クチナシグサ Monochasma sheareri  (Moore) Maxim.
  里山・林縁・草地の植物 ゴマノハグサ科 クチナシグサ属
Fig.1 (西宮市・棚田の土手 2010.4/26)
里山の草地、土手、二次林の林縁などに見られる越年草(多年草?)。半寄生植物とされる。
茎は地表を這い、長さ15〜60cm、曲がった毛が散生する。
茎の上部の葉は線形または線状へら形で、先はとがり、両面に毛が散生し、長さ20〜35mm、幅2〜3mm。
花は上部の葉腋ごとに1個づつつく。花柄は長さ2〜8mm。
萼は花期に長さ8〜15mm、果実期には大きくなり長さ20〜25mm、萼裂片は線形で4〜10mm。
花冠は淡紅紫色で長さ10mm。刮ハは長さ8〜10mm。

【メモ】 クチナシグサは私の身近では決まって刈り込まれたネザサとともに見られる。
     ネザサがクチナシグサにとっての重要な奇主となっているのは、まず間違いないだろうと思っている。
     クチナシグサは年間総雨量1800m以下の乾いた地域にしか現れないという。
     開花株は晩秋になると根際に越冬芽を形成するのを多数観察している。
     図鑑では越年草となっているが、少なくとも兵庫県下のものは多年草である可能性が高い。
近縁種 : ウスユキクチナシグサ

■分布:本州(関東以西)、四国、九州
■生育環境:乾いた地域の里山の草地、土手、二次林の林縁など。
■花期:4〜5月

Fig.2 茎は地表を這い、上部で斜上する。(西宮市・棚田の土手 2010.4/26)
  葉は対生してつき、無柄、線形または線状へら形、全縁で、両面に毛が散生する。

Fig.3 花は葉腋につく。(西宮市・棚田の土手 2010.4/26)
  花には花柄があり、茎とともに曲がった毛が散生する。
  萼は筒形で10本の隆条があり、基部に線形の長い2個の小苞を持ち、それぞれ上部で4裂し、裂片は長く広線形。

Fig.4 花冠。(西宮市・棚田の土手 2010.4/26)
  花冠は太い筒形で、先は5裂して唇形となる。下唇の喉部には黄色の斑紋があり目立つ。

Fig.5 クチナシグサの刮ハ(左)。(西宮市・棚田の土手 2009.5/29)
  萼は果実期に入ると大きくなって刮ハを覆って保護する。その形状はクチナシの果実に似るためクチナシグサの名が起こった。

Fig.6 刮ハ。(西宮市・棚田の土手 2015.6/9)
  萼の下面は刮ハの一部が露出する。刮ハは狭卵形、長さ8〜10mm。

Fig.7 裂開した刮ハ。(西宮市・棚田の土手 2015.6/9)
  熟した刮ハは横に2裂していた。

Fig.8 種子。(西宮市・棚田の土手 2015.6/9)
  種子は広楕円形、長さ15〜17mm、淡褐色、表面には横条があり、条の上には毛が生えている。

Fig.9 晩秋の草体。(西宮市・棚田の土手 2011.11/17)
  秋には葉は完全に線形となって長く伸び、赤紫色を帯びる。開花期とは葉姿が違っており、まるで別種のように見える。

Fig.10 越冬芽の形成。(西宮市・棚田の土手 2011.11/17)
  Fig.6の草体の根際に形成された越冬芽。越冬芽は5mm以下でごく小さく、多毛で、地表に形成される。

Fig.11 春先の草体。(西宮市・農道脇 2010.4/5)
  草体は強く赤紫色を帯びて毛深く、多数の節間のつまった茎を地表に放射状に広げている。
  葉は小さく縮こまって茎に接してたたまれている。
  この後、陽気が続くと急激に成長して、ひと月足らずで開花にいたる。

生育環境と生態
Fig.12 棚田と二次林の間の土手に生育するクチナシグサ。(西宮市・土手 2007.6/3)
和名の由来となったクチナシ様の果実を非常に多くつけた個体があちらこちらに生育していた。
生育箇所はシイタケの原木採取が現在も行われている二次林と棚田の間に生じた斜面草地で、草刈りが年に数度行われる場所である。
草刈りによって矮小化したネザサの間に、リンドウ、コマツナギ、キジムシロ、ツリガネニンジン、クルマバナ、ワレモコウといった
草原性植物とともに生育している。

Fig.13 溜池の土堤上に生育するクチナシグサ。(兵庫県三田市・溜池土堤 2010.4/30)
草刈り管理されて矮小化したネザサがシバ状に生育する溜池の堤体に、多数の個体が生育している。
このような場所では同じ半寄生植物であるカナビキソウが見られることも多く、ここでも混生していた。
他にナンテンハギ、ヒメハギ、イタドリ、ヒカゲスゲ、ノゲヌカスゲ、アオスゲが同所的に生育し、秋期にはメガルカヤが多い。


最終更新日:23rd.Jul.2016

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