カヤラン Sarcochilus japonicus  (Reichb. fil.) Miq.
  着生植物 

  兵庫県RDB Cランク種
ラン科 カヤラン属
Fig.1 (兵庫県篠山市・果樹園のウメの木 2013.5/9)

常緑樹林内やスギ・ヒノキの植林地内の樹幹や枝、岩上に着生する多年草。
気根は茎の中部以下から出て細長く伸びる。茎は短くて細く、長さ3〜7cm、分枝することがなく、古い葉鞘に包まれる。
葉は開花個体では5〜20個、左右2列に互生し、披針形で長さ2〜4cm、幅4〜6mm、鈍頭、基部は狭くなって鞘に関節する。
花茎は細く、葉腋から出て、2〜5花をつけ、中央に小型の1鱗片葉がある。苞は広卵形で、開出し、長さ約3mm。
花は淡黄色。花披片は開出するが、上半は内曲し、長さ7〜8mm、狭長楕円形。側花弁は萼片より小さく、鈍頭。
唇弁は浅く3裂し、側裂片は耳状に左右に突出し、中裂片は微小。蕊柱は1mm、腹面の突起した部分と唇弁の基部は関節する。
葯は広卵形、2室。花粉塊は2個で、球形、ろう質。

【メモ】 本種は天候が荒れた翌日などに、植林地の林床に枝とともに落ちているのをよく見かける。
     多湿の林床であれば、5月になって林床で落ちたまま花を咲かせているものも少なくない。
近縁種 : ムカデラン、モミラン、マツラン

■分布:本州(岩手県以南)、四国、九州
■生育環境:常緑樹林内やスギ・ヒノキの植林地内の樹幹や枝、岩上に着生。
■花期:3〜5月

Fig.2 気根。(兵庫県篠山市・林縁のウメの木 2013.2/6)
  気根は茎の中部以下から出て、草体に比べて数倍も長く伸びる。
  スギ植林地に枝ごと落ちて開花していたもの(14年生)を調べたところ、13本の気根を出し、多くは10cm以上伸び、長いものでは28cmに達した。
  画像のものでは黄色の矢印でしめしたのが気根で、樹幹の四方に伸びているのが解る。

Fig.3 茎と葉。(兵庫県丹波市・渓流畔のサクラの古木 2013.1/24)
  葉は左右2列に互生し、披針形で鈍頭、基部は狭くなって鞘に関節し、鞘は細い茎を包む。
  葉は年に1枚だけ出す。したがってこの個体は5年ものということになる。

Fig.4 つぼみをつけた花序。(兵庫県加東市・寺院の石垣 2013.4/4)
  花序は開花前年の晩秋に伸び、固いつぼみまで出揃う。暖かくなりはじめる3月頃から、緑色のつぼみがふくらみはじめる。

Fig.5 総状花序。(兵庫県篠山市・果樹園のウメの木 2013.4/26)
  花茎はふつう分枝せず、中部には1枚の小型の鱗片葉(黄色矢印)がつく。総状花序にはふつう2〜5花をつける。
  花序軸は小花柄のつく部分で多少屈曲し、小花柄基部には苞(緑矢印)がつく。

Fig.6 開花したカヤラン。(兵庫県篠山市・果樹園のウメの木 2013.5/9)

Fig.7 下から見た花。(兵庫県篠山市・果樹園のウメの木 2013.5/9)
  下から拡大して見ると、ラン科の典型的な花を持っていることがわかる。
  唇弁の側裂片には赤い縞模様があって明瞭だが、中裂片は非常に小さく、小さな突起のように見える。

Fig.8 花の細部。(兵庫県篠山市・植林地林床の落枝 2013.5/9)

Fig.9 落下した枝についているカヤラン。(兵庫県篠山市・植林地林床の落枝 2013.5/9)
  枝ごと落下しても、草体が地表に付くことなく、かつ湿度が保たれた場所であれば、そのまま生育を続け開花する。

生育環境と生態
Fig.10 ウメの木に着生するカヤラン。(兵庫県篠山市・果樹園のウメの木 2013.5/9)
兵庫県内では、カヤランは冬期になっても極度な乾燥にさらされないような場所で生育が見られる。
丹波地方では頻繁に見かけ、特に渓流沿いの大木に多いが、山際の果樹園のウメの木やサクラ、植林地の針葉樹でも着生が見られる。
着床となる樹種はこれまでスギ、ヒノキ、ウメ、サクラ、カキ、タニウツギ、植え込みのクルメツツジの例を眼にしたが、web上で調べると、
他にもクスノキ、ビワ、アセビ、ニシキギ、モミ、マツなどの例が見られ、最も多いのがスギ、次にウメ、サクラと続いた。
ここの果樹園は北東に面した小さな沢が伏流する緩斜面に造られており、林床にはウマノアシガタ、ヤマネコノメソウ、セントウソウ、
イチリンソウ、オオバタネツケバナなど、湿った場所を好む草本が多く見られ、比較的湿度が保たれている場所であることがわかる。

Fig.11 寺院の石垣に着生するカヤラン。(兵庫県加東市・寺院の石垣 2013.4/4)
カヤランは石垣につく例はあまり見かけないが、ここでは北向きの苔むした石垣に着生していた。
5mほど離れた場所に池があり、それにより湿度が保たれているように思われる。
石垣には画像に見えるマメヅタのほか、ノキシノブ、オオバノイノモトソウ、ハカタシダ、ベニシダ、ヤブソテツが生育していた。


最終更新日:21st.May.2013

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