Fig.5 蕊柱を中心として。(兵庫県篠山市・溜池畔 2008.8/10)
  ラン科のほとんどの花は葯室や柱頭などの生殖器官が一体化した蕊柱をもつ。
  花粉は葯室の内部に花粉塊となって納められ、花粉塊は葯室先端に露出した強い粘性をもつ粘着体に弾力のある糸状の付属物でつながっている。
  葯室の先端部は距の入り口の左右前方に張り出して、昆虫の訪れを待つ。
  粘着体は昆虫の身体に触れると接着し、訪花昆虫は粘着体の先に花粉塊をぶら下げた状態で次の花を訪れる。
  花粉を露出させる必要が無くなった雄蕊は、葯室の外側に退化して仮雄蕊となって残っている。

Fig.6 3個の花冠を花茎につけたサギソウ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2008.8/10)
  花茎に多数の花がつく場合には、少しづつ時をずらして開花する。3個の開花が同じ花茎で同時に見られることは少ない。
  横向きの最下の花が早く開花したもので葯室がすでに褐色を帯びており、背を見せている最上部の花が新しい花。
  1枚の画像からサギソウの花の正面、横面、裏面が観察できる。
  横面のものでは蕊柱の葯室先端に付属する白く丸い粘着体が、訪花昆虫を待ち構えるように前面に飛び出しているのが解る。
  訪花昆虫が距の中に溜まった蜜を舐めるためには、粘着体に触れずにはおれないだろう。

Fig.7 粘着体とそれにつながった花粉塊。(兵庫県篠山市・溜池畔 2008.8/10)
  粘着体は触れたものに容易に引っ付き、葯室から粘着体につながった花粉塊が引き出されてくる。
  画像は植物の茎を粘着体にあてて、花粉塊を引き出したところ。花粉塊は指先でつまむぐらいでは分解しない。

Fig.8 ほころび始めたつぼみ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2008.8/10)
  つぼみの状態では、唇弁の各裂片は上方に畳まれ、側花弁が畳まれた唇弁を左右から包む。

Fig.9 果実形成期。(兵庫県篠山市・湿地 2010.9/19)
  果実は円柱形で、萼片は果実形成期にも宿存する。枯れた距と蕊柱の一部が黒褐色となって残っていた。

Fig.10 成長期のサギソウ。(兵庫県三田市・湿地 2007.6/6)
  葉は広線形または狭披針形で、幅3〜6mm。
  一番手前の草体はホシクサ科植物(ホシクサ属合生萼節sp.)のもの。

Fig.11 野生動物の撹乱に遭い、露出した球茎。(兵庫県三田市・湿地 2008.9/28)
  花茎の一部が見えることから、球茎は前年度つくられ、今年開花した個体であることがわかる。
  新しい球茎は花茎の基部から地中に伸びる走出枝の先につくられる。

生育環境と生態
Fig.12 溜池畔の湧水地で見られた群落。(兵庫県三田市・溜池畔 2008.5/30)
黄色の矢印は生育中の個体をあらわす。自生区域は狭いが、個体数は多い。
これらの個体はいっせいに開花するのではなく、夏〜初秋にかけてポツポツと開花し、花茎自体を上げない個体も多い。
周辺ではトキソウ、イシモチソウ、カキラン、ノハナショウブ、ホソバノヨツバムグラ、イヌノハナヒゲなどが生育する。
画像中の赤い草体はモウセンゴケのもの。

Fig.13 溜池畔で見られたサギソウ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2008.8/17)
チゴザサ、トダシバ、ヤマイ、コイヌノハナヒゲ、イヌノハナヒゲ、モウセンゴケなどとともに生育する。

Fig.14 貧栄養な湿地に生育するサギソウ。(兵庫県三田市・湿地 2008.8/17)
チゴザサ、コシンジュガヤ、コイヌノハナヒゲ、ミミカキグサ、ムラサキミミカキグサなどどともに生育。

Fig.15 撹乱の多い湿地に生育するサギソウと湿生植物群落。(兵庫県三田市・湿地 2008.8/17)
野生動物による撹乱をよく受ける湿地で、しっかり根を張って掘り返されにくいヌマガヤの株中に多くの開花個体が見られた。
画像右側を占める線形の草体がヌマガヤで、株中にはサワシロギクやサワヒヨドリ、イヌノハナヒゲ、コシンジュガヤが見られた。
ヌマガヤの手前に見える線形の小型の草体はマネキシンジュガヤ。画像左上のヌマガヤの株際にある、小さな白い花序を点頭するものはミカヅキグサ。
画像左側の半裸地状の場所は野生動物の撹乱の跡で、サギソウの幼株やミミカキグサ、ムラサキミミカキグサ、イトイヌノヒゲ、
出穂するまでに到らなかったコイヌノハナヒゲやミカヅキグサ属植物が生育する。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑や一般書籍を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
里見信生, 1982 ラン科ミズトンボ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.191〜193. pls.172〜173. 平凡社
村田源, 2004 ラン科ミズトンボ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.7〜9. pls.1〜2. 保育社
牧野富太郎, 1961 サギソウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 881. 北隆館
近藤浩文. 1982 甲山周辺の湿地植物. 『六甲の自然』 85〜87. 神戸新聞出版センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. サギソウ. 『六甲山地の植物誌』 255. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. サギソウ. 『近畿地方植物誌』 134. 大阪自然史センター
黒崎史平・高野温子 2009. サギソウ. 兵庫県産維管束植物11 ラン科. 人と自然20:184. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:10th.Oct.2011

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