ツボゴケ Plagiomnium cuspidatum   (Hedw.) T.J.Kop. チョウチンゴケ科 ツルチョウチンゴケ属
抽水〜陸生蘚類
Fig.1 (西宮市・湧水泉の石垣 2015.2/17)

やや乾いた地上から休耕田や畦畔にまで現れるふつうな蘚類。雌雄同株。
匍匐茎は湾曲し、先が地上に接したところから新しく成長してランナーのようになる。
匍匐茎の葉は卵形で鋭頭、長さ2〜3.5mm、基部は下延する。
葉縁の舷は明瞭で、上半には単細胞の鋭い鋸歯がある。
中肋は葉頂に届き、葉身細胞は比較的小型、6角形で、長さ15〜25μ、厚角。
直立茎の上部の葉は大きくて鋭くとがる。

コツボゴケP. trichomanes)は葉身細胞の粒が揃い、長さ20〜25μ、雌雄異株。ツボゴケより小型で、よりふつうに見られる。
近似種 : コツボゴケ

■分布:北海道、本州 ・ 北半球。
■生育環境:やや乾いた地上から休耕田や畦畔など。
■西宮市内での分布:市内では北部で見られる。

Fig.2 全草標本。(兵庫県篠山市・湧水泉 2013.1/27)
  茎は5〜10cm以上に達し、分枝は少ない。

Fig.3 匍匐茎。(兵庫県篠山市・湧水泉 2013.1/27)
  匍匐茎は湾曲して、接地した場所で仮根を出す。

Fig.4 接地箇所からランナー状に伸びた新茎(下の2本)。(兵庫県篠山市・湧水泉 2013.1/27)

Fig.5 匍匐茎の葉。(兵庫県篠山市・湧水泉 2013.1/27)
  画像の葉は湧水泉中に沈水状態にあった葉で、長さ5mmと大きくなっている。葉縁の上半には鋸歯がある。

Fig.6 中肋は先端に達し、葉先は鋭く尖る。鋸歯は単細胞(兵庫県篠山市・休耕田 2014.11/28)

Fig.7 葉身細胞。(兵庫県篠山市・休耕田 2014.11/28)
  葉身細胞は比較的小型で大きさにバラつきがあり、6角形、長さ15〜25μ、厚角。1目盛は1.6μ。

Fig.8 葉身基部。(兵庫県篠山市・休耕田 2014.11/28)
  葉縁には線形の細胞が3〜4層並んで明瞭な舷をつくる。葉の基部は下延するが、翼部分に明瞭な翼細胞はない。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.10 多湿な石垣に生育するツボゴケ。(西宮市・湧水泉の石垣 2015.2/17)
村落内にある湧水泉の石垣や地上などに、小さな塊となって生育していた。
湧水がそばにあるため湿度の高い状態になっており、石垣ではジャゴケ、ミヤマサナダゴケ、ヒメコクサゴケ、ノキシノブ、ヤブソテツ、
オクマワラビ、コバノヒノキシダなどとともに生育している。
周辺の地表ではアオハイゴケ、ケゼニゴケ、クビレケビラゴケ、ミドリヤスデゴケなどとともに生育している。

他地域での生育環境と生態
Fig.11 畦を覆うツボゴケ。(神戸市・水田 2014.12/11)
丘陵地帯の谷津の水田の畦を、ツボゴケがマット状に群生して覆っていた。
ツボゴケが覆う畦は棚田の土手に接した湧水によって湿っている場所で、チガヤのほかアゼスゲ、キツネノボタン、チドメグサ、セリなどが生育している。
湧水の染み出している土手の部分にはヤマラッキョウ、ワレモコウ、シシウド、ノアザミ、サワヒヨドリなどが生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
岩槻善之助, 1972. ツルチョウチンゴケ属. 岩槻善之助・水谷正美『原色日本蘚苔類図鑑』 p.121〜123. pl.16. Fig.59. 保育社


最終更新日:3rd.Mar.2015

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