アリマウマノスズクサ Aristolochia onoei  Franch. et Savat. ex Koidz.
  里山・山地・林縁の植物 ウマノスズクサ科 ウマノスズクサ属
Fig.1 (西宮市・林縁 2007.5/24)
丘陵〜低山地の林縁、雑木林内に生育する、つる性の多年草。
木性のつるを伸ばし、全体に短い毛がある。葉は長3角状心形〜鉾形で、しばしば3深裂し、側裂片は丸い。
花は葉腋に1個ずつつき、萼は外面に短い軟毛を密生する。萼筒は基部では下を向き、中部で強く曲がって上を向く。
舷部は丸くて浅く3裂し、長さ約1.5cm。萼の筒部内面は黄色で、舷部の内面は黄色からすぐに紫褐色となる。

【メモ】 兵庫県では基岩が花崗岩または流紋岩質で、比較的乾いた林道脇や林縁、湿度の高い渓流畔から、日照条件の悪い乾いた雑木林内にも見られる。
     日照条件がよく、腐植質の多い疎林では生育条件が満たされるのか、盛んに分枝して多数の花をつける。
オオバウマノスズクサA. kaempferi)はアリマウマノスズクサより大型で、毛は長くて多く、舷部の長さは2cmくらい。本州関東以西〜九州。
ウマノスズクサA. debilis)はふつう全体無毛、花は葉腋に1個つき、萼筒は少し湾曲し、舷部の先端は鋭尖頭。本州関東以西〜九州。
マルバウマノスズクサA. contorta)はふつう全体無毛、花は葉腋に数個集まってつき、萼筒は少し湾曲し、舷部の先端は長く糸状に伸びる。本州日本海側。
近縁種 : オオバウマノスズクサ、 ウマノスズクサ、 マルバウマノスズクサ
■分布:本州(西日本)、九州
■生育環境:林縁や疎林内。
■花期:5〜6月


Fig.2,3 葉身と葉裏。(西宮市・林道脇 2007.5/27)
  葉身は長3角状心形〜鉾形で、側裂片が丸く耳状に張り出し、ミッキーマウスの顔のように見える。
  葉裏や葉縁には柔らかい伏毛が生える。

Fig.4 アリマウマノスズクサの花。(西宮市・林縁 2007.5/24)
  花はオオバウマノスズクサと似るが、花の先端の広がった部分が外側に反ることにより区別できる。
  また、筒部の内側には斑紋は見られない。

Fig.5 花の縦断面。(兵庫県姫路市・林縁 2014.5/23)
  萼筒外面は短軟毛が密生するが、内面は無毛、黄白色。蕊柱室は暗紫色。舷部内面は黄色からすぐに紫褐色となる。
  花を縦に切ると、3匹の小さなハエと蚊が出てきた。うち2匹は画像中に見られる。

Fig.6 蕊柱室内面。(兵庫県姫路市・林縁 2014.5/23)
  暗紫色の蕊柱室の内面には、短い側糸のある長い毛が分枝しながら上向きに伸びている。
  ハエは逃げようともしないが、毛が脚に絡みついているのか、よほど魅力的なものが分泌されているのか、どちらか解らない。

Fig.7 蕊柱。(兵庫県姫路市・林縁 2014.5/23)
  雌性先熟で、雌性期から雄性期に移った直後のもの。
  花柱は3個あり、先が浅く2岐している。1個の花柱の外側には2組の葯(計4個)が癒合している。

Fig.8 花の変異。(兵庫県姫路市・林縁 2014.5/23)
  舷部の色や模様は変異に富み、画像のように条線のはいるもの、淡褐色のものなど様々である。

Fig.9 密集してついた花。(西宮市・林縁 2007.5/24)
  日照条件の良好な疎林の林縁に生育する株では、ひとつのつるに多数の花をつけることがある。

Fig.10 裂開した刮ハ。(西宮市・林縁 2009.11/24)
  刮ハは6裂し、内部には黒褐色で扁平な種子が縦に多数並んでいる。
  実生苗がいたるところに見られることから種子の発芽率は高いようである。

Fig.11 葉裏に産卵されたジャコウアゲハの卵。(西宮市・林道脇 2007.5/27)
  ウマノスズクサの仲間はジャコウアゲハの重要な食草となる。
  ウマノスズクサ類は植物体にアリストロキア酸(ウマノスズクサ属の属名から命名された)という毒性の強いアルカロイドを含み、
  ウマノスズクサを摂取したジャコウアゲハの幼虫は、この毒成分を体内に蓄積して鳥などから捕食されないように身を守る。
  ジャコウアゲハは産卵時に、この毒性の物質を含む粘液を卵の表面に付けて産卵し、卵も捕食者から守るという。
  孵化した幼虫は、まず最初に卵の殻を食べることによってアリストロキア酸を体内に取り込んで身を守る。
  画像の卵は内部にいる幼虫の頭部が黒く透けて見え、孵化寸前の状態である。

Fig.12 アリマウマノスズクサを食害するジャコウアゲハの幼虫。(西宮市・墓地 2010.7/9)

生育環境と生態
Fig.13 渓流畔の岩壁に生育するアリマウマノスズクサ。(西宮市・岩壁 2010.6/17)
六甲山系では雑木林のみならず到るところで生育しているのを見かけるが、開花している個体は少ない。
ここでは岩壁から垂れ下がった個体が数個の花をようやくつけていた。

Fig.14 林床に生育するアリマウマノスズクサ。(西宮市・林床 2013.6/10)
日陰の林床にかなり大きく生育している個体が見られたが、ここに生育するものに花やつぼみは見られない。
アリマウマノスズクサが花をつけるためには、日射が不可欠のように思われる。
生育場所はやや湿っており、リョウメンシダ、キヨスミヒメワラビ、ベニシダ、ミゾシダ、フモトシダ、アリマイトスゲ、
テイカカズラ、ツルアリドオシなどが生育している。



最終更新日:23rd.Nov.2014

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