タムラソウ Serratula coronata  L. ssp. insularis  (Iljin) Kitam. キク科 タムラソウ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・溜池畔 2014.10/16)

Fig.2 (兵庫県篠山市・林縁草地 2014.9/14)

棚田の畦、休耕田、用水路脇、溜池畔、湿生草原、山地の林縁などに生育する多年草。ススキ群目の標徴種。
茎は高さ30〜140cmとなり多くの条がある。
葉は羽状に全裂し、裂片は6〜7対で刺はなく、質はやや薄く、下面は淡緑色で両面に細毛がある。
頭花は長い枝の先に直立し、総苞は鐘形、長さ20〜27mm、多少くも毛があり、片はふく瓦状に7列に並び、
外片および内片の先は刺状にとがり、内片は狭披針形で乾膜質。花床には刺状の鱗片が密生する。
頭花の縁の1列の小花は糸状で3〜5深裂し、長さ25〜28mm、結実しない。他の全ての小花は両性花で5裂し、長さ22〜26mm。
花糸には乳頭状の突起がある。花柱の先は2岐して開出。痩果は長さ5〜6mm、幅1.5mm、無毛で基部は斜めに花床につく。
冠毛は長さ11〜14mmで不揃いである。

■分布:本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島
■生育環境:水田の畦、休耕田、用水路脇、溜池畔、湿生草原など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では北部の1ヶ所の溜池土堤で、キキョウなどとともにかろうじて残っている。

Fig.3 開花したタムラソウ。(兵庫県三田市・棚田 2007.10/7)
  最外の1列は無性花。筒部が長くのびて大きく3〜5裂する様子は装飾花を思わせる。
  学名のcoronata(冠のある)は、この無性花の様子からきたのだろう。

Fig.4 花冠。(兵庫県三田市・棚田 2007.10/7)
  小花の筒状花は5裂し、集葯雄蕊が長くつきだし、その先に長くのびて2岐した雌蕊柱頭がクルリと反り返る。

Fig.5 訪花したホソヒラタアブ。(兵庫県三田市・棚田 2012.9/21)

Fig.6 タムラソウの総苞。(兵庫県三田市・棚田 2009.10/9)
  総苞片にはくも毛があり、先はとがってやや刺状となり、多少斜開するが反り返ることはない。

Fig.7 タムラソウの根生葉。(兵庫県三田市・棚田 2008.5/4)
  タムラソウはアザミ属の花と似るが、葉の鋸歯の先は刺針とならないことで容易に区別がつく。
  裂葉の側小片は中軸をはさんで対生せず、基部は次第に中軸へと流れ、翼状となって下の裂片とつながる。
  根生葉には葉柄がある。

Fig.8 茎に付く葉。(兵庫県篠山市・林縁草地 2012.10/11)
  茎につく葉は上部に向かうにつれて側小片の数は減少、鋸歯は浅くなり、葉柄はごく短くなっていく。

Fig.9 成長期のタムラソウ。(兵庫県三田市・棚田 2008.5/4)
  この様子ではアザミと間違えることはない。むしろキンミズヒキあたりに似ているだろうか。

Fig.10 冠毛のついた種子を飛ばす、冬枯れのタムラソウ。(兵庫県三田市・棚田 2009.1/11)
  タムラソウは夏緑性の多年草で、冬期には地上部は全て枯れ、アザミ属のような越冬ロゼットは形成しない。
  花茎は冬になっても立ち枯れて残っていることが多く、ロゼットがない点と種子と総苞によって同定できる。

Fig.11 枯れた頭花。(兵庫県三田市・棚田 2009.1/11)
  Fig.6の頭花を1個持ち帰り、冠毛や痩果を調べてみた。ドライフラワーとしても遜色のない美しさだ。
  総苞内片は乾いてよじれているが、開花時よりも長い印象を受ける。果実形成期に伸びているのだろうか?
  総苞外片ではつぼみや開花時に目立っていたくも毛はほとんど脱落しているうえ、退色しているので目立たない。

Fig.12 冠毛のついた痩果。(兵庫県三田市・棚田 2009.1/11)
  上段は下から、下段は上からみたもの。冠毛は開出してつき、あまり長くはなく、淡黄褐色、長さが不揃いで、硬質。

Fig.13 冠毛の拡大。(兵庫県三田市・棚田 2009.1/11)
  冠毛は羽毛状とはならず、針状で先はとがり、上向きの小刺が並ぶ。


Fig.14,15 痩果(上)と痩果上部の拡大(下)。(兵庫県三田市・棚田 2009.1/11)
  痩果は褐色〜黄褐色、長さ5〜6mm、幅1.5mmで下に向かうにつれ狭まる。
  表面には縦に太い隆条が数個あり、その間に微細な縦の隆条が密に並び、無毛。
  痩果の下端部では微細な隆条が消失し、平滑で光沢のある部分ができている。
  冠毛は痩果の肩の部分に環状に生えていた。上端には花柱の柱基が小さな突起となって残っている。

Fig.16 春先の出芽。(兵庫県篠山市・棚田の畦 2011.3/31)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.17 溜池土堤の水際に生育するタムラソウ。(西宮市・溜池畔 2014.10/16)
谷津際奥にある小さな溜池の土堤上から水際にかけて20数個体ほどが生育している。西宮市内ではここだけに見られる。
同所的にオタルスゲ、アブラガヤ、ススキ、ワレモコウ、サワヒヨドリ、シラヤマギク、アキノタムラソウが生育し、周辺にはキキョウもわずかに見られる。
溜池内にはヒツジグサ、ジュンサイ、フトヒルムシロ、イヌタヌキモ、フラスコモsp.が生育している。

他地域での生育環境と生態
Fig.18 棚田斜面の水路脇に生育するタムラソウ。(兵庫県三田市・棚田 2007.10/7)
低地ではこのような湿潤な環境で見かけることが多い。このような場所は刈り込みが行われるため、草体は低い状態で開花する。
斜面下部からは微量な湧水が湧き出て、下の水路へと溜まり、春先にはカスミサンショウウオの卵塊が見られる。
この水路脇にはヌマガヤ、ヤチカワズスゲ、オニスゲ、タチスゲ、ゴウソ、コウガイゼキショウ、ヘラオモダカ、ショウジョウバカマ、
ノハナショウブ、ワレモコウ、スイラン、キセルアザミ、サワヒヨドリ、オトコゼリなどの多様な湿生植物が生育する。

Fig.19 溜池土堤直下の水路脇に生育するタムラソウ。(兵庫県小野市・溜池土堤下部 2010.10/27)
溜池土堤直下の水田が序々に湿地化しつつある休耕田となっており、土堤と畦の間に掘られた素掘りの排水路の脇に多くの個体が生育していた。
排水路脇にはキセルアザミ、ホソバリンドウ、オミナエシ、サワヒヨドリ、ヤマラッキョウ、コシンジュガヤなどが生育し、
湛水状態の水田ではアゼスゲ、チゴザサ、イヌノハナヒゲがそれぞれパッチ状に群生し、ミズトンボ、スイランが全体にわたって生育していた。
休耕田内のやや深い湛水箇所では返り咲きしたカキツバタが見られたが、これは自生とは判断しがたい。
また溜池土堤には結実期のキキョウが多数見られ、二次的自然度の高い場所であった。

Fig.20 湿った林縁草地に群生するタムラソウ。(兵庫県篠山市・林縁草地 2012.10/11)
地蔵尊の祠の前にある草地で、通年では草刈りが行われて新しいロゼットばかりが目立っていたが、この年は刈られずに開花していた。
土壌自体は長く手が入っていないようで、多くの個体が密に生育している。
やや湿った場所で、林縁にはイソノキ、ウメモドキ、キガンピなど、湿地を好む低木が見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北村四郎, 1981. キク科タムラソウ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.225. pl.208. 平凡社
北村四郎・村田源・堀勝, 2004 キク科タムラソウ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花編』 p.22. pl.6. 
牧野富太郎, 1961 タムラソウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 675. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984 タムラソウ. 『野草図鑑 4 たんぽぽの巻』 p.153. pl.151. 保育社
大場達之. 2001. キク科タムラソウ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1333〜1335. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. タムラソウ. 『六甲山地の植物誌』 210. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. タムラソウ. 『近畿地方植物誌』 27. 大阪自然史センター
小山博滋・黒崎史平・布施静香 2007. フトヒルムシロ. 兵庫県産維管束植物8 キク科タムラソウ属. 人と自然17:181. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:29th.Oct.2014

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