タコノアシ Penthorum chinense  Pursh ユキノシタ科 タコノアシ属
湿生〜抽水植物  環境省準絶滅危惧種(NT)・兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (神戸市北区・休耕田 2013.9/8)

Fig.2 (神戸市北区・水田 2008.11/11)

Fig.3 (京都府中丹地方・休耕田 2016.1/14)

水田、休耕田、河川敷や湿地などの撹乱が多く、水位変動のある場所に生える多年草。
茎の基部は地中にあってやや肥厚し、節から数個の走出枝を出して群生する傾向が強い。
茎の地上部は直立し、円柱形でほとんど分枝せず、高さ30〜80cm、無毛、ふつう淡紅色を帯びる。
葉は互生し、やや膜質、長さ6〜11cm、幅5〜12mmで、無毛、狭披針形〜披針形または狭楕円形、縁には細鋸歯があり、
基部はくさび形となってほとんど無柄。
花序の枝は最初は先端が渦巻状に外に巻いているが、後に伸張して斜上し、長さ4〜12cmになり、ごく短い褐色の腺毛がまばらに生える。
花は径4〜5mm、ふつう花弁はなく、全体が黄緑色なのであまり目立たないが、ときに花柱や萼裂片の先端が紫紅色を帯びることがある。
小花柄の長さはふつう2〜4mm、萼筒は長さ1.5〜2mm、上部で5裂する。萼裂片は卵状披針形または卵状三角形で、長さ1.5〜2mm、
花期には直立または斜開し、果実期には平開または反転する。
雄蕊は10個、長さ3〜4mmで、列開直前の葯は黄色。子房は5個、中部まで合生する。花柱は長さ1〜1.5mmあり、花期には直立し、果実期には外曲する。
刮ハは径6〜7mm、5室あり、各室の上半は横に裂開して、帽子状にはずれる。種子は狭卵形で、長さ0.6mm前後、細凸起がある。
タコノアシ属は心皮数が5〜7個と多く、刮ハの上部が帽子状に外れる独特の構造をもち、ユキノシタ科、ベンケイソウ科、あるいはタコノアシ科として
独立させるなど、様々な説がある。タコノアシ属は世界に2種ある。

■分布:本州、四国、九州、奄美大島 ・ 東アジア
■生育環境:水田、休耕田、河川敷、撹乱を受け、ときに水没する湿地など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では見られない。

Fig.4 全草の様子。(神戸市北区・水田 2008.11/11)
  地中にある茎から走出枝を出してまばらに群生する。茎は直立して中部〜下部ではほとんど分枝しない。

Fig.5 基部と根茎。(京都府中丹地方・休耕田 2015.8/28)
  茎の基部はやや肥厚し、走出枝を伸ばす。

Fig.6 花茎。(神戸市北区・水田 2008.11/11)
  茎の上部で数本の花茎を分枝する。

Fig.7 花序。(神戸市北区・水田 2008.11/11)
  花茎上部で数個の花序枝を分け、花序枝の上側に総状に花をつける。

Fig.8 開花中の花序。(神戸市北区・休耕田 2013.9/8)
  花序枝は外向きに巻いていて、枝の下方から開花しながらほどけて伸びていく。

Fig.9 タコノアシの花。(神戸市北区・休耕田 2013.9/8)
  花は径4〜5mm、ふつう花弁はなく、全体が黄緑色なのであまり目立たないが、ときに花柱や萼裂片の先端が紫紅色を帯びることがある。
  小花柄の長さはふつう2〜4mm、萼筒は長さ1.5〜2mm、上部でふつう5裂、まれに6裂する。

Fig.10 花序枝の果実。(神戸市北区・水田 2008.11/11)
  果実期には花序全体が赤く色づく。果実は刮ハで5室ときに6室あり、花柱は外曲し、萼裂片は平開または外反する。


Fig.11 種子。(神戸市北区・水田 2008.11/11)
  種子は狭卵形で、長さ0.6mm前後、表面には細凸起がある。

Fig.12 互生してつく葉。(神戸市北区・水田 2008.11/11)
  葉は狭披針形〜披針形または狭楕円形、縁には細鋸歯がある。基部はくさび形となり、葉柄はほとんどない。

Fig.13 草刈りに遭った個体。(神戸市北区・休耕田 2013.9/8)
  成長期に草刈りに遭ったものは、残った茎の上部から複数の側枝を出して、多くの花序をつける。

Fig.14 立ち枯れた群落。(京都府中丹地域・休耕田 2015.3/28)
  秋遅くに結実するタコノアシは、冬期にも種子を散布させるためか花茎が立ち枯れて翌春まで残る。
  立ち枯れた姿もやはりユニークで、クサソテツやイヌガンソクの枯れた胞子葉同様に、茶花として使えそうだ。

Fig.15 成長初期。(大阪府高槻市・河川敷 2013.5/1)
  茎の下部が強く赤味を帯びている。

Fig.16 初夏の草体。(京都府中丹地域・休耕田 2015.6/29)

生育環境と生態
Fig.17 水田中に生育するタコノアシ。(神戸市北区・水田 2008.11/11)
ここでは里山環境保全のプロジェクトの一環として、不耕起湛水水田が地区の自治会とボランティアの手によって運営されており、
その水田中にタコノアシが生育している。適度な撹乱がタコノアシの生育を可能にしているのだろう。

Fig.18 休耕田に生育するタコノアシ。(神戸市北区・休耕田 2013.9/8)
休耕田内には他にカンガレイ、イヌホタルイ、ハリイ、エゾアブラガヤ、ヒメミコシガヤ、タチスゲ、ゴウソ、ホナガヒメゴウソ、イグサ、
ホソイ、ハナビゼキショウ、ムツオレグサ、コブナグサ、サイコクヌカボ、ミゾソバ、ヤノネグサ、キツネノボタン、セリなどが生育している。

Fig.19 休耕田に群生するタコノアシ。(京都府中丹地方・休耕田 2015.8/28)
氾濫原由来の地下水位の高い休耕田で群落が点在していた。
ここでは他に、ウキヤガラ、サンカクイ、ヒメコウガイゼキショウ、ミズタカモジ、ウシノシッペイ、ノハナショウブ、カキツバタ、コガマ、ホシクサ、
コタネツケバナ、ヒメミソハギ、ミズマツバ、アブノメ、スズメハコベ、ノニガナ、オグルマなどの多様な湿生植物が生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大場秀章, 1982. ユキノシタ科タコノアシ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.155. pl.146. 平凡社
村田源, 2004 ベンケイソウ科タコノアシ属. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.158. pl.38. 保育社
牧野富太郎, 1961 タコノアシ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 223. 北隆館
高橋秀男・長谷川義人. 2001. ユキノシタ科タコノアシ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 789. 神奈川県立生命の星・地球博物館
天野誠. 1998. タコノアシ. 矢原徹一(監修)『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ』 299. 山と渓谷社
小林禧樹. 1989. タコノアシ. 『西神戸の植物』 35. 自費出版
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. タコノアシ. 『六甲山地の植物誌』 134. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. タコノアシ. 『近畿地方植物誌』 99. 大阪自然史センター
丸岡道行. 2008. タコノアシを小野市で観察. 兵庫植物誌研究会会報 77:4
福岡誠行・布施静香・橋本光政・黒崎史平・若林三千男 2002. タコノアシ. 兵庫県産維管束植物4 ユキノシタ科. 人と自然13:139. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:26th.Feb.2017

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