サトメシダ Athyrium deltoidofrons  Makino イワデンダ科 メシダ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県丹波市・湿地脇の草地 2013.6/7)

Fig.2 (兵庫県篠山市・農道脇 2013.7/11)

丘陵〜山地の湿地、細流脇、溜池畔、休耕田、水田の畦などに生える夏緑性シダ。多年草。
根茎は塊状、斜上し、葉を叢生する。葉柄は葉身とほぼ同長、若い時は緑色だが、古くなるとわら色となり、基部は褐色。
葉柄基部の鱗片は膜質、狭披針形〜披針形、長鋭尖頭、長さ1〜1.5cm、幅1〜2mm、全縁で、淡褐色。
葉身は三角形〜卵状三角形、基部は狭くならず、長さ25〜70cm、幅20〜45cm、3回羽状深裂〜全裂し、淡緑色、無毛で薄い草質。
羽片は長さ12〜25cm、幅5〜8cm、三角状長楕円形、鋭尖頭。羽軸裏面は無毛。
小羽片は短い柄があり、三角状狭卵形、鋭頭〜鋭尖頭、小羽軸近くまで深く切れ込む。
裂片は大きさによって形にも変異があり、長楕円形〜卵状長楕円形、鋭頭〜ほぼ切形、鋭鋸歯縁ないし羽状に浅裂する。
ソーラスは裂片の中肋寄りにつき、苞膜は長楕円形か、鉤形に曲がり、薄く、辺縁は細かく裂ける。染色体数n=120の6倍体。

小型で葉身が長楕円状披針形〜卵状長楕円形、羽片が開出して長さ10〜20cmのものをトガリバメシダ(f. acutissimum)とすることがある。
また、葉の表面に毛があるものはオゼサトメシダ(f. ohmurae)とされる。
タカネサトメシダA. pinetorum)は亜高山帯に見られ、葉柄は葉身より長く、ソーラスは小羽片の裂片に1〜2個つき、中部羽片の小羽片は下先につく。
サカバサトメシダA. palustre)は葉がやわらかく、中軸は赤紫色を帯び、上部羽片が下向きにつく。分布は岡山県、四国、九州。
サトメシダを片親とする雑種に以下のものがある。
オオサカバサトメシダA. × paludicola)はサカバサトメシダとの雑種。
オオサトメシダA. × multifidum)はヤマイヌワラビとの雑種。大型となり、中軸が赤紫色を帯び、苞膜の縁は細裂する。
近似種 : タカネサトメシダ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国東部
■生育環境:丘陵〜山地の湿地、細流脇、溜池畔、水田の畦など。
■胞子形成期:6〜8月
■西宮市内での分布:分布しない。 兵庫県東南部では六甲山地に点々と記録がある。 丹波地方以北では低地にも現れる。

Fig.3 地上部標本。(兵庫県丹波市・湿地脇の草地 2013.6/7)
  葉身は三角形〜卵状三角形、基部は狭くならず、3回羽状深裂〜全裂し、淡緑色、無毛で薄い草質。葉柄は葉身とほぼ同長。

Fig.4 葉柄と鱗片。(兵庫県丹波市・湿地脇の草地 2013.6/7)
  葉柄は若い時は緑色だが、古くなるとわら色となり、基部は褐色。
  葉柄基部の鱗片は膜質、狭披針形〜披針形、長鋭尖頭、全縁で、淡褐色。

Fig.5 羽片の一部を拡大。(兵庫県丹波市・湿地脇の草地 2013.6/7)
  羽軸、小羽片表面はともに無毛。羽軸には溝があり、小羽片との交点に軟刺があるが、押し葉にすると圧着し、目立たなくなる。
  小羽片は短い柄があり、三角状狭卵形、鋭頭〜鋭尖頭、小羽軸近くまで深く切れ込む。
  裂片の形状は変異が多く、縁は鋭鋸歯縁となるか羽状に浅裂する。

Fig.6 小羽片裏面。(兵庫県丹波市・湿地脇の草地 2013.6/7)
  葉裏は無毛。ソーラスは裂片の中肋寄りにつく。画像の葉はまだ若く、ソーラスが未発達である。
  羽軸裏面は無毛で、オオサトメシダ(雑種)との区別点となる。

Fig.7 苞膜。(兵庫県丹波市・湿地脇の草地 2013.6/7)
  苞膜は長楕円形か、鉤形に曲がり、薄く、辺縁は細かく裂ける。

生育環境と生態
Fig.8 湿地から続く湿った草地に生育するサトメシダ。(兵庫県丹波市・湿地脇の草地 2013.6/7)
溜池直下にある小湿地に続く、ヒメシダの群生する日当たり良い草地に、多くのサトメシダが生育していた。
この草地は休耕田へと続き、同所的にクラマゴケ、ヤワラシダ、ゼンマイ、キツネノボタン、ニョイスミレ、ウシハコベ、ヒメヨツバムグラ、セリ、
ミツバ、ドクダミ、トウバナ、コブナグサ、トボシガラなどが生育している。

Fig.9 湿地に進出したサトメシダ。(兵庫県丹波市・湿地脇の草地 2013.6/7)
小川の縁などで見かけることが多いサトメシダだが、ここでは小湿地のショウブ群落内で生育していた。
小湿地のショウブ群落中にはサトメシダとともに、カキツバタ(逸出?)、サワオグルマ、フトイ、キツネノボタン、ヒメシダなどが生育していた。

Fig.10 用水路脇に生育するサトメシダ。(兵庫県篠山市・用水路脇 2013.7/11)
オオミズゴケが地表に繁茂している用水路脇にサトメシダが小群生を形成していた。
同所的にホソバノヨツバムグラ、ニョイスミレ、セリ、ドクダミ、ワレモコウ、ハシカグサ、ネコハギ、ヘクソカズラ、ノアザミ、サワヒヨドリ、
イチゴツナギ、シケシダが生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
岩槻邦男, 1992. イワデンダ科メシダ属. 岩槻邦男(編)『日本の野生植物 シダ』 p.230〜241. pls.150〜160. 平凡社
光田重幸, 1986. サトメシダ. 『しだの図鑑』 pl.126. p.128. 保育社
山本明. 2001. イワデンダ科メシダ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 107〜127. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. サトメシダ. 『六甲山地の植物誌』 95. (財)神戸市公園緑化協会
白岩卓巳・鈴木武 1999. サトメシダ. 兵庫県産維管束植物1 ヒメシダ科. 人と自然10:105. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:18th.Mar.2014

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