ニオウヤブマオ
  (オニヤブマオ、サイカイヤブマオ)
Boehmeria gigantea  Satake
  海岸・原野の植物 イラクサ科 カラムシ属
Fig.1 (兵庫県香美町・礫浜 2011.7/27)
海岸とその周辺の原野環境に生育する多年草。
茎や葉はヤブマオよりも剛強で、高さ70〜150cm。
葉は対生し、卵状長楕円形〜卵円形、長さ10〜26cm、先はとがり、厚みがあって表面はごわつき、縁は重鋸歯とならない。
葉裏には短毛が密生し、ビロード状になる。
花は単性で雌雄同株。雄花序は茎下方の葉腋につき、花序は枝分かれする。雄花は4個の花被片と、4個の雄蕊からなる。
雌花序は茎上方の葉腋につき、多数の花が球状に集合して、花軸状にやや密につき、穂状花序状となる。

【メモ】 カラムシ属のニオウヤブマオ、オニヤブマオ、サイカイヤブマオは研究者によって分類の仕方が様々だが、
     ここでは「兵庫県産維管束植物 2」 イラクサ科 (福岡、黒崎 2000)の分類にしたがい、ニオウヤブマオとした。
近縁種 : ヤブマオ、ツクシヤブマオ、メヤブマオ、カラムシ、ナンバンカラムシ

■分布:本州、四国、九州、沖縄 ・ 中国、インドシナ
■生育環境:海岸とその周辺の原野環境など。
■花期:8〜10月

Fig.2 葉。(兵庫県香美町・礫浜 2011.7/27)
  葉はヤブマオよりも剛強で、葉脈がくぼんでごわつく。葉縁は単鋸歯が整然と並び、ヤブマオのように重鋸歯とならない。

Fig.3 葉表面。(兵庫県新温泉町・礫浜 2011.7/27)
  葉はヤブマオよりも剛強で、厚味があり、葉脈は網状脈まで細かくくぼんでごわつく。
  葉縁には単鋸歯が整然と並び、ヤブマオのような重鋸歯とはならない。

Fig.4 葉裏拡大。(兵庫県新温泉町・礫浜 2011.7/27)
  葉裏には短毛が密生し、触るとビロード状の感触がある。

Fig.5 雄花序。(兵庫県新温泉町・礫浜 2011.7/27)
  雄花序は茎下方の葉腋につき、分枝した円錐花序となる。

Fig.6 雄花序の雄花。(兵庫県新温泉町・礫浜 2011.7/27)
  雄花は数花が集まったものが、やや密に花軸にじかにつく。花被片、雄蕊ともに4個あり、花弁はない。

Fig.7 雌花序。(兵庫県新温泉町・礫浜 2011.7/27)
  雌花序は茎上方の葉腋につき、分枝しない。

Fig.8 雌花序の拡大。(兵庫県新温泉町・礫浜 2011.7/27)
  雌花序には多数の雌花が球状に集まったものが、基部に苞を伴ってやや密に並び、穂状花序状となる。

Fig.9 初夏の成長期の草体。(兵庫県新温泉町・礫浜 2011.5/26)
  茎は剛強で、半ば木質化して、枯れても風雪に耐えて腐朽することなく、次の年の初夏となっても残っている。

生育環境と生態
Fig.10 海崖直下の転石の多い礫浜に群落を形成するニオウヤブマオ。(兵庫県新温泉町・礫浜 2011.7/27)
ニオウヤブマオは植物の生育場所としては条件の厳しい海岸の風衡地に適応した大型の草本で、主に海岸の後背地の原野的環境に生育する。
ここでは競合種の少ない大きな転石が堆積する礫浜と海崖の境界付近で群落を形成しているのが見られた。
大型の草本ではニオウヤブマオが見られるのみで、同所的にはハマヒルガオ、スナビキソウ、キジカクシ、ハマエノコロ、ハマボッス、
ススキ、エビヅルなどがまばらに生育しており、このうちススキ、エビヅルは海崖の草地からかろうじて進入できた種だろう。

Fig.11 海崖の自然草原に生育するニオウヤブマオ。(兵庫県新温泉町・海崖の草地 2011.7/27)
海崖では急傾斜ゆえに表土が堆積して発達することなく、高木の生育を許さず、そのため低木を伴う自然草原が成立する場所が点在する。
ニオウヤブマオはこういった場所にも進出しており、急傾斜の草原中にまとまった群落を形成することなく、点在している。
ここではススキ、ヨモギがやや優勢な草原に、画像に見えるコオニユリ、エビヅルのほか、オオバギボウシ、キジカクシ、アサツキ、ユウスゲ、
ショウジョウバカマ、ヒオウギ、ショウジョウスゲ、イソアオスゲ、アズマガヤ、アオカモジグサ、キツネノボタン、アキカラマツ、ミソハギ、
カワラナデシコ、タイトゴメ、マルバマンネングサ、メドハギ、イワガサ、タニウツギ、ウツギ、ニッコウバイカウツギ、ヘクソカズラ(ハマサオトメカズラ)、
アキノタムラソウ、ツリガネニンジン、ハマボッス、ハマベノギク、ワカサハマギク、ヤクシソウ、オニヤブソテツなど、豊富な植生が観察された。

Fig.12 海浜の岩壁に生育するニオウヤブマオ。(兵庫県香美町・海崖 2011.7/27)
ニオウヤブマオは海崖の基岩のわずかな隙間や岩棚にも生育している。
兵庫県の日本海側のこのような場所ではコオニユリ、タイトゴメ、オニヤブソテツとともに見られることが多い。


最終更新日:10th.Sept.2011

<<<戻る TOPページ