ヤチカワズスゲ Carex omiana  Franch. et Savat. カヤツリグサ科
湿生植物
Fig.1 (西宮市・溜池畔 2007.5/12)

Fig.2 (西宮市・用水路脇 2009.5/28)

湿地や溜池畔、棚田の水路脇に生育する多年草。貧栄養〜やや中栄養な環境で見られる。
根茎は短く、ゆるく叢生する。葉は幅1.5〜2.5mmで、花茎より短い。
花茎は高さ30〜60cm、鋭稜があってやや平滑。花序は2〜5個の小穂をやや接近してつける。
小穂は雌雄性で、長さ6〜15mm、栗褐色または少し緑色を帯び、光沢がある。下方の小穂ほど雌花部が多くなり、頂小穂では基部の雄花部が長くなる。
雌鱗片は果胞よりも短く、鋭頭または鈍頭で、茶褐色。果胞は卵状披針形、長さ4〜5mmで嘴はながく、基部は海綿質に肥厚する。
果胞は熟すと著しく反り返る。雌蕊柱頭は2岐する

北海道と本州の高層湿原には小型のカワズスゲ(var. monticola)があり、高さ10〜30cmで、果胞の長さは3.5〜4mm。

■分布:本州、沖縄
■生育環境:湿地や溜池畔、棚田の水路脇など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では北部を中心に、湿地や溜池畔、水路脇などに見られる。自然度の高い場所に多い。

Fig.3 ヤチカワズスゲの花序。(兵庫県三田市・溜池畔 2013.5/23)
  他に類を見ない特徴的な花序で、まるで鉄条網のように見える。

Fig.4 花序の拡大。(西宮市・溜池畔 2007.5/12)

Fig.5 小穂の拡大。(西宮市・溜池畔 2007.5/12)
  上部の果胞が発達した部分が雌小穂で、その下の鱗片から花糸が出ている部分が雄小穂。
  花後、雌花の果胞は開出して、外側に反る。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.6 池畔にホタルイとともに生育するヤチカワズスゲ。(西宮市・溜池畔 2006.5/12)
画像中のホタルイは野生動物による食害が激しく、茎の先端部が齧られてほとんどない。
ヤチカワズスゲにはそのような食害は見られず、あまり野生動物の好みではないようだ。

Fig.7 棚田の用水路脇で生育するヤチカワズスゲ。(西宮市・用水路脇 2006.5/13)
耕作される以前は、湿地であっただろう湿田の用水路脇に、ゴウソ、タチスゲ、マツバスゲなどとともに見られた。
この水路周辺ではアギナシ、サワギキョウ、ホソバリンドウ、ミズギボウシなど、西宮市北部を代表するような湿生植物が多かった。

他地域での生育環境と生態
Fig.7 溜池畔に生育するヤチカワズスゲ。(兵庫県三田市・溜池畔 2013.5/23)
低山の山際にある溜池の縁に沿ってヤチカワズスゲが点在していた。
同所的にイヌノハナヒゲ、ゴウソ、タチスゲ、ホタルイ、ニガナ、ホソバリンドウなどが生育し、土堤上にはケシンジュガヤが生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. ヤチカワズスゲ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.166. pl.147. 平凡社
小山鐡夫, 2004 ヤチカワズスゲ. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.260. pl.65. 保育社
勝山輝男. 2001. スゲ属カワズスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 449. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男, 2005. カワズスゲ節. 『日本のスゲ』 60〜62. 文一総合出版
谷城勝弘, 2007. ヤチカワズスゲ. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 44. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヤチカワズスゲ. 『六甲山地の植物誌』 246. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ヤチカワズスゲ. 『近畿地方植物誌』 159. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ヤチカワズスゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:155.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:12th.Mar.2014

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