ヒシモドキ | Trapella sinensis Oliver | オオバコ(ヒシモドキ)科 ヒシモドキ属 |
水生植物 > 浮葉植物 絶滅危惧TB類(EN)・兵庫県RDB Aランク種 |
Fig.1 (兵庫県播磨・溜池 2015.8/6) 湖沼、溜池、水路などに生育する1年生の浮葉植物。 茎は水面まで伸張した後、水面に横たわる。葉は対生。 沈水葉は質薄く、披針形、長さ1〜2cm、波状縁または粗い鋸歯がある。 浮葉は有柄。葉身は三角状卵形〜腎円形、長さ1.5〜3cm、幅1.5〜4cm、低い鋸歯があり、基部は浅い心形〜切形。 花には開放花と閉鎖花があり、葉腋にふつう単生する。閉鎖花は無柄で細長いつぼみ状。 開放花は花柄があって直立し長さ1〜5cm、花柄頂端に淡紅色の筒状花をつける。 萼筒は子房と合着し長さ約8mm、先は5裂し、裂片は3角形で長さ約2mm、基部に突出する付属体があり、果時に刺状に伸びる。 花冠はやや横向きで、筒状、長さ2〜2.5cm、日中に開花し、花径は1.5〜2cm、先は5裂し、裂片は半円形。 雄蕊は4個で花冠の内側基部につき、2強雄蕊で、外側の2個は長いが葯は発達せず花粉はできない。 雌蕊は1個、花柱はは短い花糸とほぼ同長、2裂した先に柱頭がつく。子房中位。 閉鎖花は開花期間中にふつうに見られるが、開放花は開花条件が限られるようで稀で、結実もやや悪い。 果実は萼筒が長く伸びて円柱形となり、長さ1.2〜2cm、時に発達した翼があり、萼裂片基部の付属体が伸張した長さ2〜6cmの刺状突起が3〜5本ある。 ■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国 ■生育環境:湖沼、溜池、水路など。 ■花期:7〜9月 ■西宮市内での分布:分布していない。兵庫県下でも稀である。 |
||
↑Fig.2 水面上に伸びる茎。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/6) 茎は水面まで伸張した後、水面に横たわってさらに伸びる。 |
||
↑Fig.3 生育途上の沈水葉をつけた個体。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/6) 浮葉に先立って、水中で沈水葉をつける。沈水葉は質薄く、披針形、長さ1〜2cm、波状縁または粗い鋸歯がある。 沈水葉は茎が水面に伸びるにつれて、次第に浮葉に形状が近づいている。 |
||
↑Fig.4 粗い鋸歯を持った沈水葉。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/6) 沈水葉は茎上部のものほど鋸歯が目立つ。 |
||
↑Fig.5 浮葉。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/30) 浮葉は有柄。葉身は三角状卵形〜腎円形、3脈があり、長さ1.5〜3cm、幅1.5〜4cm、低い鋸歯があり、基部は浅い心形〜切形。 |
||
↑Fig.6 浮葉の裏面はふつう赤紫色を帯びる。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/30) |
||
↑Fig.7 開花全盛期のヒシモドキ。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/6) 花は葉腋にふつう単生し、直立した花柄の先に淡紅色の筒状花をつける。 |
||
↑Fig.8 ヒシモドキの開放花。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/6) 萼筒は子房と合着し長さ約8mm、先は5裂し、裂片は3角形で長さ約2mm、基部に突出する付属体があり、果時に刺状に伸びる。 花冠はやや横向きで、筒状、長さ2〜2.5cm、日中に開花し、花径は1.5〜2cm、先は5裂し、裂片は半円形。 画像では萼筒基部からやや開出気味に突出した、小さく短い付属物が見えている。 |
||
↑Fig.9 花筒。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/30) 花筒の内側は黄色で、赤紫色の条があり、表面には長毛が生える。 画像で見えているものは長い花糸を持った2強雄蕊のうち1個と、葯が発達して花粉を持つ短い雄蕊2個。 これらの雄蕊に隠されて、雌蕊は見えない。 |
||
↑Fig.10 訪花昆虫?。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/30) 花筒部分にミズアブの仲間らしき昆虫が止まっていたが、実際には訪花・吸蜜は確認していない。 しかしながら、近くに生育しているヒシの花で訪花・吸蜜していたので、ヒシモドキにも訪花している可能性はある。 |
||
↑Fig.11 受粉した花後間もない花。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/30) 萼筒の付属物が伸び始めている。 |
||
↑Fig.12 水没した開放花の果実。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/30) 花後、果実形成期の若い果実は水没して熟す。最右の果実は刺状突起が3本となっている。 |
||
↑Fig.13 閉鎖花(上)と閉鎖花の若い果実。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/30) 閉鎖花は無柄で細長いつぼみ状。閉鎖花は開放花よりも結実率がはるかに高い。 |
||
↑Fig.14 開放花の果実(左)と閉鎖花の果実(右)。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/30) 開放花の果実は必ず発達した翼が見られるが、閉鎖花の果実では翼の発達は悪いか、稜状に近くなる。 画像のものはいずれも刺状突起が4本であるが、撮影のためにいずれも1本を切り落としているため。 |
||
↑Fig.15 発芽間もない幼植物。(自宅育成 2009.5月) 双葉は線状長楕円形、鈍頭。初期の本葉は三角状卵形。 |
生育環境と生態 |
Fig.16 溜池で浮葉植物群落を形成するヒシモドキ。(兵庫県播磨・溜池 2015.8/6) 中栄養な溜池でオニバス、ヒシとともに水面を覆って浮葉植物群落を形成していた。 浮葉植物3種のうち、ヒシモドキは水深60〜80cm程度の場所に多く、次いでオニバス、ヒシの順に生育領域の水深が深くなった。 オニバスが生育しているのは、軟泥が水底に深く堆積している部分に限られた。 他に開放水面にはオオトリゲモが広く繁茂して優占しており、クロモ、ミズユキノシタ、フラスコモsp.、シャジクモが生育している。 |
||
Fig.17 小さな溜池で密生するヒシモドキ。(京都府・溜池 2014.9/14) 丘陵部にある、かつてはハスが栽培されていたと見られる、泥が溜まって水深の浅くなった溜池の、水面全体を覆うように生育している。 水源は周辺からの湧水に依存しているためか、ハスは衰退しつつあり、栄養塩類はやや不足しているのではないかと思われる。 ここの集団は野生では開花が確認されていないが、Y氏が室内育成したところ開放花をつけ開花したとのことである。 生体とともに育成されており、生体への給餌と適度な水換えによって、開花するのに適した栄養状態が保たれたのだろう。 この池には他にホッスモ、イトトリゲモ、ヒルムシロが水中に、ナガエミクリ、コナギが抽水状態で生育していた。 |
||
【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 角野康郎, 1994 ヒシモドキ. 『日本水草図鑑』 148〜150. 文一統合出版 大滝末男, 1980 ヒシモドキ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 22,23. 北隆館 北川政夫, 1982. ヒシモドキ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.129. pl.108. 平凡社 角野康郎, 2014 ヒシモドキ. 『日本の水草』 281. 文一統合出版 村田源. 2004. ヒシモドキ. 『近畿地方植物誌』 38. 大阪自然史センター 角野康郎 2003. ヒシモドキ. 兵庫県産維管束植物5 ゴマ科. 人と自然16:113. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:2nd.Oct.2015 |