セリ Oenanthe javanica  (Blume) DC. セリ科 セリ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・休耕田 2008.8/2)

水田や休耕田、用水路、渓流畔、溜池、中栄養〜富栄養な湿地などに普通な小型の越年草。
地下に細長い根茎があり、細いひげ根を出し、節から根生葉と地上茎をだす。
茎は下部がやや這って立ち上がり、高さ20〜80cm、6角柱状で中空。
茎につく葉は互生し、葉柄の基部は短い葉鞘となって茎をだく。葉身は3角形で長さ7〜15cm、2〜3回3出複葉。
小葉片は卵形または狭卵形、鋭頭、粗鋸歯があり、ときに不整に深裂、長さ2〜5cm、幅1〜2cm。
花序は複散形花序で、径3〜8cm。小総苞片は線形で花柄と概ね同長。
花は密花で径約3mm、白色、萼片は披針形で5個つき、花弁は白色広卵形で5個、先端は内曲する。
雄蕊5個。雌蕊1個で、花柱は2個。
果実は長さ2〜3mm、楕円形で、果皮は著しく肥厚してコルク化し、表面には隆起条のある、やや扁平な2分果。

全草に特有の香気があり、食用となり栽培される。春の七草のひとつ。
分布域が広範囲にわたり人里周辺に見られることから史前帰化植物かと思ったが、そうではないらしい。

■分布:日本全土 ・ 千島、樺太、朝鮮半島、中国、台湾、満州、マレーシア、インド、オーストラリア
■生育環境:水田や休耕田、用水路、渓流畔、溜池、湿地など。
■花期:7〜8月
■西宮市内での分布:山地帯を除いた市内全域に普通。

Fig.2 複散形花序。(西宮市・休耕田 2008.8/2)
  花序は花径先端で2段に散開する。下段の花柄は大花柄、上段の花柄は小花柄と呼ばれる。
  それぞれの花柄の基部には苞がつき、大花柄の基部につくものを総苞、小花柄の基部につくものを小総苞という。
  セリ科の大部分の種は複散形花序となる。

Fig.3 小散形花序の拡大。(西宮市・休耕田 2007.8/5)
  小花は密集してつき、花弁の先端は内曲している。

Fig.4 果実。(西宮市・休耕田 2007.11/1)
  果実は2分果で、分果は固く密着し、果皮は肥厚しコルク化している。
  また、長円錐状の花柱と、萼歯は宿存する。表面には隆起条がある。
  コルク質の果皮に包まれた分果は軽く、水に浮き、生育領域を広げる。

Fig.5 葉身。(西宮市・水路脇 2007.4/20)
  葉身は三角形で2〜3回3出複葉。

Fig.6 匍匐枝。(兵庫県丹波市・溜池畔 2010.5/13)
  根生葉が充実し、茎が伸び始めると、基部から匍匐枝を出しはじめる。

Fig.7 夏期の匍匐枝。(西宮市・水田 2006.8/27)
  夏期になると匍匐枝は1mほど水田の地表を長く伸びて、節から根や葉、呼吸根を生じる。
  匍匐枝につく葉はときに3小葉となる。

Fig.8 抽水状態で越冬するセリ。(西宮市・渓流 2008.2/7)
  セリは冷水に強く、渓流中にも生育できる。湧水起源の水域であれば、水温が一定しているため、冬でも生育する。

Fig.9 沈水状態で越冬するもの。(西宮市・用水路 2008.2/25)

Fig.10 沈水状態で萌芽した集団。(兵庫県丹波市・湧水池 2013.2/12)

Fig.11 湿地で生育しはじめたもの。(西宮市・棚田 2008.4/25)
  春になると、浅水域に生育するものは葉柄を立ち上げて葉を展開する。

Fig.12 休耕田で生育しはじめたもの。(西宮市・休耕田 2008.4/25)
  陸生しているものでは、四方に葉を広げる。

Fig.13 食用に採取したセリ。(兵庫県篠山市・休耕田の水路 2013.4/15)
  セリは春の七草であるが、1月頃の草体は小さくあまり食べ応えがない。
  野生の野菜として食用に利用できるのは近畿地方のものでは3〜5月頃のものである。
  市街地周辺のものはお薦めできないが、山際の休耕田や水路のものは煮沸などして利用できる。
  セリを沢山ぶちこんだ雑炊は勿論だが、薄切りの豚肉とともにサッと湯通ししてダシ醤油で食べる豚シャブは際限なく食べられる旨さ。
  最近では放射能汚染が問題となるが、気になる場合は各地の放射能測定所で汚染値を調べてもらうとデータ蓄積にも寄与できてよいと思う。
  ただし、日本の放射能基準値は海外よりもかなり緩いので、チェルノブイリや西欧諸国の基準値をもとに食するか判断したほうがよい。
  絶滅の危惧がなければ、利用できるものはどんどん利用してよいと思うが、利用の判断は自己責任となる。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.14 管理休耕田で生育するセリ。(西宮市・休耕田 2007.8/5)
年に数度耕起されるため、大型の個体は見られず、花茎も20cm程度の高さで開花する。
コナギ、ミゾソバ、イヌホタルイなどが見えている。

Fig.15 河川敷で生育する群落。(西宮市・武庫川河川敷 2007.8/9)
河川敷の肥沃な土壌に生育するものは大型化し、キシュウウスズメノヒエと勢力を分け合っている。
葉が白く見えるのは泥をかぶっているため。

Fig.16 水田の減反部で群生するセリ。(西宮市・水田 2011.7/15)
セリは水田雑草でもあり、春先の七草のシーズンなどの耕起前には水田中でもよく目にする。
しかし開花期は除草されるため水田での開花はほとんど見られない。
画像のように除草をまぬがれる減反部で群生して開花していることが多い。

他地域での生育環境と生態
Fig.17 湛水休耕田で群生するセリ。(兵庫県篠山市・休耕田 2010.12/26)
山間棚田の小さな湛水休耕田を埋めるようにセリが純群落をつくっていた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北川政夫, 1982. セリ科セリ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.281. pl.256. 平凡社
村田源, 2004 セリ科セリ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花編』 p.3,17. pl.4. 保育社
牧野富太郎, 1961 セリ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 440. 北隆館
大滝末男, 1980 セリ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 38〜39. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984 セリ. 『野草図鑑 6 おきなぐさの巻』 p.71〜73. 保育社
河済英子. 2001. セリ科セリ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1078〜1079. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. セリ. 『六甲山地の植物誌』 168. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. セリ. 『近畿地方植物誌』 61. 大阪自然史センター
黒崎史平 2003. セリ. 兵庫県産維管束植物5 セリ科. 人と自然14:159. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:7th.Mar.2014

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