デンジソウ Marsilea quadrifolia  L. デンジソウ科 デンジソウ属
湿生〜抽水〜浮葉植物  環境省絶滅危惧U種(VU)・兵庫県RDB Aランク種
Fig.1 (兵庫県・小湿地 2009.10/15)

Fig.2 (茨城県・氾濫原湿地 2010.9/12)

水田、休耕田、溜池、河川、溝などの日当たりのよい湿った場所に生育する多年草。陸生から浮葉まで様々な生育形をとる。
根茎は長く伸びて、分枝して地表を這い、径1.5〜2mm、節から多数のひげ根を持った不定根を出して泥中に根をおろす。
葉は根茎の節から1個づつ根生し、葉柄は長さ5〜30cm、浮葉状のものは時に50cm以上となり、先にクローバーに似た4小葉からなる葉をつける。
小葉は扇状で、長さ、幅ともに1〜2.5cm、日中は平開し、夜間は小葉を上にたたみ、睡眠運動をする。展葉前の若い葉は渦巻状となる。
胞子嚢果は夏〜秋、葉柄基部近くから出た短い枝に1〜3個、短い柄の先につき、楕円形、長さ3〜5mm、はじめ白い軟毛があるが、後に脱落し、黒〜褐色となる。
胞子嚢果の中には多数の胞子嚢群があり、1個の大胞子を含む大胞子嚢と、多数の小胞子を含む小胞子嚢が混じる。

似たものに九州南部〜アジアの熱帯域にまで分布するナンゴクデンジソウ(M. crenata)がある。
小葉は長さ0.7〜1.5cmだが、胞子嚢果の無い状態でデンジソウと区別することはほとんど不可能である。
確実に同定するには、胞子嚢果の付き方を調べる必要があり、胞子嚢果の果柄は葉柄と癒合せず、根茎から直接出る。
近年、海外のアジア産のナンゴクデンジソウが「ウォータークローバー」としてホームセンターや園芸店などで流通しており、ときに逸出が報告されている。
九州南部以南には在来のものが自生するため、それらの地域で逸出した場合、遺伝子撹乱が容易に予想される。
同様な例は絶滅危惧種のホザキキカシグサでも見られ、遺伝子撹乱を引き起こした場合、安易に流通させた業者の罪は重い。
近似種 : ナンゴクデンジソウ

■分布:本州、四国、九州、沖縄 ・ 東アジア、インド、ヨーロッパ
■生育環境:水田、休耕田、溜池、河川、溝など。
■果実期:8〜11月
■西宮市内での分布:市内では未確認。県内でも分布は限られる。

Fig.3 デンジソウの葉。(兵庫県・小湿地 2009.10/15)
  葉柄の先に4小葉がつく。実際は2個1組が並んでいるが、その間隔がごく短いため4個の小葉があるように見える。
  小葉は扇状で、基部から射出する細かい網状脈がある。

Fig.4 胞子嚢果をつけたデンジソウ。(兵庫県・小湿地 2009.10/15)

Fig.5 葉の根際に見える胞子嚢果。(兵庫県・小湿地 2009.10/15)

Fig.6 胞子嚢果。(兵庫県・小湿地 2009.10/15)
  胞子嚢果は葉柄基部近くから出た短い枝に1〜3個、短い柄の先につく。楕円形で表面は白い軟毛に覆われている。
  胞子嚢果は硬く、かなりの長期にわたって埋土状態で生存するという。

Fig.7 胞子嚢果の断面。(兵庫県・小湿地 2009.10/15)
  胞子嚢果の中には大小2形からなる胞子嚢群があり、胞子嚢果の外皮の内側に並んでついている。

Fig.8 胞子嚢群。(兵庫県・小湿地 2009.10/15)
  胞子嚢群には1個の大胞子を含む大胞子嚢と、多数の小胞子を含む小胞子嚢が混じる。
  胞子嚢の表面には網状の脈が見られる。

Fig.9 大胞子と小胞子。(兵庫県・小湿地 2009.10/15)
  大きな広楕円形のものが大胞子で、長さ200〜400μ。それよりもはるかに小さな球状の粒が小胞子で、長さは30〜40μ。
  小胞子は小胞子嚢の中に、さらに小さな膜質透明の袋の中に入っていた。

生育環境と生態
Fig.10 水溜りで浮葉状となって生育するデンジソウ。(兵庫県・小湿地 2009.7/26)
生育場所の水深が深いと葉柄は伸びる。葉は陸生のものよりも大きくなり、表面は光沢がでる。
水深のある場所や、抽水状態で生育するデンジソウは胞子嚢果をつけにくい。

Fig.11 干上がった泥地で生育するデンジソウ。(兵庫県・小湿地 2009.10/15)
葉は浮葉状態のときよりも小型となり、光沢はなくなる。さらに日が経つと葉柄は立ち上がり、4つ葉のクローバーそっくりの姿となる。
このような状態となると、胞子嚢果をつけやすくなる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
角野康郎, 1994 デンジソウ科デンジソウ属. 『日本水草図鑑』 p.12. pl.14. 文一統合出版
大滝末男, 1980 デンジソウ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 270〜271. 北隆館
牧野富太郎, 1961 デンジソウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 56. 北隆館
秋山守. 2001. デンジソウ科デンジソウ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 148. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. デンジソウ. 『六甲山地の植物誌』 99. (財)神戸市公園緑化協会
江村伸一・鈴木武. 2008. 川西でデンジソウとミズワラビを発見. 兵庫県植物誌研究会・会報 77:3
白岩卓巳・鈴木武 1999. デンジソウ. 兵庫県産維管束植物1 デンジソウ科. 人と自然10:116. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:2nd.Oct.2014

<<<戻る TOPページ