タヌキマメ Crotalaria sessiliflora  L. マメ科 タヌキマメ属
湿生植物 西宮市絶滅種(?)
Fig.1 (兵庫県姫路市・溜池土堤 2011.8/30)

Fig.2 (兵庫県姫路市・湿原 2011.8/30)

平地〜丘陵部の湿った草地、湿地周縁部、土手、ときに乾いた道端などにも生育する1年草。
全体に褐色〜淡褐色の長毛があり、茎は細いが硬く、高さ20〜80cm。
葉は線形〜狭長卵形、長さ4〜11cm、幅3〜10mm、鋭頭、ほとんど無柄。托葉は線形で、長さ約4mm。
総状花序は長さ1〜10cm、青紫色の花を2〜20花つける。苞は線形で、長さ5〜8mm、早落性。
萼は上下に2深裂し、さらに先端で上萼片は2裂し、下萼片は3裂し、全体が密に褐色の長毛に被われる。
萼は花時に長さ約1cm、花後に生長して1.5cm前後となり、豆果を包む。
旗弁はほとんど円形、幅7〜10mm。翼弁と竜骨弁はほぼ同長。子房は無毛。
豆果は長楕円形でふくれ、無毛または微短毛が生え、長さ10〜15mm、熟すと左右に2裂し、4〜30個の種子を含む。
近似種 : ヤエヤマタヌキマメ、ガクタヌキマメ

■分布:本州、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、中国、東南アジア、インド
■生育環境:平地〜丘陵部の湿った草地、湿地周縁部、土手、ときに乾いた道端など。
■花期:7〜10月
■西宮市内での分布:過去に北部での記録があるが、現在生育を確認できていない。絶滅した可能性がある。

Fig.3 茎と葉。(兵庫県姫路市・湿原 2011.8/30)
  茎には褐色〜淡褐色の軟毛が生え、細いが硬く、容易に折れない。葉は線形〜狭長卵形、鋭頭、ほとんど無柄。

Fig.4 葉の一部拡大。(兵庫県姫路市・湿原 2011.8/30)
  主脈は明瞭で、側脈は不明瞭。葉身は主脈に沿ってやや内折れし、葉縁には淡褐色の長軟毛が生える。
  若い葉では葉面にも軟毛が目立つ。生長した葉身の葉面は、ときに光沢のない粉白を帯びて見えることもある。

Fig.5 総状花序。(兵庫県姫路市・湿原 2011.8/30)
  茎頂や分枝した枝先に総状花序を直立する。花は青紫色で、褐色の長い毛に覆われた萼を持ち、花序軸に互生して2〜20花がつく。

Fig.6 タヌキマメの花。(兵庫県姫路市・溜池土堤 2011.10/8)
  マメ科のなかでも国内では、このように直立する総状花序を持ち、鮮やかな青紫色の蝶形花を開花するものはなく、花があればよく目立つ。
  南西諸島の同属のものは淡黄色の花を開花し、タヌキマメと間違えることはない。
  旗弁はほとんど円形、幅7〜10mm。翼弁と竜骨弁はほぼ同長で、竜骨弁は嘴状だが、2枚の翼弁に左右から被われ、ほとんど見えない。

Fig.7 花後の花序。(兵庫県姫路市・湿原 2011.8/30)
  花後、花は萼とともに花序軸に下垂する。この毛深い萼の様子をタヌキに見立て、タヌキマメの名がついたとの説がある。

Fig.8 萼に包まれた豆果。(兵庫県小野市・溜池畔湿地 2010.11/15)
  豆果は宿存する萼に包まれて熟す。画像は上萼片を取り除いて豆果を露出させたもの。豆果は左右に2裂する。

Fig.9 横から見た萼裂片と豆果。(兵庫県小野市・溜池畔湿地 2010.11/15)
  萼裂片は上萼片と下萼片とに分かれ、上萼片は2裂し、下萼片は3列する。豆果の先には下向きに曲がった花柱が宿存する。

Fig.10 豆果内部。(兵庫県小野市・溜池畔湿地 2010.11/15)

Fig.11 種子。(兵庫県小野市・溜池畔湿地 2010.11/15)
  種子は心状広卵形で径約1.8mm、表面には光沢があり、濃褐色に熟す。

他地域での生育環境と生態
Fig.12 湿原にまばらに群生するタヌキマメ。(兵庫県姫路市・湿原 2011.8/30)
溜池畔に広がる貧栄養〜中栄養な湿原の、トダシバ、チガヤが進出する中栄養寄りの部分に生育している。
同所的にゴマクサ、ヒメシロネ、ミズトンボ、ワレモコウ、オミナエシ、コシンジュガヤ、ヒメヒラテンツキなどが見られた。

Fig.13 湿原周縁部に群生するタヌキマメ。(兵庫県姫路市・湿原 2011.8/30)
湿原周縁部のチガヤが優占する箇所にタヌキマメが群生していた。
チガヤの草丈が高いためか、ここに生育するものは草丈が80cmと大きく、分枝も多い。

Fig.14 農耕地の土手に生育するタヌキマメ。(兵庫県加東市・水田土手 2011.9/19)
圃場整備された水田が広がる農耕地の土手にタヌキマメが点在していた。
圃場整備がなされているものの、一部では激しい攪乱を受けなかった場所もあったようで、より水分条件のよい場所にトカイコモウセンゴケ、ナガボノワレモコウも見られた。
タヌキマメはトウカイコモウセンゴケが密集するあたりよりも下方の溝の近くに、多くの個体が生育していた。

Fig.15 溜池土堤で刈り込みに遭ったタヌキマメ。(兵庫県姫路市・溜池土堤 2011.10/8)
草刈り管理の行き届いた溜池土堤や土手に生育するものは、秋に高さ10cm程度で開花しているものを見ることがある。
同所的にはツリガネニンジン、ススキ、チガヤ、コマツナギ、ヒナギキョウ、カナビキソウ、ハイメドハギ、ヤハズソウが見られた。
この土堤直下の排水路周辺では草刈りを免れた集団が生育して、草丈50cm余りに成長し、すでに果実期で多数の豆果を結実しており、開花は見られなかった。

Fig.16 水田の畦に生育するタヌキマメ。(兵庫県加西市・水田の畦 2011.10/19)
播磨地方の自然度の高い水田では畦にタヌキマメが生育している場所がある。
キツネノマゴ、メヒシバ、エノコログサ、コブナグサ、チドメグサ、シロツメクサ、ツユクサ、ノアザミなどの畦畔雑草とともに生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大橋広好, 1982. マメ科タヌキマメ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.193. pl.184. 平凡社
村田源, 2004 タヌキマメ. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.93. pl.22. 保育社
浜口哲一. 2001. マメ科タヌキマメ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 904. 神奈川県立生命の星・地球博物館
牧野富太郎, 1961 タヌキマメ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 299. 北隆館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. タヌキマメ. 『六甲山地の植物誌』 141. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. タヌキマメ. 『近畿地方植物誌』 82. 大阪自然史センター
赤井賢成・福岡誠行・黒崎史平 2002. タヌキマメ. 兵庫県産維管束植物4 マメ科. 人と自然13:159. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:6th.Dec.2011

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