ショウブ Acorus calamus  L. サトイモ科 ショウブ属
湿生〜抽水植物
Fig.1 (西宮市・用水路 2007.6/3)

湖沼や溜池畔、湿地に生育する多年草。抽水状態で見かけることも多い。
根茎は分枝しながら横走し、淡紅色を帯び、各節から太く丈夫な根を地中に張る。
葉は地下茎の先端から袴状に重なって根生し、長剣状で質は堅くつやがあり、長さ50〜120cm、幅1〜2.5cm、黄色を帯びた明るい緑色、
鋭頭で中央脈は隆起して明瞭。
花は肉穂花序に密生し、花序は長さ4〜8cm、径6〜10mm、花序の基部からは長い苞葉がのびるので、
花序は葉の途中についているように見える。
花は花被片6、雄蕊6、雌蕊1からなる両性花だが、東洋種は4倍体で結実しない。

葉には芳香があり、根茎には強い芳香がある。これはアサリル、メチルユーゲノールなどの精油成分を含むためで、健胃剤、鎮静剤、
利尿剤などの生薬として用いられる。しかし、本来の「菖蒲」はセキショウのことを指し、古名は「あやめ」または「あやめ草」であったらしい。
この古名は「彩(あや)を成す」または「綾(あや)をなす」に由来し、牧野富太郎によると、葉が多数並び集まっている様子からきたという。
また、民間では5月5日に端午の節句の菖蒲湯に、ショウブの生葉が用いられる。
このように、古くから生薬として利用・栽培されてきたため、自生と植栽、逸出などの区別はかなり困難となっている。

■分布:日本全土 ・ アジア、ヨーロッパ、北米
■生育環境:湖沼、溜池畔、湿地など。
■花期:5〜7月
■西宮市内での分布:市内では中部の湿田跡と北部の2箇所の棚田の用水路でみられるが、自生のものかどうか疑わしい。

Fig.2 全草標本。(西宮市・湿田跡 2010.6/6)
  葉は地下茎の先端から袴状に重なって根生し、長剣状で質は堅くつやがある。
  花茎は葉よりも後方の節から生じている。

Fig.3 葉は横走する根茎の先端から立ち上がる。(西宮市・溜池畔 2008.5/16)
  葉の中央脈はよく目立ち、長剣状で先端は鋭尖頭。

Fig.4 ショウブ(上)とキショウブ(下)の葉身比較。(兵庫県篠山市・用水路 2007.6/3)
  葉は同様な環境に生育するキショウブと似るが、ショウブの葉は黄色を帯びた明緑色で中肋が突出する。
  キショウブの葉は暗緑色で粉白を帯び、中肋は明瞭ではあるが突出せず、中央よりも少し端にずれる点で区別できる。
  慣れれば遠くからでも見分けることができるが、慣れないうちは葉を少しむしって芳香を確認できれば確実である。

Fig.5 ショウブの肉穂花序。(西宮市・用水路 2007.6/3)
  花序は葉についているように見えるが、花序より下部が花茎で、花序よりも上部が苞葉である。
  サトイモ科では、苞葉の部分が仏炎苞状に広がって花に見えるものが多いが、ショウブは素朴な苞葉のままである。
  ミズバショウやザゼンソウの花に見える部分は苞葉と肉穂花序であるし、カラーやアンスリウムなどの園芸植物も同様である。

Fig.6 開花中の花序の拡大。(神戸市・休耕田 2013.5/19)
  開花間もない頃の花被片は狭倒卵形で、淡黄緑色。葯は黄色で、雌蕊はやや六角形。
  日本国内にあるショウブはほとんど不稔で、めったに結実しない。

Fig.7 泥上を横走する根茎。(兵庫県加西市・用水路 2008.10/5)
  根茎は泥中にあっても、地表近くのごく浅い場所を這い、先端近くの節から互生して葉を出す。

Fig.8 ショウブの根茎。(兵庫県篠山市・用水路 2008.3/25)
  野生動物の攪乱によるものだろうか、用水路内にショウブの根茎が多数散乱し、それぞれの根茎から萌芽が見られた。
  萌芽したばかりの葉身基部や葉鞘は強く赤紫色を帯びている。
  根茎は粗大で、まるでタケ類の根茎を思わせ、節が多く、中実。
  不定根が節間から生え、不定根にはひげ根が生えている。
  根茎のうち、濃緑色の部分は泥中にはなく、長く太陽光に当たっていた部分で、白味をおびた部分が泥中に埋まった部分である。
  泥中にあった部分は節付近が赤紫色を帯びており、不定根はその部分でのみ見られる。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.9 流れの緩やかな用水路内で生育するショウブ。(西宮市 2007.6/3)
果樹園の脇を流れる水路で、過去に植栽された可能性が高い。
周辺にはミゾソバ、ドジョウツナギ、カサスゲが見られる。

Fig.10 草に覆われた用水路周辺に群生するショウブ。(西宮市 2007.6/10)
棚田の用水路内であり、ここも自生かどうか疑わしい。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大橋広好,1982 サトイモ科ショウブ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       pp.139. pls.122. 平凡社.
北村四郎, 2004 サトイモ科ショウブ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 pp.189〜190. pls.60. 保育社.
牧野富太郎, 1961 ショウブ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 809. 北隆館.
大滝末男, 1980 ショウブ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 140〜141. 北隆館.
角野康郎, 1994 サトイモ科ショウブ属. 『日本水草図鑑』 pp.69. pls.71. 文一統合出版.
大場達之. 2001. サトイモ科ショウブ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 380〜382. 神奈川県立生命の星・地球博物館.
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ショウブ. 『六甲山地の植物誌』 239. (財)神戸市公園緑化協会.
村田源. 2004. ショウブ. 『近畿地方植物誌』 151. 大阪自然史センター.
小林禧樹 2008. ショウブ. 兵庫県産維管束植物10 サトイモ科. 人と自然19:218. 兵庫県立・人と自然の博物館.

最終更新日:1st.Mar.2011

<<<戻る TOPページ