トダシバ Arundinella hirta  (Thunb.) C.Tanaka イネ科 トダシバ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・溜池畔 2007.8/30)

日当たりの良い原野、路傍、水田の畦、休耕田、湿地など、多様な環境に適応力をもつ多年草。
山野で見かける最も普通なイネ科植物である。
やや大型で、高さ60〜150cmになり、普通、地下には横走する根茎がある。
葉面や葉鞘には毛が生え、ときに密生する(ケトダシバ)。
花序は円錐花序で、長さ8〜30cm。花序中軸から多数の横枝を出し、数多くの小穂がほぼ2列に並んで付く。
小穂は長さ3.5〜4.5mm、1個の雄性小花と、1個の両性小花からなり、緑色、または暗紫色をおびる。
芒は無いか、または短く、不完全。
和名は東京都の荒川流域の戸田ヶ原に多産したことから。
本種は変異が多く、ケトダシバのほか、葉面や葉鞘にほとんど毛のないウスゲトダシバなど、様々な変種が認められているが、
ここでは、一括してトダシバとした。

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国、ウスリー
■生育環境:日当たりの良い山野、水田の畦、休耕田、湿地など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:ほぼ全域に分布するが、北部に行くほど多い。

Fig.2 葉鞘に粗毛を密に開出した個体。(西宮市・原野 2007.8/31)
  西宮市内では、このようなタイプのものがほとんどである。

Fig.3 開花前の花序枝。(西宮市・水田の畦 2008.9/22)
  開花前の花序枝の横枝や小穂の柄はともに花序枝に密着気味で開出しない。

Fig.4 開花期の花序。(西宮市・水田の畦 2008.9/22)
  小穂には柄があり、花序枝の横枝に2列になってつくが、並びが不明瞭なものも多い。
  開花期には花序枝の横枝や小穂の柄はやや開出するようになる。
  花序中軸の下方には開出毛があるのが見える。

Fig.5 果実期の花序。(西宮市・溜池畔 2007.11/18)
  開花が終わると、小穂の柄や横枝は再び花序枝に密着するように閉じる。

Fig.6 小穂の苞穎には明瞭な3脈があり、芒はない。(西宮市・溜池畔 2007.11/18)
  小穂の柄には粗い微短毛があって、ざらつく。

Fig.7 小穂の構造。小穂には6個の穎がある。(西宮市・溜池畔 2007.11/18)
  ひとつの小穂は、1個の雄小花と、1個の両性小花からなる。
  雄小花は、本来の両性小花が退化したもの。


Fig.8 護穎と内穎に固く包まれた穎果(上)から、穎果を取り出したところ(下)。(西宮市・溜池畔 2007.11/18)
  両性小花は熟すと穎果となり、護穎と内穎に堅く包まれ、その状態のまま小穂から落果する。
  上:内穎側。内穎には縁の近くに左右2脈ある。これは進化する途上で、2個の苞葉が合着した名残だという。
    内頴と護穎基部には毛が束生する。
  下:内頴と護穎を強引に開くと、中から褐色の穎果が現れる。穎果の基部には短い糸状の鱗皮が残存する。
    鱗皮は花被が退化したものである。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.9 秋風になびく溜池畔のトダシバ群落。(西宮市 2007.11/18)
溜池畔のこの群落では、トダシバが生育しはじめる前は、ヌマトラノオの大群生が見られ、季節的な棲み分けが見られる。

Fig.10 遷移が進みつつある貧栄養な湿地に、ヌマガヤとともに生育するトダシバ。(西宮市 2006.9/22)
小さな小穂を密につけているほうがトダシバで、長い小穂を花序枝の先端にまばらにつけている大型のものがヌマガヤ。
両種が混生しているのは、市内では比較的良く見かける光景。トダシバが湿地に見られるのは遷移が進みつつある証拠である。

他地域での生育環境と生態
Fig.11 河畔の草地で開花したトダシバ。(兵庫県篠山市 2009.9/14)
トダシバは適応範囲が広く、乾いた草地から山間の湿地まで広く生育する。
河川の護岸上の草地で、ススキとともに秋の到来を告げていた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. イネ科トダシバ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.101〜102. pls.84. 平凡社
小山鐡夫, 2004 イネ科トダシバ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.361. 保育社
牧野富太郎, 1961 トダシバ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 746. 北隆館
藤本義昭. 1995. イネ科ダシバ属. 『兵庫県イネ科植物誌』 47〜50. 藤本植物研究所
古川冷實. 2001. イネ科トダシバ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 348. 神奈川県立生命の星・地球博物館
桑原義晴, 2008 イネ科トダシバ属. 『日本イネ科植物図譜』 p.70〜73. pls.12. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. トダシバ. 『六甲山地の植物誌』 225. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. トダシバ. 『近畿地方植物誌』 169. 大阪自然史センター
矢野悟道・竹中則夫. 1978. 甲山湿原(仁川地区)の植生調査並びに保全に関する報告書. 西宮市自然保護課

最終更新日:8th.Nov.2009

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